第18話 私に勝てる者など存在しない。


「逃げ回るだけでは、一生勝てんぞ! 勇気をもって立ち向かってきたらどうだ、このヘナチョコめぇ!」


 その挑発に対して、カドヒトは、一切反応しない。

 クールに回避を徹底している。

 今のところ、まだ、カドヒトの戦闘スタイルは見えてこないが、

 『愚直なパワーの受け流し』は、かなり、お上手な様子。

 オンドリューの猛攻をある程度、いなしてから、

 カドヒトは、


「だいたい分かった」


 ボソっと、そう吐き捨ててから、


「腕力だけに頼るザコ。てめぇなんざ、ただの獣。俺に狩られて死ね!」


 スルリと、オンドリューの懐に踏み込んで、流れるように『アイテムボックス』から取り出した『毒の塗られたナイフ』を、オンドリューの心臓部にグスっと突き刺した。


「うぐっ!」


「筋肉バカが! 手玉だぜ!」


 そう叫びながら、ザクザクザクッと、

 何度も、何度も、毒ナイフを、

 オンドリューの腹部につきたてていく。


「ぐぅうう! 調子にのるなぁああ!」


 全力の咆哮。

 そのまま、オンドリューは、『リミッターの外れた反撃』を開始した。

 反射を超えた、本能だけの、その一撃は、

 偶然、カドヒトの体を正確にとらえる。


「ぶぇええっ!」


 血を吐きながら吹っ飛ぶカドヒト。

 壁にたたきつけられて、


「げはっ!」


 さらに多くの血を吐くカドヒトに、

 オンドリューは、


「十七眷属である私に! 貴様のようなカスが勝てる道理などない!!」


 プライドを叫び、さらなる追撃を加えようと、カドヒトに突進。

 矛を突き出し、心臓を一突きにしようとする。

 そのムーブに対し、カドヒトが、


「かかったな……バカが……」


 ニっと笑い、


「今だ!」


 その宣言の直後、オンドリューの足元に魔方陣が浮かび上がる。

 そして、その魔方陣から、無数の、魔法の鎖が生えてきて、

 オンドリューの体に絡みつく。


「うっ!!」


 拘束されたオンドリュー。

 オンドリューは、全力で鎖を引きちぎろうとする……が、


(こ、この魔法の鎖。私のオーラと魔力を抑制している……マズい。抵抗できない……おそらく、強力なアリア・ギアスがかけられている……)


 状況を理解するや否や、

 オンドリューは、『背後にいるジバ』に、支援を求めようとした……

 ――が、しかし、

 そこで、『それまで黙って趨勢を見守っていたセン』が、


「偉大なる『誇り高き十七眷属』のオンドリュー様ぁ、だいぶヤバそうっすねぇ。手ぇ貸しましょうかぁ? 全力介護しないと死にそうなんで。あなた一人だけじゃ、もう、絶対に無理そうなんで。ここは、もう、プライドとかかなぐり捨てて、優秀な魔人である俺やジバに泣きついて、すがりついて、慈悲を請うて、救いを求めた方がいいんじゃないっすかねぇ? ねぇ、そうしましょうよぉ」


 と、ゴリゴリに煽ってきた。

 こうなってしまえば、筋肉バカのオンドリューさんは、もう、誰にも頼れない。

 彼は優秀でクールで論理的合理的に状況を判断できる男だが、

 それは、平常時限定の話。


「ふざけるなぁああ! この程度の状況で、貴様らに助けなど求めるかぁ! 見ていろぉ! 私は、問題なく、このザコを殺せる! 私に勝てる者など存在しない!!」


 その発言に対して、

 カドヒトが、呆れた口調で、


「……龍神族は、全員、お前に勝てるだろうし、十七眷属の中でも、ラーズとか、タンピマスとか、カルソンは、お前に勝てるんじゃね? あれ、カソルンだっけ……まあ、なんでもいいや。ともかく、戦闘系の上位者は、たいがい、お前より上だろ。あと、俺も、お前に勝てる。オンドリュー、お前は、それなりに『ちゃんと強い』が……『いくらでも替えのきく特攻タンク』の一体でしかない。そういう、ただの肉体バカは、俺にとって、おいしいカモ」


 そう言いながら、毒のナイフに、さらなる強化バフを加えつつ、

 動けないオンドリューに近づいて、


「さあ、楽しい音楽の時間だ」


と言いながら、カドヒトは、オンドリューの全身の到る箇所に、毒ナイフを刺していく。


「ぐへぇつ! うげぇつ!!」


「もっと泣け! 叫べ! もっとリズミカルに! 音程がずれているぞ! もっと、俺が身震いするほど! 感動するほどの声を出せ! 作曲者の意志を読み取るんだ! もっとうたうように! メリハリをつけて! コントラスト大事に!」


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