第32話 仮に。
「パルカ様から、正式に、ジバと妹をもらいうけました。今後、ジバと妹は、俺の所有物なので、好き勝手なことはできませんよ、オンドリュー様」
「……カドヒトを撃退した褒美として、魔人二匹を賜った、ということか……しかし、げせん話だな……その二匹は、私の所有物。つまりは、十七眷属の所有物だ。十七眷属は、龍神族の配下。忠実な下僕であり剣。それは間違いないが、間違いないからこそ、大きな裁量権を与えられている。優秀なわれわれの『絶対の忠義』に対する報酬。そうそう侵害されない大きな権利。われわれ十七眷属の権利を奪うことは、そう簡単にはできない。いや、よりはっきりと言うのであれば……『十七眷属が大事にしているものを、勝手に取り上げること』は不可能」
「らしいですね。なので、苦労しました。『オンドリュー様のものを、俺に勝手に渡すことは出来ない』と、パルカ様には、散々、ごねられました……が、しかし、俺をとるか、それとも、オンドリュー様をとるか、と尋ねたところ、パルカ様は、『俺の方を取る』と言ってくださいました。……つまり、俺とあなたでは、俺の方が有益であると認められた。それだけの話ですよ。偉大なるオンドリュー様」
「……」
不愉快なセンの講釈を受けたことで、怒りが限界に達したのか、
なかなか、言葉を紡ぐことすら出来ない様子のオンドリュー。
真っ赤になりすぎていた顔が、もはや、青く、白くなってきている。
絶望したとか、哀しいとか、そういうことではない。
純粋な怒りの最果て。
憤怒の限界点をこえると、人の血色は、こういう不可思議な色になる。
オンドリューは、数秒をかけて、頭の中で、
自分の怒りと、言いたい言葉を整理すると、
センに向かって、
「仮に、だ……セン」
「はい、仮になんでしょう、オンドリュー様」
「仮に、パルカ様が、それを認めたとしよう。仮に、万が一、本当に」
「ええ、仮に、万が一、億が一、不可思議が一、そうだったとして、なんですか?」
「私は、まだ、その旨(むね)を直接伝えられてはいないのだよ、わかるかな、パルカ様の犬センエースくん」
そこで、オンドリューは、黒い笑顔を浮かべて、
「私は、今、非常に不愉快で……とても、とても、とても激昂している……今の私は……正直、自分でも何をするか分からないほどに怒り狂っている……そんな私の前で……貴様らは、『急所』を……『大事なもの』を晒している……ジバはもちろん、どうやら、貴様も……なぜかは分からんが……ジバとその妹を大事に思っている様子……昔に、何かしら関係でもあったのかな? まあ、その辺の細かいところは、もちろん分からんし、興味もないが……しかし、セン……貴様が、その二人を大事に思っている……ということは、よく、よく、よく……理解できた……」
黒い笑顔が加速する。
どんどん、悪意が膨らんでいく。
「だったら、壊させてもらうさ。……セン……貴様が大事にしているものを……貴様の前で、とことんぶち壊させてもらう。パルカ様の命令……ああ、それはとても大事なものだ。もし本当なのだとしたら、最終的に、私は、ジバと妹を失うことになるだろう。だが、それは……今じゃない!」
強い叫び。
相手をとことん追い詰めるために、腹の底からひねり出した咆哮。
オンドリューは、立ち上がると、
「ジバ……もう、『連れてこい』とは言わない。私がいく。この私が自ら、下賤な魔人の女のもとに向かうなど、そんな恥ずかしいマネはできない……と、先ほどまでの私は思っていたが……しかし、もう、そんなチンケなプライドにこだわっている余裕はなくなった。……パルカ様から正式な命令が下るまでの間に……まだ、『ジバの妹が、私のものである間』に……徹底的に壊してやる……それが、私の……貴様らに対する復讐だ」
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