楽に死ねると思うなよ~『レベル100ぽっちで無敵ヅラしているゴミ貴族共』を、『レベル500で性格最悪の俺』が、『ありとあらゆる陰湿な手法』でジワジワと破滅させる定理「俺が聖人? 脳、腐ってんのか?」~

閃幽零

第1話 転生。


 

 性格が悪すぎて友達がいなくて、

 性格が悪いがゆえに童貞で、

 おまけにキラキラネームという、

 イカつい三重苦の男子高校生

 『閃(せん) 壱番(えーす)』は、

 学校の帰り道、トラックにはねられて、

 剣と魔法とモンスターとレベルが存在する

 『ウェブ小説界隈ではお馴染みの異世界』に転生した。



 その世界で、気が狂ったようにモンスターを倒しまくって、死ぬほどレベルを上げたら世界最強になった。

 けれど、寿命には勝てなかった。


 流石にこれで人生終わりかと思ったが、また違う世界に転生した。

 おまけに、レベルを引き継いでいた。


 せっかくなので、今度は、強さを追い求めるんじゃなく、世界征服に挑戦してみた。

 ブッチギリの強さなので、楽勝で支配できたし、山ほど配下ができた。

 けど、性格が悪すぎて、友達はできなかったし、結婚もできなかった。


 王様をやってみた感想。


「ダルすぎてハゲそう。何一つ面白くねぇ。好きで王様やっている奴、頭おかしい。死ねばいいのに」


 というわけで、もう二度と王様にはならないと誓った。


 そんなこんなで、また寿命で死んだ。

 世界最強で、かつ王様なのに、性格が悪すぎて、童貞のまま死んだ。

 逆に凄いなと思う。



 ――三回目も異世界に転生できた。

 無限にできるのかもしれない。


 ちなみに、三回目は、人間ではなくモンスターとして転生した。

 種族は、魔人。

 モンスターが進化して、限りなく人間に近くなった姿。

 普通の人間と、肌の色ぐらいしか違いがないが、

 『モンスター』として扱われ、死ぬほど差別されている。


「もう王はこりごり。つぅか、人と関わるのがダリィ。俺は、今後、自由に、豊かに、静かに、レベルを上げるだけの生活にいそしむ!」


 王様という仕事は、本当にしんどかった。

 常に周りに人がたくさんいて、

 王としてのふるまいを求められて、

 政治だの、軍事だの、行政だの、

 諸々の整備で時間をとられて……


 だから、今度の転生では支配者ポジションにはつかず、

 ただひたすらに強くなろう、

 と、センは思ったのだが、



(この世界の人間、カスが多いな……流石に、『俺ほどぶっ飛んで性格が悪いやつ』は、いないっぽいが……不愉快極まりない胸糞な『クズ』が山ほどいやがる。鬱陶しい。どいつもこいつも、カスのくせに、調子こきやがって。低能がはしゃいでいるのを見るとイライラする。分(ぶ)をわきまえろ。お前らなんざ、俺がその気になったら、秒で死ぬ虫けらだぞ)



 この世界では、

 モンスターは弱者で、

 人間は強者だった。


 『悪逆非道な悪魔』よりもよっぽど悪魔な『人間』がはびこる腐った世界。

 『モンスターという弱い立場の種』は『腐った人間』に虐げられていた。


 奴隷にされるならまだマシなほうで、

 面白半分で拷問・解体されるモンスターがたくさんいた。


 モンスターにとっては地獄。

 それが、この世界だった。


(……俺には関係ない。弱肉強食は世の常。弱いやつが悪い。迫害されるのが嫌だったら、強くなって、人間を滅ぼせ。俺には関係ない……関係ない……)


