第30話 生還

「もう、本当に信じられないっ」

 俺は怒っていた。

「じゃあやっぱり、毒を盛られる可能性があるのをわかっていて、あんなに沢山のお茶を飲んだんですよね⁈」

 今、王様はソファの背にクッションを並べ、寄りかかるように身体を預けているけれども、来た時と変わらない、健康そうな顔色に戻っている。

 治癒魔法を施された王様の意識がしっかりしたのを確認して、俺は王様がソファに起き上がるのを手伝った。

 倒れた時に口走っていた内容の確認と、これからの事を相談するためだったが、王様が話し始めた途端、怒りが抑えられなくなっていた。

「もし、俺の治癒魔法が上手くいかなかったら、どうするつもりだったんですか⁈俺自身、成功する確信も持てずに、死にもの狂いで対処したんですよ!」

「すまなかった。だが、毒に対処した経験は確認したじゃないか」

「だとしても、全部が全部に効くとは限らないでしょう⁈ メイリーン様だって、国民だって、どんなに悲しむと思ってるんですか?一国の王様が、まだ後継も決まっていないっていうのに、命を賭けるってどういう……」

 興奮して涙まで滲ませ、呆れて言葉を無くす俺と、やり取りを見守っていたパドウに向かって、王様は話題を変えてきた。

「コーヤが、私と、祖国でもない我がフォルトラ国の行く末を人一倍案じてくれる気持ちはよくわかった。だが、今は、現状の対策をせねばならん」

「そうですね。陛下が辺境伯の城で毒殺、おっと失礼しました。毒を服用されたなら、疑われるだろう辺境伯にとって、どう考えれば良いかです」

「例えばだが、パドウ。そなたに疑いをなすりつけるつもりはないだろうか」

「私に罪を着せてもメリットはないでしょう。私以外の側近や王宮から護衛に付いていたものでも同様です」

「若しくは、殺すつもりはなかった、単なる脅しの可能性だ」

 2人がこっちを見るので考えを述べる。

「それはあり得るかもしれません。普通お茶は飲んでも1〜2杯でしょう。王様あの時、俺だって驚くほどにがぶ飲みされていました。でも、帰って成分を分析してみないことには分かりません」

 薬に詳しいダレスの力を借りてね、とまだ怒りのこもった声で付け足した。

 2人は頷いているが、実際に毒を飲み、死ぬほど苦しかっただろう王様は、余りその可能性については考えていないようだ。

 まぁそうだよな。毒を盛る時点で、死をも考えていないわけがない。死んでもいいと思われたのだ。

 王様とパドウは、さっきから深刻そうな顔つきだった。自分の怒りが急速に萎んでいく。

「あとは1番有力な可能性のみだな。自分がやったことを隠そうとせずに、革命を起こす気か。又は原因は有耶無耶うやむやにして自分が王位に就こうとしているかだ」

「他に考えつきませんね。それでしょう、間違いなく」

「黒幕はミダリルで決定か」

 王様の顔に棘が刺さったような苦悩の表情が一瞬掠め、すぐ消える。

 仲が良くないとはいえ従兄弟と言っていた。だからこそ、国王亡き後の後継に1番近いのだが。

 パドウも当然、王様の気持ちに気付いていたのだろう。王様を慈しむような目をして見ている。

「密偵の報告の確証を得るためとはいえ、これ以上の無茶はなさいませんようお願いします」

 人の目がないと嫌味なパドウの、諭すような切実な訴えに、王様も真摯に謝罪した。

「心配をかけてすまなかった。これからは事前に相談する」

「これからどうなさいますか」

「そうだな」

 これからの対策を練るために声を落とした2人から、一歩ずつ下がり離れようとした俺だったが、両腕を両側から捕らえられ引き戻される。

 何故か頭数に組み込まれているらしいことに気づいて、愕然とする洸哉だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る