第12話 首輪。
「そこに首輪があったから……とでも申しましょうか」
と、いつまでもチョケていくセンに、
クロッカは、本気で茹だって、
「私はまじめに聞いているのよ! ちゃんとこたえなさい!!」
「……『魔人をくれ』と言ったら、これをつけろと言われました。まる」
「……私を理由にして断ればよかったでしょう! 私は、あなたに、魔人をつける約束をした! きちんと、私の剣をしてくれるのであれば、そんな首輪をつける必要もなく、あなたは、魔人を手に入れることができた! なのに、わざわざ、パルカの犬になるなんて! 本当に何を考えているの! その首輪がはまっている以上、あなたは、パルカの命令に逆らえない! もし、パルカから、『私を殺せ』という命令を受けた場合、黙って従わないといけない! それを理解して――」
と、そこで、センは、自分の首輪を、タンと指ではじいた。
すると、その瞬間、センの首の首輪がパンと弾けて飛んだ。
それを見たクロッカは、目を丸くして、
「……へ……」
と、呆けている彼女に、
センは、
「この手の『呪い』を処理するのは得意でしてねぇ。かなり凶悪なシステムで保護されておりますが……まあ、俺がその気になれば、どうにかなるレベルでしたよ」
「……」
「パルカは……まあ、あなたもですが、『この首輪をつけている者は、契約者に逆らえない』と確信している。『誤った確信』というのは、詐欺をする上で、最も強力な武器。これをつけるということは、『クロッカお嬢様の剣をする上で、もっとも効果的な一手』だ
った。だから、つけた。……『どうして首輪をつけたのか』という、あなたからの質問に対する、まっとうな返事は以上です。何かご質問や文句等、ございますか?」
「……そうならそうと…………最初から……言いなさない。人の反応で遊んで……悪趣味だわ」
「遊んでいるんじゃありませんよ。『俺の性格が終わっている』という……たったそれだけのシンプルな話です。俺の性根の腐り方は、マジでハンパじゃないんですよ。なんでこんな子に育ったんでしょうね」
「……その首輪を処理するのは、『全盛期の曽祖父様』でも不可能だと聞いているわ……全盛期の曽祖父様は、私を超える達人だったと聞いている……そんな全盛期の曽祖父様ですら無理なものを……どうして、あなたは……」
「この手の処理に特化したビルドを組んでいる……と言う、それだけの話ですよ。そこまで驚くほどのことではありません」
「……つくづく、おかしな魔人ね……あなた」
「稀によく言われますね」
などと、鼻で笑いながらそういうセンに、
クロッカは、タメ息を一つついてから、
「その件はもういいわ。それで? お兄様とは、どういう契約をかわしたの?」
「とりあえず、『ゼノを潰せ』と言われましたね」
「……ふむ……やはり、そこね。『邪教団ゼノ』は十七眷属だけでは処理できない異常集団。十七眷属で処理できない案件は、私たち龍神族が請け負うしかないけれど、お兄様は、基本的な政務で忙しすぎて、ゼノの相手をすることは難しい……」
「その『ゼノ』の拠点の一つを発見したらしく、今夜、襲撃する予定だから、ソレに参加しろ……というのが、最初に承った命令ですね。というわけで、今夜は出撃します」
センのその言葉に対し、
クロッカは、数秒だけ考えてから、
「…………潰すふりをして、逆にゼノを守りなさい」
唐突な命令の発令。
クロッカは続けて、
「ゼノは使えるコマよ。お兄様とお父様を殺す際に役立つ剣の一本。十七眷属を殺せるぐらいの力を持ったテロリスト……最高。潰すなんてもってのほか」
「だから、守れ、と?」
「そうよ。あなたが言った通り、お兄様からの信頼を得ておくことも、今後の『龍神族皆殺しミッション』において大事そうだから、それはそれで進めていくとして、その上で、ゼノをお兄様の魔の手から守りなさい。なかなか難しいミッションだけれど、あなたなら、できるでしょう?」
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