第16話 奴隷根性。



「まあ、簡単に言えば、お前は今日から俺の剣ってことだ。使い潰してやるから、俺のために、馬車馬のように働け。わかったな」


「残念だが、それは無理だな。私は、オンドリュー様の道具だから」


「あんなチンケな野郎に、お前はもったいない。お前の社畜力は、俺の下でこそ輝く」


「評価してもらえてうれしいよ。そんなことは滅多にないから」


 そう言って笑うジバ。

 センの言葉を、『ただの、ちょっとしたジョーク』と捉えているがゆえ。

 まったく本気で相手をしていないというのが良く分かる笑顔。

 だが、センは、この手の冗談を口にしない。

 基本的に、ずっと、言動がバグっているセンだが、

 しかし、こういう時の発言が冗談で処理されることはあまりない。

 絶対にないとは言わないが……基本的にはないのだ。


「ジバ、お前と、お前の妹の人生は今日から変わる。この劣悪な環境の中で、それでも、折れることなく、盲目的に働き続けることができる、お前の、その『奴隷根性』は、なかなかの逸品であると俺は認識する。俺に選ばれた事実を、お前は、今後、死ぬまで永遠に誇りとするだろう」


 などと、センが、そう呟いた直後のことだった。

 ジバが、毒矢のワナを踏んでしまった。


「しまっ」


 ジバは、反射で、その毒矢を自分の体で受け止めようとしたのだが、

 しかし、とんでもない速度だったため、ギリギリのところで間に合わなかった。

 それだけなら、ただの失態ですんだ。

 だが、とても厄介なことに、

 その毒矢は、オンドリューの胸に突き刺さってしまった。


「……むっ……」


 オンドリューは、心底不愉快そうな顔で、胸から、その矢を抜き、


「……ジぃぃバぁぁ……」


 と、ブチギレた顔で、ジバのミスに対して、『強い不快感』と『激しい怒り』を向ける。

 ジバは、即座に、オンドリューの足元に身を投げ出して、

 渾身の土下座で、


「申し訳ありません! オンドリュー様! 申し訳ありません! 申し訳ありません!」


 と、必死になって頭をさげる。

 ちなみに、言っておくと、オンドリューは、耐性値が高く、『装備している鎧』も高性能であるため、あの程度の毒矢でどうこうなることはない。

 ちょっとだけ毒ったが、しかし、それは回復魔法で、すぐに処理した。

 ダメージは一切なく、ケガも後遺症もない。


 ――対して、ここまで、ずっと最前線で体を張ってワナを喰らい続けたジバはボロボロ。

 回復魔法もちょこちょこ使ってはいるが、ゼノとの決戦のために、あるていど温存して

 いるため、現状、完全な状態とは程遠い。

 無傷のオンドリューの足元で、ボロボロのジバが土下座をしているという、

 普通に、とんでもなく理不尽な構図。

 オンドリューは、

 一度、フっと笑ってから、

 土下座しているジバの肩にポンと手を置いて、


「大きなミスだな、ジバぁ……」


 ジバの肩に置いた手にグっと力を込めていくオンドリュー。


 獲物を見つけた性悪狩人の目。

 捕食ではなく甚振ることを主軸においている最低なハンター。


「これほどの大きな失態……まさか、ただですむとは思っていないよなぁ?」


「罰は受けます! 私が! 私が何でもいたします! どんな罰でも! ですから――」


「……『妹には手を出すな』と? そんな命令を、なぜ、私が聞かなければいけない?」


「命令などと! お願いいたします! 私はどうなってもかまいません! ですから、どうか!」


「……ダメだ。帰ったら、覚悟しておけ」


「……」


絶望の表情になるジバに、

オンドリューは、


「くくく……まあ、殺しはしないさ。『お前を働かせるためのエサ』を潰しはしない。……しかし、罰は受けてもらう。……お前の妹、だいぶいい女になってきた。そろそろ食べごろだとは思っていたんだ」


「……どうか……オンドリュー様……これからも、必死になって、あなた様に尽くします……ですので……どうか……どうか……」


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