第27話 もう二度と言いませんよ。


 ミッションを終えて、帰ってきたセンは、

 さっそく、パルカに呼び出されて、

 彼の自室で、ことの経緯を報告することになった。


「……以上で、報告を終わります」


 ある程度、何があったかの詳細を話し終えたセンに、

 パルカは、


「カドヒトを逃がしたのは失態だな……オンドリューのことも、できれば、あんな状態になる前に救出してほしかったところ」

「もうしわけありません!」


 と、元気よくそう言いつつ、しっかりと頭を下げていくスタイルのセンエース。

 そんなセンの下がった頭を見つめながら、

 パルカは、


「……まあ、しかし、君がいなければ、貴重な武将であるオンドリューを失っていたのも事実。……大きな褒美を与えるわけにはいかないが……当然のボーナスぐらいは出してあげよう。……何がほしい? 望みを口にしろ。『当然のボーナス』の範疇におさまってい

る内容であるならば、叶えてやる」


「では、オンドリュー様の配下である魔人のジバと、その妹を頂きたい」


「……ふむ。当初から言っている通り、魔人が欲しいということか」


 そこで、パルカは、腕を組み、センから視線を外して、虚空を見つめながら、


(オンドリューのところのジバ……と言えば、確か、オンドリュー親衛隊の特攻隊長だな。十七眷属に匹敵するだけの力を持つ高性能な魔人。十七眷属以下の配下集の中では、最高位に位置する者のはず……)


 常日頃、他者に対しては、『ザコの名前など覚える気はない』というスタンスを貫いているパルカだが、実際のところ、『それなりの力を持つ者』の名前とポジションと状況は、だいたい把握している。

 臆病で見栄っ張りで慎重……それが、彼、

 レイギン・ロプティアス・パルカ。


「……オンドリューは、十七眷属。高位の地位にある者。彼の配下を勝手にどうこうすることはできない。他の魔人を望め」


 オンドリューが十七眷属であるかどうか、それは、この際、どうでもよかった。

 センの下にジバという強力な魔人をつけることを危惧した。

 『センには首輪をつけてあるので問題はない』……と思ってはいるのだが、しかし、それだけでは完全に安心できないのが、パルカの臆病さ。

 とことん慎重にコトを運んでいく。

 そんな彼の心情をほぼ理解しているセンは、


「ジバをいただけないのであれば、私は、あなたの元を去ります」


と、冷たい声と表情でそう言うセン。


「……」


 センの瞳を見て、

 センが『本気である』と一瞬で理解できたパルカ。

 だから、言葉に詰まる。

 『この場における正解の言葉』を即座に見つけることが出来ず、無為な沈黙の時間が訪れる。


 ピリっとした沈黙を場に馴染ませてから、

 パルカは、ゆっくりと口を開く。


「勘違いしないでほしいのだが、報酬を与えないと言っているのではないよ。君を相手に詐欺をしかける気はない。『報酬をチラつかせるだけで、実際は与えない』……というわけではない。最初から言っていたはずだ。無理な願いは却下だと」


「……」


 センのまっすぐで冷たい目に、少しだけ気圧されるパルカ。

 また、数秒の沈黙が流れた。

 センの圧力に負けた……というわけでもないのだが、

 パルカは、軽く、額に汗を浮かばせつつ、


「……オンドリューの配下の代わりに……ほかの魔人を5人ほどつけよう。オンドリューの配下を務められるほど優秀な者は少ないが……それなりの魔人を……」


「最後にもう一度だけ言います。もう二度と言いませんよ。……ジバをいただけないのであれば、俺は、あなたの元を去ります。決断してください。俺を失うか、ジバを与えるか。二択です。それ以外の選択肢はない」


 その強固な態度を受けて、

 流石にムっとした顔になったパルカが、

 自身の圧力を高めて、


「僕に逆らうのであれば死ぬ。そういう首輪をつけているということを忘れたのか?」

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