 最初は、見て見ぬふりをして、

 山の奥に引きこもり『さらなる強さ』だけを追い求めようとしたが、

 しかし、






 ――たすけて――






 悲鳴が、あまりにも多すぎた。

 やかましすぎて、夜も寝られない。


「……流石にウザすぎるだろ……気分が悪ぃ。なんで、この俺が……てめぇらみたいなカスに、イライラさせられないといけないんだ……不条理だろ……ふざけんな……」


 ブチギレて、山を下りたセン。

 そんな彼の目の前に広がっていたのは地獄。


 醜い欲望を丸出しにした軍人たちが、

 魔人の少女を甚振(いたぶ)っている姿。


 その村は、魔人の村だった。『人の魔の手』から逃げおおせた魔人たちが、ひっそりと穏やかに暮らしていた小さな村。


 その村を見つけた人間は、

 『面白いおもちゃ』を見つけたと言わんばかりの醜い顔で攻め込んだ。


 ただ、ひっそりと、誰に迷惑をかけることもなく過ごしていた魔人たちを、

 『人間』の軍は、虐殺し、強姦し、好き放題、暴れ放題。


 『そんなこと』が『この世界』では蔓延していた。

 魔人は甚振られ、踏みにじられ、

 ただひたすらに搾取され続ける。


「……もうやめて……だれか……たすけて……」


 襲われ、ボロボロになった少女。

 助けをもとめても意味はない。

 家族も、仲間も、みんな、凌辱されている。


「次は俺だ! 殺すなよ!」


「殺さねぇよ! ひさびさの上物だ!」


「殺すときは俺に言え! 皮を剥いで殺す!」


「ふざけるな、この前、ゆずってやっただろ! 今日は俺だ。みろ、この剣を。この日のために買ったんだ」


「なんだ、その剣」


「拷問用の名品だ。これで切られると、全身がどんどん腐っていくんだ。ゆっくりと絶望を味あわせて殺すことができる」








「――そいつはいいな。くれよ」








「はぁ? ふざけんな。いくらしたと――ん? なんだ、貴様!」



 彼の背後に立って声をかけてきたのは『仲間の軍人』ではなく『一人の魔人』だった。


 その若い魔人は、飄々とした態度で、


「俺はセンエース。そこの山で修行をしていた魔人だ。こんにちは」


 などとぬかしてきた。

 彼の性格の悪さは、常時、言動ににじみ出ている。

 彼と対話してイラつかない者は、かなりレア。


 センの『ふざけた態度』に、その場にいた軍人全員がイラっとする。

 当然の反応。


「魔人のくせに、なにを、ナメたツラで堂々としてんだ、生意気な! てめぇら魔人は、バカみたいに震えてやがれ! イラつくんだよ!」


「手を出すな! その男は、俺の獲物だ!」


「いいや、俺が――」


 と、誰が獲物を狩るかと競っている連中に、

 センは、




「――閃拳」




 『磨き上げてきた拳』を叩き込んだ。

 自分の名前を必殺技につけるという『セルフ辱め』が、この拳に力をくれる。

 アリア・ギアスという、世界のシステムの一つ。

 『何かを代償に、何かを得る』。


「ぐぎゃあああああああ!!」


 センは、軍人を、あえて殺さず、

 腕だけ木っ端みじんに吹き飛ばした。


 そして、軍人の体に、


「ほい、ぐさー」


 奪い取った拷問剣を突き刺した。


「あああああああああああああ!」


 悲鳴がこだまする。

 軍人の体は、どんどん腐っていく。


「いい武器だねぇ。腐っていく感じが非常にいい。心が洗われるようだ。人が苦しんでいるところを見ると、どうして、こんなにも気分がいいんだろう。『俺以外の誰かが、他の誰かを苦しめているところ』を見ると、イラっとするけど、『俺が苦しみを与える』のは至高の喜び。こんなに良い拷問用の武器をプレゼントしてくれて、どうも、ありがとう」


