星の守り人 37話 人員選定

 ここからは地球防衛部隊結成までのお話。


 国連機との協議の結果、地球防衛部隊は3人1組のチームを世界各国の軍隊に置くことになり、選ばれた国は、アメリカ、イギリス、ロシア、オーストラリア、インドそして日本の6ヶ国に決まった。選出されるのは3名のみなので国の軍事力等は考慮せず、距離的に地球全土をカバー出来るような配置が優先された。日本が選ばれた理由は当然、折原がいるから。

 選ばれた国々は秘密裏に政府から担当官を派遣し軍の中から適材となる人員を選出、アームズを扱う上で出た条件は、動体視力が最も高くなるとされる20才前後、強いGに耐えられる強い身体、そして未知の武器を扱い未知の敵と戦える強い心。日本においても同様の条件で選出が始めったが、日本に限りその決定権は政府には無かった。


「俺が決めるんですか?」

「ケントさんが背中を預ける仲間だからね、もちろん日本政府に協力してもらうわよ?でも最終決定はケントさんが良いと思うわ」

「背中を…預ける」


 今までに1度だけオルカと共に出撃した事はあるが、結局1人で倒すことになったので、今のところ誰かと共闘した事はないし、中学、高校とまともにスポーツに打ち込んだことが無いので、チームワークというものもいまいちピンと来ない。


「どういう人を選ぶべきなのでしょうか…?」

「うーん、ここだけの話だけど、年齢以外は正直そこまで厳しい条件は無いのよね」

「え?」

「ちゃんと訓練している人なら筋肉も体力も問題ないだろうし、適正って言っても地球の乗り物と操作方法違いすぎるからね。それに精神面だってその時にならないとわからないでしょう?」

「確かに…俺も年齢以外該当していませんしね」

「まぁあなたは覚醒してるからちょっと別格だけどね」


 誰でも良いと言われると余計に悩んでしまう。例えばこれから色んな人を紹介されたとしてどう選ぶ?経歴?それとも訓練の成績?


「1番大事なのはさっきも言ったけど、背中を預けられるかどうかよ。実力じゃなく、精神面でね」

「精神面?」

「チームで戦うことになれば当然役割分担ができる、自分の役割以外をカバーしている暇はない、そういう時に全てを任せて自分の役割に専念出来るか、それが重要よ」

「なるほど…」


 想像してみる。自分は目の前のコロナイザーを相手にしている、横を別の1機が通り抜け街の方へ、止めなければ確実に被害が出るけど自分は手が離せない、そんな時に任せられる仲間…


「あ…」

「どうかした?」

「います…丁度良いのが2人…」


 *


 日本は第二次世界大戦敗戦後、他国に攻め入る戦力を持つことを禁じられ、自国を守る場合のみ戦闘を許され、自衛軍というものが唯一の軍事力となっている。もっぱら今は平和な世の中なので、災害支援や警備が主な仕事だが。そしてここは国立自衛空軍入間基地、今日もけたたましいラッパと共に、早めの1日が始まる。


「…眠い」


 基地内の1室、2人用の宿舎部屋で司馬雄己しばゆうきが目を覚ます。朝が苦手な司馬はいつも通り布団から出るのを少し渋る。


「番号ぉぉぉ!」


 宿舎に響き渡る大音量で馬鹿が部屋に飛び込んできた。この部屋のもう1人の住人、西野和樹にしのかずきだ。


「お前番号の係じゃねぇだろ!」

「うるせぇ!こういうのは気持ちだろ!」

「大体俺1人で番号もクソもねぇだろ!」


 朝のボケツッコミ合戦ですっかり目が冷めてしまった。この2人、司馬と西野は高校時代からの親友で、共にミリタリー好きと言うこともあって自衛軍に入隊、訓練のキツさに泣きを見たよくあるパターンの奴らだ。2人は高校卒業後すぐに入隊し、1年間の厳しい訓練を乗り越え、運良く同じ部隊に配属されたため未だに腐れ縁が続いている。


「なんで俺まで…」

「ごめんて、朝飯奢るからそれで許して」

「給食だろうが」


 上官に朝から煩いとお叱りを受けた2人は、朝食を食べに基地内の食堂へと足を運ぶ。


「そういえば見た?テレビ」

「見た見た!薄いし画質良いし、何より黒くてかっこいいよね!」

「……」


 誰がテレビそのものの感想を今聞くんだよ。今日の和樹はボケが多くて1つの話をするのに倍の時間がかかる。


「いやごめんて…あれだろ?基地中その話題で持ちきりだし、知らないわけがねぇよ」


 ロングアイランド基地での出来事は世界中に放送されたため、当然自衛軍の隊員達にも広まっている。だが彼らは国防を任される身、世間の興味や恐怖といった反応とは違う。今日にでも何かしらの命令がくだされるだろうと誰もが思っている。


「まぁ配属されたばかりの俺達はせいぜい避難誘導くらいだろうよ」


 2人とも1年目の訓練を終え、実戦部隊に配属されてはいるが、まだ戦闘機での訓練は行ってはいない。


「だよなー、戦えと言われても嫌だけどな」

「てか実際どうするんだろうな?アメリカ空軍でも太刀打ち出来てないってのに、自衛軍の戦力で勝てるわけなくないか?」

「白き英雄様に助けてもらうしかないだろうよ」


 この時はまだ、レイラと国連機の会議が行われた数日後で、まだ国連機からの公式発表が行われず憶測が飛び交っていたときだったので、隊員達にも正確な情報は入っていなかった。


「例えばさ!俺らがあの力を手に入れたらどうするよ?」

「白き英雄の?」

「そうそう!」


 元々ミリオタ気質の西野は、例に漏れず白き英雄の情報にすぐ食いつき、暇さえあれば調べ、憧れのような感情を抱いていた。


「1人では嫌だな、責任重大じゃん」


 自衛軍に入って勉強しているからこそよりわかるが、戦いは1人で行うものじゃない、部隊を組んで戦うのが当たり前だ。


(1人だけで戦うなんて漫画の世界だけの話だろ…まぁそれが現実で起きちゃってるんだけどな)


 白き英雄について熱く語る西野の話を右から左に流しながら朝食にありついていると、司馬のスマホが鳴る。先程叱ってきた上官からだ。さっきの続きか?と恐る恐る電話に出てみると、慌てた様子の上官がまくしたてるように


 ー西野と共に至急司令室に来いー


 それだけ言って通話は切れてしまった。


「……朝騒いだやつ、そんなにまずかった?」

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