星の守り人 33話 覚醒 2
折原の戦闘が開始してから決着がつくまでの5分弱の間、キャリアー内は静寂に包まれていた。
「…」
「…」
「…どう思う?」
「想像以上、これが覚醒…オルカはあの至近距離の攻撃回避しながら戦える?」
「出来るかもしれんが、俺ならもう少し距離を取るな」
「だよねー」
「それにあの技…」
「攻撃を受ける前提の攻撃、アームズの装甲で受けきれると分かっていてもやろうとは思えないよね…」
「長年アームズに乗ってその性能を身に沁みてわかっている星守ならともかく、実戦3回目でこれをやるのはありえない、ケント君には恐怖の感情が無いのか?」
「状況への適応力と恐怖への耐性、これも覚醒の能力ってことかなー…」
2人の心配とは裏腹に、予想以上の強さを見せ折原はコロナイザーを撃墜してみせた。覚醒中の爆発的な成長期に、オルカとの模擬戦を繰り返すことで、純粋なアームズ操縦技術が格段に上がっていた。
「_リオさん、撃墜完了です_」
折原から任務完了の報告が入り我に返る。
「あ、うん…お疲れ様!」
「_このあとはどうすればいいですか?空軍に接触したほうが良いですか?_」
「うーん、今は話がややこしくなりそうだからやめとこっか」
「_了解です。では1度そっちに帰りますね_」
「オーケー、待ってるよ!」
良かった、いつも通りのケントだ。覚醒と共に性格がガラッと変わってしまうっていう事例もあるし、さっきの戦いも別人みたいだったから不安だったけど、とりあえず僕らと会話する時は前と変わらない。
「ただ今戻りました!」
「お疲れ様!」
「ケント君!よくやってくれた、ありがとう!」
キャリアーに帰還した折原をリオとオルカが出迎える。
「すまない…責任重大な任務をケント君1人に背負わせてしまって」
「そんな、頭を上げてくださいオルカさん!被害ゼロというわけには行かなかったですけど、無事倒せましたし」
「そう言ってくれるとありがたいよ。それにしても驚いたよ、まさかあれほど圧倒してしまうとは」
「それは…自分でもちょっと驚いてます」
「ケント君の中で何があったか聞いてもいいかい?」
リオとオルカも実際に目の当たりにするのは初めてである、覚醒という現象、一体どういうものなのか興味があった。
「…ボロボロになった基地を見た時に、自分の中で何かが繋がるというか、揃ったような感じがして、いつもより敵がはっきり見えるような感覚になったんです。その後は妙に気分が落ち着いて、敵がどう動くかがなんとなくわかったりして、どう戦うべきかとかのアイデアがどんどん浮かんできたんです」
「なるほど…俺達にはわからない感覚だな」
「一体俺に何が起きたんですか?」
「あぁ…もう話してもいいだろう」
オルカは折原に起きた覚醒について説明を始めた。コロナイザーに襲われた星で、一番最初に遭遇した人間に一定確率で起こること。正確なメカニズムはわかっていないこと。その力は脳の処理能力向上、適応能力の強化、恐怖心への強い耐性等があること。
「すまない、覚醒は自覚してしまうと失敗してしまう可能性があったから伝えられなかったんだ」
「そんなことが起きていたんですね…」
「正直この半年間のケント君の成長スピードは早かったよ。もちろん全部が全部覚醒のおかげってわけじゃない、ケント君が必死に訓練してくれたからって言うのもあるよ。おかげで今日は最低限の被害に抑えることができた。ありがとう」
「いえ、オルカさんとリオさんの協力が無ければ俺は何もできませんでした。俺の方こそ、戦う力をくれてありがとうございます」
覚醒の妨げになってはいけないと、今までは少し厳しく評価してきた。やっと隠し事無しで正しく折原を評価できる、今までの頑張りを称えることが出来る。折原も今回の被害を見て、あそこで自分が行かなければ市街地にも被害が出て焼け野原になっていたかもしれない。そう思うと間に合ってよかった、覚醒だろうとなんだろうと、戦う力を得ることができて本当に良かった…と心からそう思えた。
こうして3度目のコロナイザー戦、そして世間から見れば最初の宇宙からの襲撃への防衛戦が幕を閉じた。
*
翌日。レーザーが直撃したときの衝撃で身体に異常が起きていないか念の為リオに身体を確認をしてもらい何も問題がなかったので通常通り大学へと向かう。リオは医者ではないが、星守の技術を持ってすれば専門的な知識は要らない、外傷や内臓や骨への物理的な障害であれば1スキャンで診断出来てしまう。
大学は昨日の話題で持ち切りになっていた。遠いアメリカの話だが、基地の陥落という大きすぎる事件は海を超え既に日本のお茶の間に届いていた。
「朝のニュース見た?やばくない?」
「あれってやっぱり宇宙人?」
「いや、どこかの組織の秘密兵器と見たね」
学生たちが思い思いの感想をそこかしこで話している。情報規制でもしたのか、コロナイザーの事はニュースになっていたが、折原の存在は報道されていなかった。公式には…
「おっす折原!昨日ぶり!」
「おはよう」
後ろから走ってきた山内に背中を叩かれる。
「ニュース見た?っていうかどこ見てもその話題しか無いけど」
「あぁ、見たよ」
正直あんまり見てはいない、けど当事者なので大体のことは分かる。
「じゃあこれは知ってるか?「崩壊した基地を救った白き英雄!黒き悪魔と激闘!」誰かがリークしたらしいぞ」
「…何それ?」
「ニュースではなんとかアメリカ軍が撃退した事になってるんだけど、本当はどこからともなく現れた謎のロボットが助けてくれたらしいんだよ」
「まじか…」
基地にいた誰かが撮影していて、それを匿名でネットにバラ撒いたらしい…そこにはバッチリコロナイザーと折原が追いかけっこしている姿が映ってしまっていた。
「フェイク映像っていう奴らもいるんだが、俺の考察としてはだなーー」
(あそこまで派手に暴れたからな、バレてしまうのは仕方ないけど、今後動きづらくならないだろうか…?)
「…はら……折原!聞いてんのか?」
「あ、悪い。聞いてなかった」
「なんだよー、せっかく俺の考察を話してやってるってのに、昨日も急に帰っちまうし…体調でも悪いのか?」
「いや、そんな事はないよ。大丈夫」
「ならいいけどよ…それにしてもこの白き英雄も大変だよな」
「?」
「いやな、リーク情報だとこいつ、無線を通じて話しかけてきたんだって、てことは人が乗ってるって事だろ?誰かは知らないけど、注目の的じゃんか。招待暴こうと躍起になってる奴もいるぜ?」
確かに、っていうかアメリカ空軍が一番探してるよな、どう考えても。正体がバレるようなことはしていないし大丈夫だとは思うけど…
出来れば学生生活は平和に過ごしたいな、と思う折原であった。
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