第29話 暴走。
――オンドリューは、自室で、歯噛みしていた。
ボロボロの全身を見つめながら、ギリギリと奥歯をかみしめる。
屈辱の中で燃えるような怒りをかみしめながら、
「くそが……あのクソが……カドヒト……くそが、くそが、くそがぁ……」
激痛と苦悶の中で呪詛をはく。
センの回復魔法のおかげで、どうにか、最低限の日常生活をおくれるようになっている
オンドリュー。
介護がなくとも、どうにか、自力で身の回りのことは可能。
ただ、そこまでが限度で、体にまったく力が入らない。
存在値65という圧倒的な力を誇っていた彼だが、今は、50前後の出力しか出せない
状態になっていた。
今でも、決して弱くはないが、しかし、こうなってくると、『立場』も危ぶまれてくる。
彼の『自由が許される地位』は、『高い存在値』があって初めて成立するもの。
まあ、簡単に言えば、プロ野球選手みたいなものと考えていい。
活躍している間は重宝されて高い金をもらえて、チヤホヤされるが、使い物にならなく
なれば、すぐに、手のひらを返されて、お払い箱になってしまう。
もちろん、完璧に回復して、元の力に戻れば、問題はない。
現状だと、『回復する可能性もゼロではない』ので、『今すぐ十七眷属を首になる』ということはない……が、治療がうまくいかず、このまま存在値50そこそこのままでずっと生きていく……となった場合、どこかで肩を叩かれて、他の有能な存在に地位を明け渡すことになるだろう。
ようするに、今の彼は、肘を壊した投手みたいなもの。
その現状を理解しているオンドリューは、
その怒りと屈辱に体を震わせている。
「ゆるさん……絶対に……絶対ぃ……」
深い怒りと、将来の不安で、ブルブルしていると、
そこで、ノックの音が聞こえた。
「誰だ」
「……ジバです」
「……入れ」
許可を受けて部屋の中に入ってきたジバは、
「失礼いたします」
深く頭を下げる。
オンドリューを怒らせないために、徹底的に礼儀正しくいくスタイル。
そんな彼の姿を見て、身勝手な怒りを感じるジバ。
「私が、こんな目にあっているというのに……貴様はずいぶんと元気そうだな」
「……ぇ? あ、ぃや……えと……あ、はい……申し訳ありません」
「あの時、貴様が、もっと、本気で盾になっていれば、私はこんな目に遭わずに済んだのではないか? え?」
「……もうしわけありません……」
「謝罪に心がこもっとらんわぁあああ!」
怒りに身を任せて、
いつも通り、ジバの顔面に、ガツンと拳をたたきつけるオンドリュー。
いつもであれば、ジバは吹っ飛ぶのだが、
今の力では、彼を吹っ飛ばすことはできなかった。
多少、肉が切れて、血が出ているが、その程度であり、さほどダメージを受けている様子はない。
それもそのはず。
現状だと、存在値的には、ジバの方が上なのだから。
仮に今、本気で殺し合いをした場合、
オンドリューは、どうあがいても、ジバに勝てない。
「……ぐっ……」
その現実を目のあたりにしたオンドリューは、
さらに、恥辱と怒りにさいなまれる。
「なんだ、その目は……ジバぁ……」
「は? いえ、なにも――」
「私のことをさげすんでいるのか? 貴様……劣等種である魔人の分際で……この私を……愚弄するのかぁ……」
「お、オンドリュー様……私は何も……」
「ゆるさん……ゆるさんぞぉ……」
カドヒトに向いていた怒りは、カドヒトに何もできない現状では、どうあがいてもはらすことができない。
こうなった場合、この怒りの向かう先は、
『何かが出来る相手』に向かうことになるのが世の必定。
いわゆる八つ当たり。
手の届く範囲でウサを晴らす。
オンドリューは、自分の中でうごめく深い怒りを晴らすために、
ジバの妹を使うことを決断した。
ジバを苦しめる……それ以外に、今は、この怒りを散らす術が思いつかない。
「罰をあたえる。……妹を連れてこい。貴様の目の前で犯す。とことん、徹底的に。犯すだけではない。私と同じだけの痛みを背負ってもらう。その上で、私のクソを食わせ……」
「お、オンドリュー様!」
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