星の守り人 30話 命を背負う覚悟

  『映画なんかだとよくある話。地球外生命体が攻めてきて地球勢力が戦闘機とかで応戦するけど、成す術もなく負けてしまう…そしてヒーローが登場するという展開。現実の世界で出会った彼らはどう思ったのだろうか?』


「リオさん、状況は?」

「_2機とも今は海面で停止してるよ。あと空軍?の戦闘機も出撃しちゃったみたい_」

「そうですか…」

「_ケント、一応言っておくね。今から戦うのは、前に戦っとことのある偵察機じゃない、攻撃機という別の型だよ_」

「はい…」

「_空軍の方が先に接敵するだろうし、多分ケントが着く前に上陸されると思う…だからーー_」

「分かってます。リオさん」



 2月のある日。折原はいつものようにシミュレーターによる訓練を終えデッキで休憩をとっていた。この日は地上での首都防衛を想定した訓練を行っていたのだが…


「死者18人…っ、どうやっても被害を抑えきれない…」

「お、悩んでるねー、どうしたの?」

「さっきの結果を見ていて、これが現実だったらと思うと…」

「死者18人かぁ、良い結果だと思うけどなー」

「死者が出てるんですよ?」


 たとえシミュレーターだったとしても、人が死んでいるというのに。


「ケント、良い機会だから言っておくね。これから先、誰も死なせないなんて考えちゃダメ。今の状況はケントも理解しているだろうけど、はっきり言って準備不足のまま交戦が始まる、だから守り切れずに命を落とす人もいる。その覚悟はしておいた方が良いよ」

「…わかりました」


 俺達は守る覚悟だけじゃなく、守り切れなかった命を背負う覚悟も持たなければいけない。



「大丈夫です。ちゃんと覚悟は出来てます」

「_…オーケー、じゃあ続けるよ。こっちで収集出来た情報はわずかだけど、その攻撃機、前戦った偵察機に比べると運動性能も攻撃性能も格上、かなり手強い相手だよ…しかも2機だね_」

「シミュレーターでは何度も複数機相手の戦闘もやってきましたので、やってみます」

「_うん、ケントならきっと出来る。あ、そろそろ空軍が接敵するよー!_」


 *


「_こちらウルフ、目標を補足。先行して接近する_」

「_了解。コヨーテ、フォックス、ジャッカルは距離を取り援護に回れ_」

「「「_了解_」」」


 第1部隊がコロナイザーに接近、指揮官アランの指示により1機が先行し、残り3機は速度を落とし横一列に飛行する。


「_こちらウルフ、目標は現在も停止中、周囲を旋回して様子を探る_」


 海面から数十m離れたところで2機並んで浮いている未確認飛行物体に向かい、ウルフというコールサインで呼ばれた隊員が乗る戦闘機が近づき、上を取りながら旋回して観察する。


「_何だあれは?ホバリングしているのか…?、こちらウルフ、目標を目視で確認、正体不明の機体、ヘリでも戦闘機でもない…なんだこれは?_」

「_それじゃわからん、もっと詳細を報告しろ_」

「_了解。全体が真っ黒で、ここからだと正確な大きさは分からないが、かなりの小型機だ。形状は三角…ステルス機に似ているが、あんなの見たこと無い_」

「_他国の新型機か?一体何処のどいつが許可もなくこちらの領空に入ってきているんだ…まぁ良い、大義はこちらにある。周回して警告、撤退する動きがなければ撃墜しろ_」

「_了解_」


 ウルフの操縦する戦闘機がコロナイザーに更に近づき、機体を傾け周囲を回るように飛行する。1周、2周、3周と周回を続けるが相手に反応は無い。


「_こちらウルフ、目標反応なし、これより攻撃を開始する_」


 一度距離をとり、コロナイザーを正面に捉えると、照準をロックし空対空ミサイルを発射する。


「_こいつが無断訪問の罰金だ!_」


 避ける素振りもないコロナイザーの片方目掛けて真っ直ぐミサイルが飛んでいく、明確な攻撃を受けようとしているその瞬間、普通なら避けたり何かしらの反応を見せてもいいところが、コロナイザーは一切動かなかった。いや、動く必要がなかったのだ。


