第33話 なんだ、貴様……


 センは、その発言を鼻で笑いながら、


「復讐って、オンドリュー様。何を勘違いしているか知りませんが、俺は、あなたを助けたんですよ? 邪教団ゼノの総帥『カドヒト・イッツガイ』という、とんでもない化け物と必死になって戦い、あなたを救ったのです。そのことをお忘れですか? 俺はあなたの敵ではない。ジバだってそう」


「好きなだけ屁理屈をほざいていろ。貴様の言葉など、私の耳には届かない」


「俺はあなたの味方だと……言っているのが屁理屈ですか? どういう計算式で、その答えが出たのか、知りたいところですなぁ」


「どけ、センエース。貴様の相手をしているヒマはない」


 そう言って、センをこえて、

 ジバの妹『ビシャ』のもとへ向かおうとするオンドリュー。

 センは、そんなオンドリューの腕を掴み、


「まあまあ、落ち着いて、オンドリュー様」


 と、和やかな口調でそう言うセンに、

 オンドリューは、


「下等な魔人風情が、私の腕に触るなぁああああ!」


 そう叫びながら、

 『今のオンドリューに出せる本気』の『本気』で、

 センの顔面に拳を叩き込む。

 ガツンッっと、なかなかの衝撃。

 ケガ人とは思えないほどの力強さ。

 怒りでリミッターが外れている今のオンドリューは、

 存在値60前後の出力を出すことが出来た。

 これは、あくまでも『火事場のクソ力』でしかない。

 平常時には出せない力。

 ……それほどの一撃を受けて、しかし、センは、

 ケロっとした顔で、


「まあまあ、落ち着いて、オンドリュー様。KOOLになってくださいよ。『キレても、いいことなんかない』って、昔のエロい人も言っていることですし」


「……っ……さ、流石、あのカドヒトを追い返しただけのことはある……貴様のステータスは本物だ……凄まじい防御力……だが、いつまで耐えられるかな」


 そう言ってから、オンドリューは、気合を入れなおし、

 魔力とオーラを練り上げた上で、

 何度も、何度も、何度も、センの顔面に拳をたたきつけていく。

 殴るたびに腕が軋むが、怒り印のアドレナリンに身を任せて、暴力を徹底するオンドリュー。

 普通の一般人であれば、もちろん絶対に死ぬ。

 十七眷属の面々であっても、これだけの連撃を受ければズタボロになってしまう。

 それほどの猛攻をたたきつけられていながら、

 しかし、センは、いっさいダメージを受けている様子がない。

 『大量の連打を浴びせているというのに、かすり傷の一つも負っていないセン』を見て、

 さすがのオンドリューも、KOOLになってきた。

 冷静になったというか……普通に引いた。


(こ、これだけ殴って……無傷? バカな……どういう……そんな……)


 いくら『ケガを負って力が出ない』とはいえ、

 オンドリューが、本気でオーラと魔力を練り上げて、

 これだけ、何度も何度も何度も殴れば、

 さすがに、たとえ相手が龍神族だろうと、

 絶対に、傷の一つぐらいは与えることが出来る。

 それは絶対の事実。

 なのに、目の前の下等な魔人は、完全な無傷。

 まるで、オンドリューの拳を、そよ風ぐらいにしか思っていない様子。


「ど、どういう……なぜ……な、なんだ、貴様……」


 恐怖を感じ始める。

 あまりにも歪なセンの全てに、畏怖を覚えるオンドリュー。

 軽く震え始めたオンドリューに、

 センは、


「オンドリュー様、どうやら、ケガの影響がだいぶ大きい様子ですねぇ」


 いつまでも、淡々と、感情を見せることなく、

 まるで、足元で蠢く虫でも見ているような冷淡な目で、


「全然力が入っていないじゃないですか。おいたわしや。寝ていた方がいいですよ。というより、本気で真剣に治療に専念すべきですね。あなた様の素晴らしいパワーが、見る影もない……ちゃんとケガをなおして……冷静になって……それでも、まだ、俺に、何か言いたいというのであれば、その時に話を聞きますよ。というわけで、ほら、ほら、寝てください」


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