第14話 あんたが一番強いのに?


 オンドリューは、その傾向が特に強く、

 さらに『魔人』に対する差別意識が、もともと、とんでもなく高いタイプ。

 だから、たとえ『パルカの犬』だと認識していても、

 『しょせんは魔人だし、自分なら、多少の折檻(せっかん)は許される 』、

 と、そう認識している。


 クロッカからの『今後、魔人に暴行するな』という命令も、

 『絶対にやめろ』という強い命令だとは認識しておらず、

 『なるべく抑えろ』ぐらいの命令とし認識していない。

 たとえるなら、『自転車乗る時は、なるべくヘルメットをつけてください』と言われたぐらいにしか思っていない。


 ……だからこそ、こんな暴挙ができるのである。

 仮に、この後で、『魔人暴行の件』に関して、上から何か言われたとしても、

 『自分にヘルメットは必要ない』と突っぱねる気満々。

 ひとことで簡潔に言えば、

 オンドリューは、だいぶヤバい『勘違い系パワハラ上司』ということ。

 自分が『悪いことをしている』とすら認識していない。

 今、魔人を殴っているのも『家畜を教育してやっている。しつけがなっていない魔人は危ないから。これは必要なことである』と思いながらやっている。

 ゆえに、もし、今、この場で誰かにパワハラ言動をとがめられたとしても、

 『なぜ、私が非難される? 私は何も間違ったことはしていない』

 と、堂々と言い切れるだけのキチ〇イ性を、オンドリューは持っている。


「出撃まであと10分だ! 準備を整えておけ! わかったな!」


 と、そう言いながら、最後に、センの顔を、また殴る。


「え? 今のは、なんで殴られたんすか?」


「そういう気分だったからだ! なんだ! まさか、文句でもあるのか!」


 そう言いながら、オンドリューは、さらに、センの顔面に拳を叩き込んできた。

 ガツンと、重たい一発をいただいたセンは、


(……こいつ、すげぇなぁ……)


 心底ドン引きしていた。

 『こいつはヤバすぎる』と普通にしんどくなる。

 オンドリューの異常性に引きながらも、

 センは、『彼の配下である、周囲のメンツ』に目を配る。


(こいつら、よく、あんなパワハラ大魔神の下で働けてんなぁ……もし、俺が、こいつらの立場だったら、秒で暴動を起こしているけどなぁ……)


 と、感心していると、

 そこで、オンドリューの配下の一人である『魔人』が近づいてきて、

 センに、


「治癒ランク3」


 回復魔法を使いながら、


「オンドリュー様に、あのような態度をとって生きていられた魔人はいない。君はどうや

ら、特別な立場にあるようだな」


「……あんた、誰?」


「ジバ。オンドリュー様の部隊の……荷物持ちだ」


 そう言って、疲れた顔をうつむかせるジバ。

 その瞳は、完全に疲れ切っている。

 部隊の一番『下っぱ』として使い潰されている者の顔。

 荷物持ちとしてだけではなく、他にもたくさんの雑用をやらされているのが見てとれた。

 そんなジバに、

 センは、


「……あんたが一番強いのに?」


 と、核心をついていく。

 センの目は、既に、オンドリュー部隊の全様を見通している。


「オンドリュー様よりは弱い」


「……配下の中ではブッチギリだろ。なのに、荷物持ちなのか?」


「魔人だからな」


「……」


 ちなみに、オンドリューの存在値は65。

 この世界においては龍神族をのぞくと、最高格。

 存在値60に届いている者はそういない。

 十七眷属に所属している者でも、60を超えているのは半数が精々。


 そして、オンドリューの配下連中の平均存在値は40。

 40という数字は、かなりの強者の証。

 存在値40を超えている者は、世界全体を見渡しても、そうそういない。

 それを踏まえて、ジバの存在値を見れば、彼がいかに特異な存在であるかが分かる。

 ジバの存在値は、

 ――なんと、57。


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