第15話 ロックオン。




 ジバの存在値は、

 ――なんと、57。


 本来であれば、彼は、十七眷属に昇格していてもおかしくはない。

 それだけの実力を持つ。

 しかし、彼は、ほとんど奴隷のような扱いで、オンドリューの荷物持ちをしている。

 その理由はたった一つ。

 人種差別である。


「魔人に、人として生きる権利はない。だから、自分は、この部隊の盾として、最大級に命を張る必要があるし、荷物持ちとして誰よりも体を張らないといけない。それが魔人として生まれた者の義務」


「お前が『魔人の権利や義務』を『どうとらえているか』は自由で勝手だが……その義務を俺にも強制してくるなら、色々と話し合わないといけないぞ。言っておくが、俺は、荷物持ちをやる気はない。なんせ、プライドがエグいもんでね」


 クロッカやパルカにシッポをふることにためらいのない男セン。

 その部分のプライドは皆無なのだが、こういう場面で荷物持ちをやるのはプライドが許さないという。

 あまりにも、味わい深い男が過ぎて、もはや、ちょっと、意味が分からない。


「ジバさんよぉ、俺がいるから『背負う荷物の量が減る』と考えているなら大間違いだぞ。ちなみに、いくら殴られても、俺は意見を変えないからな。頑固さ世界選手権連覇中のセンエースさんとは俺のことよ」


「別に、君に荷物持ちをやらせる気はない。仕事はすべて私がやる。仕事を取られてもかなわないのでね」


 治療が終わったところで、

 ジバはセンのもとから離れていった。

 その後ろ姿を見つめながら、

 センは、ニっと笑い、


「……ロックオン、目標を狙い撃つ」


 ボソっと、そうつぶやいた。


 ★


 その後、なんだかんだ色々あって、

 ついに、ゼノのアジトと思しき屋敷に潜入したオンドリュー一行。

 先頭を切るカナリア役は、当然ジバ。

 ゼノのアジトは、『意地の悪い初見殺しワナ』が散見されて、

 その全てを、ジバは体を張って受け止める。

 ボロボロになっては、自分で回復魔法を使うという過酷で悲惨なルーティン。

 その様子を見て、部隊の面々は、


「こっちに矢が飛んできたぞ。全部受け止めろ」

「まったくグズが」

「おら、次だ。早く行け」


 と、散々な言い様。

 オンドリューの配下は、オンドリューに看過されているのか、それとも、似た者同士が寄り集まっているか、その辺の詳細は分からないが、とにかく、見事に、全員、性格が悪かった。

 ジバの散々な状態をずっと後ろで見ていたセンが、途中で、


「お前、よく、この部隊で働いているな。逃げようとか思わないのか?」


「妹が人質に取られているんでね……」


「……ほう」


「私がちゃんと働かないと、妹が何をされるか分からない。あの子だけは絶対に守る。そのためなら、何でもできる」


「……くく、その覚悟、見事。合格だ、ジバ。手ゴマとして、十分に使える器。お前に、『センエース八天王』の称号をあたえよう」


「はってんのう……ん?」


「八部衆と八将と八天王……その三候補の中から、本日の『気まぐれシェフ気分』で選ばれた栄誉ある称号だ。感覚と気分だけで決まった名称だから、将来的に変更になる可能性も大きいが、まあ、こまけぇこたぁいいんだよ! ……何はともあれ、今日からは、お前は、センエース八天王の一人。毘沙門天のジバだ。そう名乗ることを正式に許可してやる。ありがたく思え」


「……ちょっと、よくわからないんだが……」


「安心しろ、ジバ。俺の言葉は、基本的にバグっている。俺の言葉を理解できるやつは、俺ふくめ、誰もいない」


「……」


 ジバは、『頭のおかしいやつ』を見る目で、センを見た。

 その目になれ親しんでいるセンは、

 特に不快に思う事もなく、


「まあ、簡単に言えば、お前は今日から俺の剣ってことだ。使い潰してやるから、俺のために、馬車馬のように働け。わかったな」

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