星の守り人 29話 予期せぬ訪問

 4月。春休み明けの気の抜けた状態での授業はなかなか身に入らない、大学生となり行動の幅が増え、バイトを始めた者も多いだろう、そんな中訪れた長期休み…きっと皆青春を謳歌してきたのだろう。見事に休みボケしている、そしてここにも1人ー


「あと何日で夏休み?」

「120日くらいかな?」

「まじかー…」

「まだ初日だよ」

「時が経つのが遅すぎる…」

「それ言うの早すぎない?」

「そうかな…ところでそろそろ120日経った?」

「10秒経ったかな」

「時の流れとは無常だ」

「それ時間経つのが早いときに使わない?」


 学食で昼食を済ませた折原と山内は、変わらず無益な会話を交わす。至って平和な大学生の生活、皆この平和がずっと続くと疑いもしない。


「いっそ隕石でも降って休校にでもならんかな」

「危険すぎるでしょ」

「じゃあ誰かが占拠して登校できなくなるとか?」

「…宇宙人とか?」

「は?そこはテロリストとかだろ、なんだよ宇宙人って…いるわけないだろ」


 自然と出てきた宇宙人という言葉に山内が笑いながら応えてきた。そりゃそうか、普通ここで宇宙人は出ないよな…今いる環境に考えが影響されている気がする。そんな会話をしつつ、次の授業へ向かうため学食を後にする。外に出て空を見上げると天気予報通りの快晴、どこまでも見通せそうな澄んだ空が広がっていた。


(キャリアー…見えるわけないか)


 見えるはずのない空の向こう側にあるもう1つの居場所を探す。


(あれからもう半年…か)


 *


 キャリアー内部に警告音が響き渡る。


「サテラ!状況は?」

「[地球より10万km地点にて超光速航行反応を観測しました]」

「場所は…よりによって反対側かよ!地球突入まで何分?」

「[6分後に大気圏突入予想です]」

「えっ!ギリギリじゃん!」


 デッキではリオが忙しなく動く、どんなに早くてもまだ1年は猶予があるはずの敵の襲来。これは自分たちが想定している侵攻ではない、だとしたら何だ?偵察機が戻ってきた?それとも全く違う勢力?


「あー!もうわっかんないよ!てかオルカはどこ!?」

「_すまない!あと10秒で帰還する_」

「オーケー、乗り次第ぶっ飛ばすよ!」


 リオはデッキ中央の操縦席に座り操縦かんを握りしめ、オルカの登場と同時にフルスロットルで加速を開始、数秒で秒速50kmまで加速し地球の裏側を目指す。


「ここまで超光速航行で来るとはな…」

「おかげで大分遅れちゃったよ、むかつくなー」


 超光速航行は技術的にはワープに近い、そのため減速し通常航行に移るまでレーダーで捉える事は難しく、今回のように地球ギリギリまで超光速航行をされるとかなり出遅れてしまう。


「ケント君には俺から連絡しよう」

「頼んだよ!今回もケントだよりになっちゃう…かも」


 加速のGに耐え操縦しつつ到着予想時間を見てリオがオルカに応える。



(ん?通信?)


 腕輪型デバイスにオルカからの通信が入る。授業中なので自分にしか聞こえないモードに切り替え、受信専用で通信を繋ぐ。


「[すまないケント君、授業中か?用件だけ端的に説明する。敵襲、降下予想は大西洋、恐らくニューヨークだ]」

「!」


 焦った様子のオルカからコロナイザー襲来の情報が入る。まだ猶予があるはずのこのタイミングで?と疑問に思ったが、やることは1つ。


「山内、ごめん、今日休む」

「え!?休むって今授業中、ってかこの感じなんか懐かしいな!」


 小声で山内に告げると、何か喋っていたが返事も聞かずに教室を後にする。こういう時を想定して念のため教室の後ろの方の席に座るようにしていたのが功を奏して、先生に気づかれることなく退席できた。


「オルカさん!今教室出ました、状況の詳細は?」

「_ケント君、敵は2機、今地球から10万km地点を航行中、あと3分で大気圏に突入する。今こちらも急行しているが恐らく間に合わない、さっきケント君のアームズをそちらに送った、届き次第ニューヨークに向かってくれ_」

「了解です!」


 折原は授業を受けていた校舎を後にすると、別の校舎へと走り始める。もし学校にいるときに出撃しなければならない時はここに行くと決めていた。唯一自由に出入りが可能な屋上のある校舎へ。


「よし、誰もいないな」


 特に何があるわけでもないので誰も来ない屋上、そこには何もない、折原は何もない屋上を少し歩くと何もない空間に手をかざしー


「アームズ!」


 折原の声に合わせて一瞬だけ屋上にパワードスーツが現れ、折原を包み込むとまた何もない空間に戻っていった。


「ステルス機能は問題ないな、サテラ、ニューヨークに座標を合わせてくれ」

「[了解しました]」


 折原のアームズはステルス状態のまま、音もなく飛翔、高度1000mまで上昇するとステルス機能を解除しメインスラスターを点火。流石に激しく動くときはステルス状態を維持できないので、地上から見えないような高度を保ちながらニューヨークに向かう。


(最高速で向かってニューヨークまで…2時間!?)


 大気のある地球上を飛んでいる分遅くなるが、文句を言っても仕方がないので全速力で飛び続ける。



「くっ、やっぱり間に合わないよ」

「仕方ない…せめて出来る限り敵の情報を収集しよう、前と同型の偵察機か?」

「ちょっと待ってね、サテラ、敵機を長距離スキャンして」

「[了解しました。…結果表示します]」

「結果は…と、まじで?」

「どうした?」

「偵察機じゃないね…形状からしてこれは、攻撃機だよ」

「どうしてこのタイミングで攻撃機…しかもたった2機で?」

「わからないけど、攻撃機だとするとケントには荷が重いかもね」

「[敵機、大気圏突入を確認、追跡不能です]」

「だとしても今はケント君に頼むしかない…あとは到着までに被害が大きくならないといいが…」


 *


 時を同じくして、ニューヨークにあるアメリカ空軍ロングアイランド基地、ここでもオルカ達に遅れてコロナイザーがレーダーに反応。ほとんど起きることのない緊急事態に直面し、全隊員が事態の把握に奔走している。


「状況はどうなっている!?」


 中央作戦室に飛び込んできたのは空軍第1部隊指揮官、アラン・マックス。上空より識別不明機の飛来の情報を受けてすぐ隊員に出撃準備を指示し、状況把握の為にやってきたようだ。


「アラン中尉!レーダーが捉えた機影は2機、正体不明の小型機で、大西洋をまっすぐこちらに飛行中です!」

「アポもなしに突然訪問か、ふざけやがって。第1部隊で出る!」


 中央作戦室の1席を借り、無線のインカムを装着し第1部隊に通信を繋ぎ指示を行う。


「第1部隊、対象は2機、こちらの訪問客リストにはいない輩だ。丁重にお引き取りして貰え」

「「「「_了解!_」」」」


 アランの指示で準備をしていた第1部隊、4機の戦闘機が滑走路から離陸する。

 間に合わなかったオルカ達、未だ到着していない折原、どうやら一番最初に新たな敵と遭遇するのは、運命のいたずらなのか、一番準備をしていなかった地球の戦力となってしまったようだ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る