第6話 パルカと契約。
「じゃあ、了解っす。あなたの下につきますよ。今後とも、どうか、よしなに」
「良い子だ」
「いえいえ、そんな」
そんな二人のやりとりを受けて、
後ろで見ていたクロッカが眉間にしわを寄せて、
「……どういうつもり、セン。私を裏切るつもり?」
「どっちにもつく。で、どっちからも報酬をもらう。俺なら、ダブルワークでも余裕でこなせる。それでもいいでしょう? 別に、あんたらが殺し合いをして、その剣として俺が使われるってわけでもないんだから。どっちの命令もきいてあげますよ。マルチタスク余裕な俺からすれば、クライアントは多い方がいい。これで、全員がウィンウィン。でしょ?」
そう言いながら、含みのある視線をクロッカに送るセン。
その視線の意味が理解できないほどクロッカはバカじゃない。
「……」
センの視線を受けて、クロッカは、
(……なるほど、パルカの『懐』にもぐりこむつもりか。……センが、本気でパルカなんかの『下』につくとは思えない。この男は、それほど安い男じゃない)
これまでのセンとの対話から、センの『意識の高さ』みたいなものは理解できている。
だから、センの思惑を理解することができた。
(……パルカのもとでスパイをやらせるという一手。……危険な手だけれど、やらせるだけの価値はあるか……)
数秒、思案してから、
「確かに、全員がウィンウィンになるわね。……でも、大丈夫? お兄様の人使いは荒いわよ。私だって、もちろん、今後、あなたを、とことん荒く使い潰すつもりでいる。私たち二人から無茶な命令を受けて、それをこなして……というのは、流石に体がもたないのではなくて?」
「心配無用。俺の根性と体力は底なしなんで。問題なく全てを処理できますよ。魅せてあげよう、完璧なブラック企業の犬……社畜の真髄とやらを!」
★
正式な契約を結ぶため、
センは、パルカの指示に従い、パルカの自室にやってきていた。
無駄に豪華な広い部屋。
しかし、その豪華さに対して、センは、特に何も感じない。
なぜなら、前の時に王様は経験しているから。
そして、前の世界の王城の方が、遥かに豪華だったから。
だから、今更、この程度の豪華さ程度に驚きはしない。
『世界のランク』としては、『前回の人生で過ごした第8エックス』よりも『第17ベータであるこちらの世界』の方がかなり格上だが、前の世界『第8エックス』で、センは、『全ての命の頂点に立つ、ぶっちぎり最強の完全なる天帝』となったため、待遇も破格だった。
シャンデリアも絨毯も、『最高位の中の最高位』は既に経験済み。
パルカの部屋にあるものも、なかなかの質量だが、しかし、前の世界の自室の小物の方が遥かに上。
……しかし、センは、そんな自分の本音など、おくびにも出さず、
「いやぁ、すごい部屋ですねぇ! さすが、龍神族の次期当主! パねぇえええ! すてきぃいい! 抱いてぇえええ!」
と、小物感を出しながら叫ぶ。
この男……最高位の実力を持ち、天帝の経験もありながら、しかし、
『小物』をやらせたら、世界一クラスの実力を魅せつけるという、
なんとも特異がすぎる資質をもっている。
センの小物ぶりに対して、さらに気をよくするパルカ。
『相手の小物ぶりに対して安心感と優越感を抱く』……それはそれで小物なのだが、しかし、パルカは、まだ、大物ではないので、この程度の現状が関の山。
その辺の細かい人間性の『資質』みたいなものも、
実は、センの『厳しい目』で『査定』されていたりするのだが、
しかし、パルカは、それに気づかず、
「そこに立て、セン。これから先の話をしたい」
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