第28話 お茶
「陛下、遠路お疲れ様でございます。此度は急な事で存分な持てなしも叶いませんが、歓迎の晩餐をご用意させておりますゆえ、先ずはお茶でも」
ミダリル辺境伯が貼り付けたような笑顔を向けて、揉み手でもしかねない歓待振りを見せる。
「捕らえている越境者から新たな供述は得られたか」
辺境伯に相対した後も立ち止まらず、城内に足を進めながら用向きを述べる。
「それが、拷問にも耐え全く口を割りません」
どこまで真実かは別にして、生存がわかりホッとする。死人に口無しとばかりに、亡きものにされる可能性を懸念していた。
「パドウ」
「はっ」
小さく頷くパドウが離れて行き、護衛として付き従う近衛に指示を始める。
その間もおべっかを続ける辺境伯は気付いていないようだ。そのまま油断していろとばかりに、応接間まで先導されてやった。
壺や絵画の並ぶ廊下を進み、案内された部屋もまたゴテゴテと金だけは掛かっていそうな趣きだった。
煌びやかに飾り立てられた、趣味の悪い応接のソファに向かい茶の支度を眺める。
「公爵は健在か。叔父上とは久しく会っていないが。」
「ええ、それはもう。最近も、あの歳で新たな妾を迎えております」
得意気な辺境伯とは似たもの親子なのだろう。
辺境伯の父親は亡き前王の弟とは思えぬ程の欲深さで、昔から有名だった。兄弟の歳が離れているとはいえ、一体何人の女に手を付けているのやら。王族の意味を履き違えている。
眉を寄せるのを必死に堪える必要があり話題を変える。
「辺境伯が後継し安心しているのだろう。国境を守る任務以外にも、色々手を伸ばしていると聞いているが」
紅茶のカップを近づけ、淹れたての香りを確かめる。コーヤの存在を目の端で確認してから口を付けた。
昔から仲は良くなかったが仮にも従兄弟の悪事の証拠を掴まねばならない。パドウと配下の者達の首尾がどうなっているか気になりながらも、自慢話に付き合う。
今日の仕事は時間稼ぎだと自分を叱咤し、次々話題を振る。
晩餐の準備が早く整うのを待ちながら茶を啜った。
「陛下、お待たせ致しました」
「はぁ、やっとか」
やっと現れたパドウに、げんなりしていた気持ちが浮上する。信じてはいたが、パドウの落ち着いた様子を見る限り首尾は上々のようだ。
「パドウ殿は、陛下を働かせ過ぎではないのか」
ミダリルが割って入るのも気にならない。
「私は、陛下のご命令で動いているのであって、私が働かせている訳ではございません」
澄ましたパドウの受け答えに苦笑しつつも、お茶の時間は終わりとばかりに立ち上がる。
「辺境伯、晩餐まで部屋で休む。案内を」
「あ、そうですね。お疲れの所これは気付きませんで」
案内された部屋に入り奥まで足を進める。
パドウとコーヤだけを入室させ、扉が閉まるのを待ち、ソファに崩れ落ちた。
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