第19話 私を助けろ。


「……う……ぐっ……」



 気絶しかけているオンドリューに、

 カドヒトは、


「治癒ランク2」


 回復魔法をかけて、気絶できないようにして、


「まさか、『このまま死んで終わり』になるとでも思ったか? 甘いんだよ、カスが。オンドリュー、てめぇの地獄は、まだ始まったばかりだ。まだまだ先は長いぞ。覚悟しろ。てめぇには、徹底的に、命の痛みを教えてやる!」


 カドヒトの目から、『深い狂気』を感じ取ったオンドリューは、

 ついに、


「な、何をしている、ジバ!! さっさと支援しろ! 妹を殺されたいか!! 犯すだけではなく殺すぞぉおおおお!」

と、躊躇なく、ジバに救いを求めた。


 極限状態にプライドを保てるだけの胆力は持ち合わせていない。

 もはや、センの煽りなど意味をもたない。

 ……ちなみに、オンドリューは、平常時だと、常に、ジバのことを、虫けらのように扱っている。

 しかし、こうして、『緊急事態』になると、真っ先に、ジバを頼る。

 オンドリューの、実質的な、ジバに対する信頼度がうかがえる。

 本来であれば、オンドリューは、ジバを最も大切にすべき。

 もっとも優秀で、もっとも従順な者は厚遇すべき。

 ……だが、できない。

 それが、差別意識という無意味な足枷。

 この足枷は、差別を受ける者にとってはもちろん、差別をする側をも縛り付ける鎖。


「私を助けろ! それができたら、妹を犯すのもやめにしてやる!!」


「は、はい!」


 命令を受けたジバは、即座に動き出す。

 ジバは、妹のためならなんでもする。

 大嫌いなパワハラ上司を助けることもいとわない。

 本心では、オンドリューの事を殺してやりたいと思っている。

 ジバは、今日だけではなく、今日まで、ずっと、オンドリューにいびられてきた。

 だから、本当なら、絶対に助けたくない。

 ……しかし、助ける。

 すべては妹のため。

 ――ジバは、


「うぉおおおおおおお!!」


 オンドリューを救援しようと、

 『オンドリューを縛っている鎖』を全力で引きちぎろうと試みる。

 だが、すぐに、


(不可能……この鎖は……私じゃどうすることも出来ない……)


 その理解に届くと同時、ジバは、

 カドヒトを睨みつけ、


「どうやら……オンドリュー様を救出するには、貴様を殺す以外に方法がないようだ」


 その理解に届いたのは、ジバだけではなく、他の配下連中も同様。

 オンドリューでもジバでも切れない鎖を自分たちがどうにかすることは不可能だという理解。

 配下連中は、ジバのことを『下等な魔人』と見下しているが、

 それなりに長く一緒にいたので、ジバが、十七眷属に匹敵する実力であることは理解している。


 なので、『正攻法ではどうしようもない』と瞬時に悟り、

 ジバの支援に徹しようとする。

 どいつもこいつも、『性根が腐っているだけ』で別に『バカ』ではないので、とるべき行動は理解している。

 全員で、必死になってカドヒトを殺そうとしている。

 ……オンドリューは、意外と、『配下を大事にするタイプ(魔人以外 )』 である。

 粗野で乱暴で、パワハラ体質なのは間違いないし、アルハラやセクハラも普通にする最低野郎だが、部下の福利厚生に関しては、結構手厚い。

 例えば、『犯し飽きた女を回してやる』とか、『ストレス解消用のサンドバックの魔人を手配してやる』とか。

 そういう配慮はしっかりとしている。

 つまり、配下連中は、オンドリューの下につくことで、いつも、おいしい思いをしている。

 だからこそ、配下連中は、今、必死になってオンドリューを助けようとしている。

 オンドリューがいなくなると、そういう甘い汁にありつけなくなるから。

 非常に分かりやすい利害関係。

 目に見えない『情による信頼関係』という脆いヒモよりも、よっぽど信頼できる硬い絆。

 オンドリューは、基本的に、『打算的な生き方』しか出来ない。

 決して『情』を信じない。


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