第8話 首輪。



「俺はパルカ様を裏切りませんよ。安心してください。俺、嘘ついたことないっすよ。マジっすよ。もっと言えば、『嘘』って概念が一体なんなのかすら分からないレベルですもん。なんすか、『嘘』って。俺は、それが、おいしいかどうかを聞けばいいんですか?」


「……その言葉を信じるほど愚かではない……というか、明らかに嘘だが……まあ、それはいい。……もし、『私を裏切る気などない』というのが『本当に本心』であるならば、その首輪をつけたまえ。それが……それだけが、私に対して、君が示せる『たった一つの

誠意』なのだよ、セン」


「大丈夫っすよ、パルカ様。俺は裏切りません。なので、これは必要ありません。アンダスタン?」


「……」


 パルカの『センを見る目』が、どんどん冷たくなっていく。

 その冷たい視線の精度を正しく理解したセンは、

 そこで、ゆるい『お遊び』をやめて、

 ニヒルでダーティな笑みを浮かべると、


「ふふ……まあいいっすよ。ただし、これは、契約。それも最上級の契約。命を担保にしたこの世で最も重たい契約。それを、ちゃんとご理解いただけていますか?」


「僕をなめているのか?」


「あなたをナメる気はいっさいない。契約の重さを『共有』しておきたいだけです。こういう最大級の契約を結ぶ際は、お互いに『どれだけわかっているか』もすり合わせておくもの。これって、大事なことでしょう? 違います?」


「……君の言葉は正しい。……いいだろう。ちゃんと言葉にしておく。この契約の重さを、僕は正しく理解している。君がその首輪をはめて、命をかけ、僕に完全な忠誠を誓うのであれば……僕は、誠意をもって、君に報酬を払うと……誇りにかけて誓おう」


「その言葉、どうか、お忘れなきよう」


 そう言いながら、

 センは、パルカの目の前で、首輪を装着した。

 ガチリと、まるで食いつくように、センの首にフィットする。

 別に痛みとかはない。

 しかし、首輪から感じる。

 『いつでも食い殺してやる』という強い意志。

 ごちゃごちゃと言いはしたものの、

 しかし、最終的には、

 『キッチリと覚悟を決めて、躊躇なく、首輪を装着してみせたセン』に、

 パルカは、


「……見事な覚悟だ、セン。君は、全てにおいて優れていると言える。ポテンシャルも、メンタルも……すべてが、常軌を逸した領域にあると言えよう」


「ありがたい御言葉、光栄の至れり尽くせり」


 とだいぶ意味不明なことを言いながら、頭を下げたセン。


 ちなみに、心の中では、以下のように考えていた。


(この首輪……なかなかのアリア・ギアスがかかっているが……まあ、でも、そこそこだな。存在値200もあれば、問題なく処理できる程度のもの)


 存在値200は、龍神族であっても不可能な出力。

 ゆえに、パルカの『誰にも外せない』という言葉に誤りはない。

 実際のところ、この世界に存在する者で、この首輪をどうこうできる者は存在しない。

 ……しかし、センだけは例外。

 いつだって、どんな時だって、彼だけは常識の枠外にいる。

 存在値500を超えているセンの前では、この程度の首輪は、そこらの犬の首輪と大差ない。

 ちょっと力をいれれば壊れる程度の脆い鎖。


「今後は、約束どおり、魔人を君の下につけるとしよう。もちろん、報酬として与えるのだから、いきなり全てというわけにはいかない。まずは君に仕事をこなしてもらう。その結果に応じて、下賜(かし)していこうと思う」


「あざっす」


「……ああ、ちなみに、『これ』は言うまでもないが、一応言っておこう。魔人を下につけると約束はしたが、『犯罪者』だけは話が別だぞ。特に、龍神族や十七眷属に反旗を翻している魔人を君の下につけることはできない。天上の神に逆らった魔人は、確実に処刑する」


「まあ、それはしゃーないっすね」


「特に、『ゼノ』の連中は絶対にだめだ。むしろ、ゼノの連中は、率先して狩ってもらう。僕が君に臨むことの最優先は、ゼノの壊滅だ」


 『邪教団ゼノ』は、この世界の裏に潜む闇の秘密結社。

 簡単に言えば『徒党を組んだ魔人のテロ集団』である。

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