第25話 理由を聞いている。



「――それが普通だろ? 『そこまで』で『ブレーキがかかる』のが普通の感性だろ? なんで、てめぇは、その普通で満足できない? なぜ普通でいられない? なぁ、なんでだ?」


 そこで、しっかりと、『カドヒトの目』を見たオンドリューは、


(……こいつには……何を言っても無駄だ……意味のない正義感や人情とやらに支配されている……この手のタイプに話は通じない……)


 カドヒトの人間性を『理解』すると、

 オンドリューは、ギリっと奥歯をかみしめる。

 先ほどまでは、『生きるために命乞いをする』という『プライドを捨てる生き方』を選

 択したが、しかし、今は、もう、その選択肢にすがる気はない。

 なぜなら無駄だから。


「……くそが……」


 完全に命乞いをやめた。

 オンドリューは、比較的合理的な男。

 ゆえに、無意味なことはしない。

 『いくら慈悲をこうても意味がない相手』に対して、いつまでも命乞いをし続けるほど

 愚かではない。

 バカはバカでも、質が違うバカ。

 そして、彼はプライドが高い。

 状況に応じて捨てることはあっても、基本的に、持ち合わせているプライドの質量は膨大。

 十七眷属の一人として生きてきたプライドから、


「ぺっ!」


 と、カドヒトの顔面にタンを吐きつけるオンドリュー。

 そして、


「死ね、死ね、死ね、くそったれ! 私は貴様のような勘違い野郎が一番嫌いなんだ! 貴様よりも弱いことが悔しくて仕方ない! もし、私が貴様を超えていたなら、貴様の全てを奪ってやるのに! すべて、すべて、すべて! 貴様が大事にしている全てを、貴様の目の前で踏みにじり、ツバを吐き、ションベンをぶっかけて、その上で――――――」


 と、散々っぱら、欲望を吐いたあとで、


「呪いあれ! 呪いあれ! 災いあれ! 死後は、貴様を呪い尽くす! 私は死ぬだろうが、私の怨念は残るぞ! 貴様の未来を呪ってやる! 絶対に化けて出てやる! 貴様に幸せは訪れない! 貴様の未来には、大きな絶望しかない! 全てを奪われる! そんな未来しか待っていない! ははははははははは!」


 最後の抵抗として、呪詛を吐いていくオンドリュー。

 最後の最後まで、徹底的に、糞野郎で在り続ける。

 そんなオンドリューに、カドヒトは、冷めた目で、


 グっと、オンドリューの首をしめながら、


「お前の安っぽい捨て台詞に興味はねぇ。理由だ。理由を聞いている」


 と、詰めていく。

 オンドリューは、とことんまで黒い顔をして、

 さらに、喉を切らしてタンを吐き、


「理由なんざあるかぁ! てめぇだって生きているのに理由なんざねぇだろうが!」


「……」


「偉そうな御託を並べやがって、このクソ魔人が! たまたま、強い肉体をもって生まれたクソってだけなのに、増長するのもいい加減にしろ! 家畜以下のオモチャ以下の生ごみ以下が!」


 そんな彼に、

 カドヒトは、


「……いい元気じゃないか、オンドリューくん。ちゃんと、それを……最後の最後まで保てよ」


 そう言い放ってから、

 オンドリューを徹底的に、ボッコボコにしていく。

 全身全霊。

 とにかく全力で、

 カドヒトは、オンドリューを破壊していく。

 とことん強力なバラモウイルスをぶちこんで、

 二度と、絶対に、まともな生活ができないぐらい、

 死んでいるよりも圧倒的に悲惨な状態になるまで壊した……

 ……ところで、

 ようやく、センが、


「よーし! 呪縛を突破できたぞぉ! オンドリュー様、お待たせしました! カドヒトを叩きのめしてみせますよぉ!」


 などと言いながら、

 カドヒトの前に立つセン。


「……ふしゅー……ふしゅー……」


 口から息を漏らすことしか出来ないオンドリューに、

 センは、


「あなたでも勝てないほどの相手……怖くてたまらないですが、しかし、あなたの配下の一人として、全力で、ミッションに挑ませていただきます! いやぁ、しかし、ほんと、こいつは、大変だ! だが、俺は頑張る! 歯を食いしばって、この困難に打ち勝つ! さあ、いくぞ! カドヒト・イッツガイ! 俺の魂を受け止めろ!」


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