第13話 暴行。


「――ゼノを、お兄様の魔の手から守りなさい。なかなか難しいミッションだけれど、あなたなら、できるでしょう?」


 センとの対話の中で、『こいつ、やべぇなぁ』と思うと同時『こいつ、すげぇなぁ』とも思い始めてきたクロッカ。

 そうなってくると、色々と、タガが外れてきて、『命令の質量』も爆上がりしていく。

 『これぐらいはしてほしい』というスタンスから、

 『こいつなら、これも、あれもできるだろう。いっそ、全部まかせちまえ』というスタンスに変更された感じ。

 そんな、頭おかしいレベルの『無茶ぶり』は、

 そこらの一般人……あるいは、有能な十七眷属ですら、

 泡を吹いて倒れるレベルなのだが、

 しかし、センは、


「パルカの任務は遂行する。ゼノも守る。両方やらなくっちゃあならないってのが幹部のつらいところだな。覚悟はいいか? 俺はできてる」


 当たり前のように胸を張って、そう宣言した。

 もちろん、クロッカは首をかしげているが、

 キチ〇イ・センエースは、そんなこと気にしない。



 ★



 ――『パルカに指定された場所』に向かうと、

 そこでは、既に、パルカの配下『十七眷属の一人オンドリュー』と、その手ゴマの数人が待っていた。

 センの姿を見つけると、

 オンドリューは、最初に、


「この、バカもんがぁあ!」


 と、いきなり殴りつけてきた。


「っ?!」


 流石に意味が分からな過ぎて、

 センは、目をぱちくりさせるしかない。


「…………はぁ?」


 と、普通に、疑問符を投げかけるセン。

 ただただ普通に『純粋な怒り』が湧いてくる。


 オンドリューの拳など、別に、痛くもかゆくもない……が、これは、そういう問題ではない。

 センの疑問符に対し、オンドリューは、

 さらに、怒気を強めて、


「貴様! 魔人の分際で、その態度はなんだ! 二度と、私にそんな態度をみせるなぁ!」


 そう言いながら、さらに殴る蹴るの暴行を加えてくるオンドリュー。

 そのめちゃくちゃな行動に対し、

 センは、


(え、やば、こいつ……え、俺、一応、パルカの直属の部下だぞ……その俺に、問答無用の暴行を加えるって……え、どういう思考回路? その特殊思想、もう、怖いんだけど……てか、クロッカからの命令は? 魔人に手を出すなって命令は? もうすでに、全軍に、伝わってはいるはずだよね? え? 聞く気ない感じ? すげぇな……)


 と、引いているセンを足蹴にしながら、

 オンドリューは、


「たとえ手足がもがれた状態であろうと、関係なく、どんな時でも、どんな状況でも、絶対に、現場には、この私よりも先に到着しているのが最低限! 私よりも後にくるなど、言語道断!! 私の時間を奪っておきながら、生かされている! それに感謝しろ! 言っておくが、もし、貴様がパルカ様の犬でなければ、すでに100回は死んでいる!!」


(クロッカの命令がどうとか、そういう次元じゃねぇ……『パワハラもここまでたどり着けば、もはや芸術』っていう領域……)


と、センは心の中で、そうつぶやきつつ、


(魔人に手を出す云々の前に……主人の犬に暴行を加えるとか、普通にやばいはずなんだがなぁ……)


 心の中で、ふかいタメ息をつく。

 そんなセンに、オンドリューは、怒気をより加速させて、


「なんだ、そのタメ息は! 不愉快、不愉快、不愉快!!」


 暴力が加速していく。

 オンドリューの辞書に手加減の文字はない。


「思慮の浅い『カス以下の魔人』が! この世で最も尊き十七眷属の一人である私に対しては、最大級の敬愛以外の感情をいだくことは許されないと理解せよ!」


 センが血まみれになったことで、ようやく満足したのか、暴行の手を止めるオンドリュー。

 十七眷属は、その希少性から、大きな特権を与えられている。

 ゆえに、中には『何をしても許される』と思っている者もいる。


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