「て、てめぇ!」


「たかが魔人風情が、カール大帝国の軍人を敵に回して、ただで済むと思うなよ!!」


 この世界において、

 魔人は『魔力は高い』が、生まれてくる個体数が少ない。

 それに比べて『人間』は、数が多く、

 かつスペックも、他の世界の『人間種』と比べて、比較的高かった。


 だから、人間は、人間以外に対して『何』をやっても許された。

 強い者は何をやってもいい。

 倫理的に不完全な世界において、

 『強さを持つ者』は『醜く歪む』と相場が決まっている。


「死ねや、クソ魔人がぁあああ!」


 切りかかられたセンは、

 グっと丹田に力を込めて、

 流れるように、

 右手へ魔力を溜めて、

 ――『一気に放出』する。



「異次元砲!」



 センの右手から放出されたのは、

 強大な魔力の照射。

 簡単に言えば『かめ〇め波』。


 ――『圧倒的強者のビーム』をくらった軍人は、

 当然、


「ぎゃああぁああああああ!!」


 極大のダメージを受けた。

 凶悪なエネルギーが、秒を切る速度で下半身を溶かした。

 死んではいない。

 そう簡単に殺さない。

 楽には死なさない。

 ここでサクっと死ぬより、半身を失った状態で生きる方が、よっぽど辛い。


「ぐぁああ! 足ぃいい! 俺の足ぃいい!」


 圧倒的な力。

 強すぎる。

 ――ケタが違う。

 当然。

 センと彼らでは存在の次元が違う。


「な、なんだと……」

「い、異次元砲……だと……」


 センが魔法を使ったところを周囲で見ていた軍人たちがおののきながら、


「りゅ、龍神族の御方々しか使えない天上の魔法……」

「こ、この魔人……まさか、龍神族の系譜……」


「違う! 龍神族に魔人などいるわけがない! 一緒にするな!」


 その発言を受けて、

 センは、




「そうだぞ。『龍神族なんか』と一緒にするな。あんなやつら、どいつもこいつも、存在値100程度のカスじゃねぇか」




 俗世を離れていても、

 『この世界における最低限の情報』くらいは頭に入れてある。


 この世界を支配している『最強の名家』、

 『大帝国の皇帝』よりも上の地位にある『天帝』の血族――『龍神族』。


 ※ ちなみに、存在値とは、『レベル』+『その他の技能』であり、

   ようするには、その者の『総合力』である。

   ちなみに、センの存在値は500。

   この世界で、並ぶ者がいない、最強の強さ。


「……龍神族を……か、カスだと……」


「なんと愚かしい発言……龍神族を敵にまわすのは、大帝国の全てを敵にまわすよりも恐ろしいことだぞ……」


「貴様、天罰がくだるぞ」


 ゴチャゴチャとやかましいカス共に対し、

 センは、堂々と、

 胸を張って言う。



「天罰を下すのは俺の役目だ。俺は神様じゃないが、この世界じゃ、神よりも強い。というわけで」




 ググっと体に力を込めて、

 オーラを練り上げ、

 戦闘態勢を整えると、


「お前らに、罰を執行する」


「ふ、ふざけるな!」


「ちょっと強いと思って調子にのるなよ!」


「こっちにはカソルン将軍がいるんだ」


「カソルン将軍は帝国でも十指に入る豪傑! 『すでに、強大な魔法を使ってしまって消耗している貴様』などイチコロだ!」




「――そういうことだ」




 タイミングよく表れたのは、

 屈強な戦士だった。


 高そうな鎧を着て、

 気品のある剣を手にしている。


「ははは! 終わりだ!」

「カソルン将軍は、帝国の大将軍!」

「魔人ごときは一撃だ!!」


 軍人たちの熱気が増していく。

 カソルンほどの大将軍が剣をふるう機会はめったにない。


 軍人たちは、みな、伝説を目の当たりにできると興奮気味。


「クソ生意気な魔人め!」

「細切れにされやがれ!」

「そのバラバラになった死体にクソしてやる!」


 カソルンという虎の後ろで、

 威勢だけのキツネたちがワーワーとさわぐ。


 そんな醜い声援を背負いながら、

 カソルンは口を開く。



「ずいぶんと部下が世話になったな……ここからは私が相手をしよう。貴様もそこそこ強いようだが、しかし――」



 などと、ごちゃごちゃ言っている間、

 センは、

 『サードアイ』と呼ばれる、相手の能力を見抜く魔法でカソルンを見通す。

 ※ サードアイを防ぐ『フェイクオーラ』という魔法もある。

   上位者同士の闘いだと、互いにフェイクオーラが強すぎて『アイ系』は機能しない。



(――カソルン。カール大帝国で最高格の大将軍。存在値は70。……まあ、確かに、この世界の住人の中では『かなり強い』な……おかげで、いい見せしめになる)



