星の守り人 28話 レイラ奮闘記 2

 

「…リオの意思は分かったわ。確かにストライカーが1人いるだけで戦力は大きく上がる、その考えは間違いないわ」


 地球規模の星を防衛するとした場合、おそらく300人程度の規模の部隊を編成することになる。地球全土を守るのにたったそれだけ?と思うかもしれないが、強力な武装を持ち少数精鋭で戦っている星守であれば、ちゃんと準備さえすれば十分な人数なのだ。

 話が逸れてしまったが、言いたいのはストライカーの希少性。例えば300人規模で編成したとしたら、非戦闘員が約20名、通常クラスのシューターが約250名、残り約30名をリオと同じアナライザーといった編成になったりするのだが、この人数に対してストライカーは僅か1〜3名しか居ない。それだけ貴重な存在であり、防衛作戦においてストライカーは敵主力を潰す一騎当千のエースとして最前線を駆け巡る。


「ストライカーは部隊に置いて最強の存在、先頭に立つ重圧を彼に背負わせることに迷いは無いのね?」


 侵攻が始まり開戦すれば、人々の希望は星守に集まり、星守の期待は先頭を駆るストライカーに集まる。


「この星を救うためなら手段なんて選んでられないよ。たとえ騙すことになったとしても。…僕ってひどいかな?」

「いえ、優しさだけでは救いきれない命があるのは私も十分分かってるから」

「うん、ありがと」


 レイラは最初から止めるつもりは無く、ただリオの本心をちゃんと確認しておきたかっただけなので目的は十分果たされた。この話は終わり


「と、言うか…今問題なのはレイラっちの方だと思うんだけどなー?」

「うっ…」


 いつもの明るい口調に戻ったリオのいじりスイッチが入る。


「随分大変そうだねー、バイタルを見たけどなにこれ?肝臓が生物兵器に攻撃されたくらいダメージ受けてるんだけど?」

「地球のお酒がの質が高くてつい…ってそうじゃないですわ!あのモジャモジャメガネ!!話は聞かないし!ちゃんと調査してくれたと思って見に行ったら脱線してわけわからない検証始めるし!挙句傷つけるのがもったいない!?そんな悠長な事言ってる場合ですか!!!」


 さっきまで忘れかけていた4か月分のストレスが解放され、ため込んだ愚痴が解き放たれる。どうやら科学技術は大きく遅れているが、食、特にお酒に関しては地球はかなり優秀らしい。


「…落ち着いた?」

「…えぇ、失礼いたしましたわ」

「何かごめん」

「仕事ですから」


 我に返ってスンッ…となるレイラと、それをジト目で見るリオ。


「まぁでも、なんとか進みそうですわ」

「お、じゃあこんなところで油売ってる場合じゃないね。オルカ達戻ってきたらレイラっちも帰る?」

「いえ、調査に3日かかるみたいだからそれまではこっちにいいるわ、せっかくだからケントさんの成長もみたいですし」

「ん、りょーかい」


 2時間ほどして訓練からオルカと折原がもどり、この日初めて4人が一堂に会することになった。レイラは改めてアレックスに依頼したコロナイザーの調査状況を報告した。そしてその3日後に調査が完了、いよいよ国連機への交渉が始まることを伝えた。