「_命中!_」


 目標への命中を証明するかのように爆発と爆音が鳴る。ウルフも周りに待機していた仲間も、全員が撃墜を確信した。ミサイルの直撃を受けて無事なはずはない、彼らにとっては至極当然なことである。撃墜を確認するために、再度旋回をしてコロナイザーへ近づいていく。しかし…


「_…!、こちらウルフ!、目標未だ健在!、先程と何も変わらずに浮いている…_」

「_なんだと!?命中していなかったのか?_」

「_いや、間違いなく命中している!_」

「_ならなぜ撃墜できていない!_」

「_そんなのこっちが聞きたいくらいです!_」


 待っていたのは誰一人予想していない結果だった。コロナイザーはミサイルの直撃を受けて尚、水面近くでの静止したままほとんど無傷でその場に佇んでいた。


「_コヨーテ、フォックス、ジャッカル。何かがおかしい、ウルフの援護に入り4機分の火力で目標を撃墜しろ!_」

「「「_了解_」」」


 かなり離れた位置で大きく周回しながら待機していた残り3機にも指示が入り、合計4機の戦闘機がコロナイザー目掛けて飛行を開始する。


「_いくらなんでも何発もは耐えられまい…!_」


 きっと当たりどころが良かったとか、そんなんだろう。2発、3発打ち込めば撃墜できるだろう。しかし、そのミサイルが発射されることはなかった。沈黙を貫いていたコロナイザーが動き出したのだ。僅かに青白い光を放った次の瞬間、2機のコロナイザーからそれぞれ1本ずつレーザーが放たれ、並列飛行していた両サイドの戦闘機の翼についている空対空ミサイルに直撃、レーザーの威力とミサイルの誘爆で翼が吹き飛ぶ。


「_コヨーテ!ジャッカル!_」

「_クソッ!やられた!墜落する!_」


 一瞬で2機がリタイア、ギリギリのところで墜落する戦闘機から脱出、パラシュートで水面に着水する。


「_何があった!?_」

「_こちらウルフ!攻撃を受けている!コヨーテ、ジャッカルが撃墜された!_」


 突然の攻撃に驚いているのも束の間、更にコロナイザーが動く。真っ直ぐウルフ達の方に飛行を開始。


「_まずい、来る!_」


 攻撃を警戒し、咄嗟に回避行動に移る。だが、攻撃が行われることはなく、そのまま戦闘機とコロナイザーはすれ違い、コロナイザーは止まることなく真っ直ぐ飛び続ける。


「_攻撃が来ない…?弾切れか?_」

「_馬鹿野郎!飛んでいった方向を見ろ!こっちに向かってきているんだ!_」


 そう、コロナイザーは先の攻防でウルフ達が驚異ではないと判断し、目もくれず次に標的、ニューヨークを目指していたのだった。


「_俺達なんて相手にする気も無いってことか?ふざけやがって!_」


 戦闘機のジェットエンジンを全開にしてコロナイザーを追いかける。無視された怒り、そしてアメリカの空を守る者の誇りにかけて絶対に撃墜してみせる。と意気込んで操縦桿を握りしめるが、すぐに絶望的な事実に気づく。


「_嘘だろ…追いつけない…こっちはマッハ2で飛んでいるんだぞ!?_」


 全速力で飛んでいるのにも関わらず、追いつくどころか離されている。コロナイザーの今の速度はマッハ2.5、追いつけるわけがない。


「一体何者なんだ…このままじゃ上陸される!迎撃準備をしろ!」


 ウルフ達では対処しきれないと判断したアランが中央作戦室から基地全体に指示だし、迎撃準備を開始する。他に待機していた部隊が出撃準備を始めロンアイランド基地全体が臨戦態勢一色に染まる。


 こうして宇宙からの来訪者と地球軍との、歴史上初となる星間戦争が開戦した。この戦いは歴史の転換点として後世に語り継がれるであろう。ロングアイランド基地壊滅という最悪な結末と共に…

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