第51話 噂

「狡いぞ。2人で馬に乗りに行くなんて」

 昨夜、食堂に残ったエリックは腹一杯夕食を摂った後、俺達が先に部屋に帰っているかと1人で部屋に戻ったようだ。

 俺達が部屋に帰った時には、俺達を待ちくたびれて先にベッドでぐっすりと眠っていた。

 目覚めて横に寝る俺を揺り起こしてから、今朝はずっと付き纏い文句を言っている。

「だから、ごめんて。今日から一緒に旅する馬の調子を確認する必要があったんだって。エリックは食事してただろ?」

「そんなの、呼びに来てくれれば良かったんだ」

「お前はそんなに私と馬に乗りたかったのか」

 王様も、エリックを揶揄って煽るのはやめて欲しい。

「違うに決まってんだろ。俺はコーヤと乗るんだ」

「コーヤが馬に乗れるとは知らなかった。それともエリックが乗れるのか?」

「ぐぬぬ……」

 エリックが声にならない声を出し、決着がついた。

 まだ宿泊客の少ないうちに食堂で朝食を摂り、出発をする。

 馬には王様が乗り、少ない荷物も括り付けたおかげで、俺とエリックの足取りも軽い。

 休憩を挟みながらも、夜になる予定が夕方には地方都市ムンダに入ることができた。

「領主様の屋敷の場所はご存知ですか?」

「来たのは初めてだからな。領主はだいたい開けた街中に近い、小高い見晴らしの良い場所に屋敷を構えることが多いが、ムンダは湖が一大観光地となっているから、その近くだろう」

「へぇムンダは湖があるんだ。俺、湖見るの初めてだ」

 エリックは観光気分丸出しで、王様も苦笑している。

 王様に対してもへりくだることのないエリックにハラハラすることも多いが、呑気なエリックの言動には、張り詰めた空気を和ませる力があった。

 人間、ずっと気を張っていると疲弊してしまう。王様の側にいるのがエリックで良かった。

「あそこに店がありますね。休憩がてら尋ねてみましょう」

 パドウのいない今、俺がしっかり王様のサポートをするつもりで、チラホラ見える店構えから休憩場所を見繕う。

 店先にも店内にも座席のある、オープンスタイルの食堂兼カフェといった感じの店だった。

 目の届く近くの木に馬を繋ぎ、王様とエリックには先に席に着いていてもらう。

 注文を済ませて席に戻ろうとした時、他の客同士の会話が耳に入った。

「どうなっちまうんだろうね、この国は」

「国王が行方不明の隙に、近親の王族であるミダリル様が王宮を取り仕切っているんだろう。このまま、王様になっちまうのかもしれないね」

「えっ? す、すみません。今の話は本当ですか?」

 客達は、突然会話に入ってきた闖入者に驚いていたが、確認しなくては。

「ああ。俺たちゃ、王都から来たんだけどよ。辺境伯だったミダリル様が、昨日、大層な兵を引き連れて王宮入りしたんだよ」

「王都はその話で持ちきりだ」

「そんな……」

 俺はフラフラする足で、その場を離れた。どうやって王様の席まで戻ったか覚えていなかった。

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