第4話 獰猛な犬。


「クロッカ。コレはコミュニケーションが取れないたぐいのゴミかい?」


「クロッカ様よ。そして、それは私のペットであり、決してゴミではないわ」


「クロッカ様、君のペットはしゃべれないのかい?」


 昔からそう。

 クロッカの『お嬢様的ワガママ』に付き合ってあげるのがパルカ。


「いえ、しゃべれるわ。特に無口というわけでも……ないことはないけれど、質問すればキチンと答え……るというわけでもないけれど、一応『受け答えが出来ない』ということはないわ」


「そうか。教えてくれてありがとう」


 そう言うと、

 直後、

 パルカは、拳にオーラを込めて、


 ――ガツンッッ!!


 と、センの頬に拳を叩き込んだ。


 龍神族の強大なオーラが込められた拳を受けて、

 センは回転しながら吹っ飛んだ。


 ズザァアっと、地面にダイブ。

 パルカの一撃は、最初の世界でぶつかったトラックの衝撃を遥かに超えている。


 自分の拳に吹っ飛んだ虫けらを見下ろしながら、

 パルカは、


「僕が質問したら『大きな声で返事をして即答』しなければならない……それがこの世界のルールなんだよ。――よかったね、一つ賢くなれて」


 そう言ってから、

 『センを殴った拳』を『高そうなハンカチ』で拭う。


 ぶっとばされたセンは、

 ほんの少しだけ『どうするべきか』と考えてから、


「よっと」


 アクロバティックに立ち上がり、

 衣類のホコリをパパっと払って、


「殴ったね」


 前を置いてから、


「親父にもぶたれたことないのに!」


 と叫んだ。

 当然、その奇妙な戯言に対し、

 パルカは、


「……はぁ?」


 素で、眉間にしわを寄せてしまった。

 明らかに困惑している彼に対し、

 センは、


「気にするな。ただのテンプレだよ。中身のない言葉で世界をケムに巻く。それが俺のファントムトーク。メリットは一切ないが、『嫌われる』というデメリットに関しては、他の追随を許さない、この世で最も愚かなトーク術。真似すると死ぬぜ、社会的に」


 などと、さらにワケのわからないことをつぶやいてから、

 アイテムボックス(亜空間倉庫)に手を伸ばして、

 一つの指輪を取り出すと、

 左手の中指に装着し、


 パルカに対し、ファ〇クユーのフォームで、その指輪を見せつけて、


「――こい、ウイング・ケルベロスゼロ(EW)」


 宣言の直後、指輪がカっと光った。

 指輪を中心として、ジオメトリが広がっていき、

 そして、その向こうから、



「グルル……」



 翼をはやしている三つの頭を持つ犬が現れた。


 強大な力を持つ『ウイング・ケルベロスの魔改造バージョン』。


 その威容を目の当たりにしたパルカは、


(すさまじい力を持ったウイング・ケルベロス……なるほど、クロッカに気に入られただけのことはある……確かに、ただ者ではない。しかし……)


 ニっと笑い、


「僕の前で、獰猛な獣を召喚するとは……貴様、自分が何をしているのか、わかっているのか? 龍神族に手を出したら――」


「心配ご無用。今から、俺が召喚したウイケロが、俺の命令を遵守して、お前を殺すけど、でも、すべては不幸な事故だから。それ以外の何物でもないから。だから、たぶん、許される気がする。だって事故だもん。悪意はないもん。事故だもん」


「……そうか、なるほど……ようやく合点がいった。貴様は頭が悪いんだな」


「気づくのが、3手ほど遅かったな。アホを相手にしたら損をするだけ。それが、この世界のルールだ。よかったな、一つ賢くなれて」


 そこで、パルカは、チラっと、クロッカに視線を向けた。

 すると、クロッカはすまし顔であくびをしていた。


「……いいのかい、クロッカ。さすがに、これは冗談ではすまないよ」


「あら、どうして?」


「どうしてって……」


「妹の犬が兄にじゃれつく……それだけのことでしょう? まさか、お兄様は、その程度で怒るような器の小さい男でして? それはないですわよねぇ?」


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