 などと考えているセンの視線の先で、

 カソルンが、


「異次元砲などという、龍神族の方々以外では、『途方もないアリア・ギアスを積むこと』でしか使えない『分不相応な大技』を使って大幅に弱体化したゴミ……そんなザコを倒しても、なんの自慢にもならないが――」


 なんだか、まだごちゃごちゃ喋っているが、

 そんなもんシカトで、

 センは、拳にオーラをためていく。


 その向こうでは、軍人たちが、


「カソルン将軍を敵にまわして生き残った者などいない」

「ああ、当然だ。なんせ、『龍神族』の方々を除けば、カソルン将軍は最強格だからな」

「さあ、カソルン将軍……そのクソ生意気な魔人に、世界の摂理を教えてやってください」


「搾りカスになった、ゴミ以下の魔人よ。貴様ごときでは、何をしようと、どうあがこうと、絶対に超えることができない巨大な壁というものを――」



「閃拳」



 センは、

 気合のこもった右の拳を突き出した。


 一見、ただの正拳突き。

 しかし、その拳は、

 長年かけて丹念に磨き上げてきた努力の結晶。


 ――ゆえに、



「がぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



 圧倒的な破壊力。

 カソルン将軍は、防御力がハンパではないタイプの軍人だが、

 しかし、『ハンパない防御力』程度では、センの拳に耐えることなどできない。


 結末は一瞬だった。

 カソルンは、たったの一発で、

 あっさりと、気絶してしまった。


 魔人ごときの『軽い一発』でノックアウトしてしまった大将軍。

 ――その『あってはいけない光景』を目の当たりにした面々は、

 さすがに、


「ま、まさかぁあああ!」

「そ、そんなわけぇええ!」

「「「ひ、ひぃいい……!!」」」


 ションベンをたらして震えだすカスどもを見下して、

 センは、


「さて、いい加減、俺の実力がわかったかな? じゃあ、そろそろ、貴様らにふさわしい罰を――」


 と、次の段階に進もうとした、

 その時、



「カソルンを倒すなんて、やるじゃない。褒めてつかわす」



 『見事な縦ロールの少女』が現れて、

 上から口調でそう言った。


 彼女が登場した瞬間、

 その場にいた軍人たちは、


「ず、頭が高い! 頭がたかぁああい!」


 いっせいに、片膝をついて頭をたれる。

 一瞬で荘厳な空気になる現場。


 そんな空気を背負い、

 縦ロール美少女は、


「私ほどではないけれど、あなた、なかなか強いわね。私、カスは嫌いだけど、強い者は好きよ。たとえ、醜い魔人でも、実力があれば採りたてる。それが私の信条」


 つらつらと、そう言った。

 続けて、

 縦ロールは、遥かなる高みから宣言する。



「己が幸運にむせび泣きなさい。あなたを、直属の部下にしてあげるわ」



 その発言の直後、

 ひざまずいている軍人たちが、

 一斉にどよめいた。


 彼女の背後に立つ、

 60歳後半と老いてはいるが『かなりイケメンの執事』――『ラーズ』が、


「お嬢様、それはいけません」


 と、首を横に振りながら言った。


「魔人だから、モンスターだから、醜い存在だから……以外に理由はある?」


「あなた様が、この世で最も気高き存在の一人だから」


「だから、魔人などを傍においてはいけないって?」


「その通りでございます」


「たかが『魔人一人を傍におく権利すらない不自由者』のどこが気高き存在なのかしら?」


「……それは……」




「ラーズ。一つ言っておくわ。この、龍神族が一人『タンタル・ロプティアス・クロッカ』の決定に異議を唱えたければ……」




 そこで、クロッカは、無数の剣を召喚し、

 自分の周囲に浮遊状態で配置して、その切っ先をラーズに向け、


「私を殺してからになさい」


 威風堂々と、そう言った。





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