第11話 使者の依頼

「今日、王宮から使者が来たじゃろう。儂は昔、もう、うん十年前の話なんだが、王宮に勤めていたことがあるんじゃ」

 セリラージに聞いていたので、頷いて次を促す。

「前王の時代になったばかりのことだったが、前王のアンドレと儂は学院の同期でな。身分は違うが学院では学友で、よきライバルでもあった。

 さっきの使者の男は、当時生意気で、だいぶ年下だったから顎でこき使ってやったものだ。王宮にいた頃は儂も若かった」

 若いモンデプスと、使者を顎で使う絵面は想像できなかったが、頷いておいた。

「アンドレの前の王が崩御されたあと、王位継承したアンドレは忙しくなってしまってな。医師として限られた人より、治療院で働きたいとの儂の悩みは相談できずに、結局王宮を出てしまった。アンドレがこんなに早く亡くなるとは思いもしなかった」

 伸びた眉毛で瞳が隠れ、 表情が読めないが寂しそうなモンデプスに心が痛む。

 昨年、病で伏せっていた前王が身罷られ、第1王子だった現王が王位継承された。

 29歳の若き王の誕生だと、昨春は王都でも数日に渡りお祝いが続き、お祭り騒ぎだった。

 パレードで見た馬上の王様の横顔が頭を過ぎる。ずいぶんと若い王様だなとの印象だった。

 そうだ。あの時、一緒に見ていたエリックに、王様と目が合ったと言っても、信じて貰えなかったんだっけ。ミーハーだったな、俺。

「昨日の使者の話ではな。現王が30にもなるのに婚姻を結びたがらない。現王はまだ若いが、後継の問題もあるから周囲がヤキモキしているとのことなんじゃ」

「使者は何故モンデプスにそんな事を言いに来たの?全然わかんないんだけど」

「それなんじゃよ。現王には妹姫がいるんじゃが、お生まれの時から身体が弱くて、22歳の今も病がちで伏せってばかりなんじゃと。

 王は、妹姫を溺愛されていらっしゃるんで、縁談を持ち込もうとすると、自分より先に妹の病を治してからでないと婚姻しないとの一点張りだそうだ。

 婚姻した妃や、王の自分を診る医師が、信用に値しないと婚姻できない、と屁理屈を捏ねている。

 もちろん王宮には立派な医師が大勢いるが、どの医師も妹姫の病については原因不明でお手上げ状態で、街の治療院に白羽の矢が立ったと言う訳じゃ」

 モンデプスは冷めたお茶を一気飲みし、おかわりを要求する。

 夜だからと、次はカモミール茶にした。

 お茶を淹れて席に着くと続きを話し出す。

「王都の治療院は3つあるのは知っているな。そこから2名ずつ治療師を出して6名の医師団を作り、治療に当たれとの命令だ」

 まさか、としか言いようがない横暴さだ。

 医師に治せない病を治療師に治させる気か。驚きと呆れに開いた口が塞がらない。

「院長、いつ行かれるんですか?病が治らなかったら、罰を与えられたりしないですよね?」

「コーヤは儂を心配してくれるのか。可愛いのう。儂もお前と離れるのは寂しいが、しっかり役目を果たして来るんじゃぞ」

「?」

 話が噛み合わない。

「ええと、モンデプス院長とセリラージが行くんですよね? あっ、もしかして、セリラージじゃなくてローデンが行くんだ?」

「惜しいっ。儂じゃなくて、コーヤが行くんじゃ。ローデンと一緒に」

「ええっ!?」

 そんな馬鹿な、と言いたいが、相手は院長だった。そんなこと言えない。

 モンデプスの言い間違いではないことと、決定事項だということを確認した後、頭を抱えた。

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