第23話 (棒)。


 センとカドヒト。

 互角に見えている両者の武。

 そんな、まだまだ長引きそうな闘いの中で、

 カドヒトが、センと互角にわたりあいつつ、


「センエース! 俺の下につけ! お前も魔人だ! こっち側にいるべきだろう!」


 そんなスカウトを開始した。

 さらに、カドヒトは、チラっと、ジバにも視線を送り、


「そっちの魔人も、俺の軍門に下れ。優秀な魔人は、すべて、俺の下で働くんだ。そして、人類を打倒しろ! 魔人が生きやすい世界に変えるんだ! それを拒む理由などないだろう!」


 その叫びに対して、

 ジバは、


「……妹が捕まっている……私が裏切れば、妹はひどい目にあってしまう……だから、無理だ……あなたの下につくことは出来ない」


 と、傷だらけの本音を口にする。

 そんな彼に、カドヒトは、希望をちらつかせる。


「助けてやるさ! 俺が全部、救ってやる! 俺の下につけ! そして、人類を……『己を優等種だと勘違いした人類(バカ)ども』を駆逐しろ! それ以外に、魔人の未来はない!」


「……」


 心が揺れている様子のジバに対し、

 いまだ、動けずにいるオンドリューが、


「ふざけるな、ジバぁ! 何を考えている! わかっているのか! もし、裏切ったら、

貴様の妹は――」


 そこで、カドヒトは、

 センとの殴り合いという戦場からいったん離れ、

 オンドリューとの距離をゼロにすると同時、オンドリューの腹部に、


「ぶふっ!」


ドスンと、重たい一撃を叩き込む。


「黙ってろよ、カス野郎。今は、てめぇのターンじゃねぇ。つぅか、もう二度と、てめぇにターンはまわってこねぇ。てめぇの無力さをかみしめて、その果てに死ぬ……それだけがてめぇに残された、たった一つの道なんだよ」


「ふざけ……るな……絶対に許さんぞ……」


 と、まだまだ元気なことを言っているオンドリューさんにイラっとしたのか、

 カドヒトは、


「いい目をしているじゃないか、クズ野郎」


 ドス黒い笑みを浮かべて、


「その元気……絶対に保てよ」


 そう言いながら、オンドリューの全身、到る箇所に、重たい拳を叩き込んでいく。

 鈍痛を積み重ねたのち、腫れた肉に毒ナイフを押し込む。


「ぐぁあああああ!」


「これで終わりじゃねぇぞ。……炎術ランク3」


 ナイフに炎を纏わせて、熱の痛みも与えていく。


「うぎゃがやがあはやが!!」


 一瞬で失神しそうになるほどの痛みと熱。

 だが、気絶することを許すほど、カドヒトさんは甘くない。

 回復魔法で、最低限回復させて、

 また、痛みを与えて、また回復……

 そんなことを、延々に繰り返していく。

 そんな中で、オンドリューは、先ほどまでカドヒトと『いい感じに戦っていたセン』に

 視線を送り、


「……せ、セン……たすけ……ろ……なにを……黙って見ている」


 と、救援要請をおくる。

 カドヒトがオンドリューに殴り掛かって以降、

 なぜか、ずっと黙って、カドヒトの暴行を観察していたセンは、

 『たはは』と分が悪そうに笑いながら、


「いやぁ、すんません、オンドリュー様。実は、俺も呪縛の魔法をくらっちゃっていて……あ、もちろん、無詠唱でね。……で、現状、どうにか、解呪しようと必死に試みてんすけど……これ、だいぶ強い魔法でしてねぇ……いやぁ、きついきつい。くぬぅうううう! がんばれ、俺ぇ(棒) 負けるな、俺ぇ(棒 )」


「……」


 絶望の顔をするオンドリュー。

 オンドリューからすれば、センの発言が本当か否かはどうでもよかった。

 事実として、センが動いていない。

 その絶望だけが、今のオンドリューの全て。

 悲痛な顔をしているオンドリューに、

 センは、『たはは顔』のまま、


「というわけで、もうちょっとだけ耐えてください。もうそろそろ、この呪縛をといて、助けにいけそうなんで。俺、頑張ってるんで。やってやる気満々なんで。ふんぬぅううううう(棒 )」


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