第5話 裏切りのセンエース。
「妹の犬が兄にじゃれつく……それだけのことでしょう? まさか、お兄様は、その程度で怒るような器の小さい男でして? それはないですわよねぇ?」
「……」
パルカは、クロッカに聞こえない程度に、小さく歯ぎしりをして、
「しょうがないな……兄として、妹が拾ってきた犬のしつけを担当しよう」
言いながら、パルカは、アイテムボックスから剣を取り出して、
「僕は動物を扱うのが少し下手でね……おそらく、少々以上に手荒なしつけになってしまうが、その程度で怒りはしないよね、クロッカ。君はそこまで器が小さいレディじゃない」
そう言い捨てると、
クロッカの返事を聞かずに、
パルカは、地面を蹴って、
「はっ!!」
ウイング・ケルベロスゼロ(EW)に切りかかった。
今回、ウイケロは、センから『全力で手を抜いて、そこそこのところでやられろ』というオーダーを受けている。
その命令がなかった場合、おそらく、初手で殺してしまう。
なんせ、センによって魔改造された、この『ウイング・ケルベロスゼロ(EW )』の存在値は250もあるのだから。
驚くべきことに、たかが召喚獣一匹が、パルカの倍以上強いのである。
「ぐっ! 想像以上に硬いじゃないか! 見事と言っておこう!」
ウイケロのバイタリティにおののくパルカ。
もし、ウイケロが、本気で腕を振り抜けば、それだけで、パルカの上半身と下半身は永劫のお別れになるのだが、もちろん、そんなことはしない。
かるく、なでる程度の攻撃にとどめるウイケロさん。
なでるぐらいの一撃だというのに、
「ぐぁあああ!!」
パルカは、余裕で吹っ飛んだ。
そして、大けがを負う。
ウイケロの爪で、でっかい傷が顔面についた。
「ぐっ……き、貴様ぁあああ!」
顔に傷がついたことで、パルカは、
『それまではなんとか整えていた体裁』をかなぐり捨てて、
「龍剣気ランク9!」
本気の魔法を使う。
パルカに可能な魔法の中でも、最高格の魔法。
剣を爆裂に強化する。
さらに、
「武装闘気!!」
本気の『全能力アップ系』の『切り札』まで切っていく。
熱くなると、周りが見えなくなって、暴走する……そういう、まだまだ坊やなパルカ。
「獣風情が、この僕の顔に傷をつけるなどぉおおおお!!」
バチギレでウイケロに襲い掛かるパルカ。
ぶっちゃけた話、
その程度では、ウイケロには勝てない。
そこらの一般人なら、今のパルカに震えることしかできないが、
センの魔改造を受けているウイケロにとっては、しょせんザコ。
しかし、ウイケロは、
「ぐぉおおおおお!!」
パルカの剣を受けて、大ダメージを負った。
防御に回していたオーラを削り、パルカの攻撃が通るように調整したのだ。
そのまま、連撃をあびせてくるパルカの猛攻。
ウイケロは、いい感じにダメージを受けたところで、
「ぐ……ぐぉお……っ」
『死にました感』を出して、その場から消失した。
――強敵ウイング・ケルベロスゼロ(EW)を倒したパルカは、
得意満面の笑みになって、
「ふははははははは! なかなか動けるウイング・ケルベロスだったが、所詮、僕の敵ではなかったなぁ! いい運動になったが、まあ、それだけだぁ! ふはははははははは!」
高笑いが止まらないパルカに、
センが、
「おお、すごい、すごい。俺のウイケロを、ここまでアッサリ倒すとは……世界の支配者を名乗るだけのことはある。おみそれしやした」
そう言いながら、拍手を送る。
「ふふん。己が『井の中の蛙に過ぎない』ということを思い知ったかね?」
「そうっすねぇ、上には上がいるもんすねぇ」
「クロッカの犬……センだったか? 君は確かに、ただ者ではない」
パルカが、『相手の名前を正しく認識していること』を示すのは、ちゃんと認めた証。
ゆえに、ここから先、センに対するセリフは、すべて本音。
「君は、優れた力を持っている。それだけの力を持っているのであれば、驕(おご)るのも仕方ないかもしれない。……だが、今、君が自分で言ったように、上には上がいるのだ。そのことを忘れないように」
「ははーっ」
と、大げさに頭を下げるセン。
その態度に気を良くしたパルカは、
自身の顔の傷に、治癒ランク8の魔法を使いながら、
「ふふ。力の差を思い知って、従順になったか……本当に獣と変わらないな。知的生命は『身分で相手をはかれる』が、獣は、殴られないと分からない。……しかし、まあ、愚かな夢を抱いてしまう人間よりも、従順になった獣の方が御しやすい。……どうだ、セン。僕の下につく気はないか? クロッカは性能だけを見れば優秀だが、思想が少々独特すぎる。『この子と一緒に生きる道』には大きな困難が付きまとうだろう。僕を選んだ方が賢いよ」
「んー、まあ、そうっすねぇ……」
センは、軽く悩んでいるフリをしてから、
「じゃあ、了解っす。あなたの下につきますよ。今後とも、どうか、よしなに」
「良い子だ」
―――――――――――――――
・あとがき
クロッカをめちゃくちゃ裏切っていくスタンスのセンエース。
好き放題、自由気ままに、性格悪く、世界をぶっ壊していく物語が、本格的に幕をあける。
――しばらくは毎日投稿で、最初の区切りがついたら、隔日投稿していきます。
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200話ぐらいはストックがありますので、安心して読んでいただければと思っております。
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