 ー3日後


「…じゃあ行ってくるわね」


 束の間の休息、久々にアレックスのストレスを受けない日々を過ごしリフレッシュ出来たレイラは、少し名残惜しそうな顔をしながら地上へと戻っていく。


「ケントさん、私も地球との契約を勝ち取れるよう最善を尽くします。だからあなたも頑張ってくださいね」

「はい!どうか…よろしくお願いします」


 折原に激励の言葉を残し、レイラは己の戦場へと向かっていく。


 *


「お待ちしておりました…レイラ殿」

「…はぁ」


 目の前でもう見飽きた大袈裟なお辞儀をする男を見て、もう既に宇宙へと帰りたい気持ちが湧き上がってきた。


「調査は終わったという認識でよろしいでしょうか?」

「勿論、このアレックス、完璧な調査報告を作り上げましたぞ」

「そうですか、ありがとうございます…ところで今日のその格好はなんですか?」


 今日のアレックスは普段のジーパン&よれよれシャツの上から白衣という、いつものスタイルではなくピシッとシワひとつないネイビーのスーツを身に纏っていた。


「これはいわば戦場に向かう戦士の鎧と行ったところですな」

「戦場…ですか?」

「えぇ…善は急げです。早速本部に参りましょうぞ!」

「え!今からですか?」

「準備万端、アポもとっております!地球の危機ですからな、悠長にしてられませんぞ?」

「…あなたが言いますか?それ」


 お前のせいで調査遅れたんだけど?というツッコミをしたいところだ。全く準備をしていなかったレイラは急いで地球での拠点としている自宅に戻り、身支度を済ませアレックスと共に国連機本部へと向かう。これが2度目の訪問、1度目は即効警察に捕まってしまった苦い思い出の地、今回は味方もいるし準備も万端。


(さぁ、こっからが本当の勝負ですわ…!)


 *


「ふーん、なるほどね」


 国連機に到着した2人はまず、科学技術局の局長ハリー・ブレイクの元を訪れた。アレックスが所属する科学技術局のトップ、アレックスとは真逆のよく手入れされたサラサラの金髪をたなびかせるイギリス人の男は、自分の執務室にある高級な椅子に座り、アレックスが用意した資料を読みながら会話を続ける。


「ハリー、ここに書いてある事は紛れもない事実だ」

「そのようだね、俺も科学者だ、それくらいはわかるよ」

「あぁ、だからレイラ殿との交渉の場を設けて欲しー」

「待った」


 アレックスが喋り終わる前にハリーが遮る。


「確かに脅威なのはわかったよ。ただこの資料だけで議会を招集してくれ?それは無理な相談だ」

「どうしてだ!?」

「資料一つで世界を動かせというのか?本当に来るかもわからない脅威に対して、どこの馬の骨とも分からない異星人を地球に招き入れ全面協力をしろと?それはあまりに不確定要素が多すぎると思わないかね?」

「だが手遅れになってからでは遅いのだぞ!」

「じゃあその敵、コロナイザーだったかな?そいつらは今どこにいるというのだね?」

「まだ宇宙の彼方、だが間違いなく地球をめがけて来ているのだ!」

「だったら地球に来る前にそちらで何とかしてくれればいい話じゃないか、地球は元々無関係だろ?」

「それは無理だ」


 確かにハリーの言う通り、地球に到着してしまう前に倒してしまえば被害も出ない。だがそれは不可能な事だった、これは星間航行を行えるレベルの文明では常識となっている技術、数十、数百万光年単位という遥か彼方の星に移動するため、超光速での航行技術を使用している。つまり速すぎて捉えられないのだ、なので目的地の星で迎え撃つしかない。


「超光速だと?ハハッ、それこそありえない!」

「嘘ではありません!」

「じゃあそれを見せてくれたまえ、世紀の大発見じゃないか」

「今はありません…」

「じゃあこの話はここまで、この資料はありがたく貰っておくよ」

「そんな…待ってください!」


 超光速航行についてレイラが説明すると、先ほどまでより態度が悪化して取り合ってもらえなくなってしまった。レイラの事を一切信用していない、要するに馬鹿にしているのだ。それでもレイラは食い下がるが。


「お客様がお帰りだ」


 ハリーが内線の受話器を取りそう告げると、警備員が数名部屋に入ってきた。こうして2度目の交渉も失敗に終わってしまった。更に最悪な事に、今まで自由に動けていたアレックスにハリーから明らかに自由を奪う為の仕事の命令が下り、もう調査協力出来ない事態となる。


「まぁ、本当に敵が攻めてきたら考えてあげるよ」


 未だ迫りくる脅威を正しく理解できていないハリーから最後にそう告げられ、2人は執務室から追い出されてしまった。

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