第38話 寂しさ。


「どうだった、ジバ。俺は最強だろう?」


「……はい。あなた様は……まぎれもなく……この世界の頂点。あなた様を超える者など……存在するはずがありません……」


「いてくれた方が、俺的には面白いんだけどな。『俺より圧倒的に強い化け物』とかは困るけど……『磨いた力をぶつけられる頑丈なオモチャはいて欲しい』って感情は、普通にある。『俺からの庇護(ひご )』 を『必須』としている『弱い命の立場』からすれば迷惑な願いだろうが、俺は『俺以外の誰かの意見』を重視しないから関係ねぇ。俺にとっては俺のワガママだけが全て。……『闘いは、ある程度実力が近くなくてはおもしろくない』と、昔のエロい人が言っていたが……それこそが真理。面白いか面白くないかの視点で言えば……ある程度、競ってくれる相手がいた方がいいにきまっている」


 と、少しだけ寂しそうに、ファントムトークを紡ぐセンの顔を見つめながら、

 ジバは、


(この御方は……あまりにも高みにいきすぎて……寂しさを感じているのか……)


 その高みを理解することはできずとも、

 『考える頭』がないわけじゃないので、

 『推測し予想する事』ぐらいはできる。


(できたら、その寂しさを解消してさしあげたいところだが……私では、流石に実力不足……どうあがいても、私では……この高みと競(せ)り合うことは不可能)


 ジバの中で、大きな『意識の変革』が起こっている。正式に『センの配下』になってから、まだ、数分ぐらいしか経っていないのに、意識の奥では、すでに、『どうすれば、より、センエースに尽くせるか』という思考に溺れる『忠義の使徒』となっている。

 それほどまでに、『センエースの光』は大きかった。

 そして、何より……


(……私と……ビシャを救ってくれた……この方には……私の全てを奉げる……)


 センエースを理解したことで、

 より深く、

 『自分が救われたのだ』ということを実感する。

 先ほどまでは、まだフワフワしていた。

 何が何だかわかっていなかった。

 濁流のような、奔放な『流れ』に押されていただけ。

 ……しかし、閃拳を受け止めた今のジバは、

 全てが、正しく理解できるようになった。

 あの一撃は、まさに天啓。

 ジバの意識は、導かれた。

 ――こうして、ジバの本当の人生が始まった。


 ★


『パルカとクロッカの犬』である『センエース』という魔人に、オンドリューが一発カマされたというウワサは、またたくまに、十七眷属全員に知れ渡った。


 十七眷属は、お互い、協力こそあまりしないものの、『横のつながり』というのは、しっかりしていて、お互いの近況に関しては、ある程度、ガッチリと把握している。

 『十人以上が所属している人間関係グループ』の中で『全員仲がいい』……などというのはありえない話だが、その逆に、『全員仲が悪い』というのもありえない。

 十七眷属の中では、派閥……というほどのものではないが、いわゆる『仲良しグループ』的なものもいくつかあって、その中の一つが、『マス会』と呼ばれる、女性3名のグループ。


 タンピマス(83歳)存在値80。

 メイピマス(72歳)存在値61。

 エトマス (68歳)存在値63。


 周囲の面々は、『マス会』のことを、心の中で、

 『クソババア会』と呼んでいるが、もちろん、口に出したりはしない。

 決して。

 絶対に。

 死んでも。


「……オンドリューのバカが、パルカ様の犬に脅しつけられた件……もちろん知っておるな?」


 と、マス会のまとめ役である最年長のタンピマスが、そういうと、

 昔からずっとタンピマスのゴマすりをしている、最年少(マス会の中では)のエトマス

が、


「もちろん、知っております。情けない男。本当に、男はダメですね。十七眷属は、やはり、わたくしたち、マス会が引っ張っていかなくてはいけません」


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