星の守り人 12話 初出撃
「リオさん!」
キャリアーに到着した折原、急いでデッキへと向かい自分を呼び出した年齢不詳の美少年の名前を呼ぶ。
「ケント、待ってたよっ!早速で悪いんだけど…」
ポッドで移動中に大体の状況を把握していたので、何のために呼ばれたか、何をしなければならないかはわかっている。
「俺が…一人で戦うんですね?」
いつか戦わなければならない日が来ることは分かっていた。星守は少数精鋭、当然一人で戦う場面だってあるだろう、それに向けて準備だってしてきたじゃないか。
敵はたった一機、それも戦闘能力の低い偵察機、大丈夫‥一人で撃破出来る相手…なのに……
「怖いか、ケント君」
「多分…そうだと思います」
「なぜ怖いと思う?」
「それは…敵と戦うから…?」
「戦闘自体に恐怖はないだろう、ケント君もゲームとかで戦闘することはあるだろう?それと何が違う?」
「それは全然違いますよ。ゲームじゃ負けたって死にませんし…」
「じゃあ戦うのが怖いのではなく、負けて死ぬかもしれないから怖いってことだ。では次の質問だ、この3か月アームズで訓練をしてきて、あの程度の敵相手に負けると思うか?」
「…思いません」
「ではもう一度聞く、なぜ怖いと思う?」
アームズの戦闘力があれば負けて死ぬことなんてほぼ無いだろう、もし負けそうになっても逃げればいいだけだ、なのになぜ怖い?なぜ手が震えているんだろう?そもそも戦うと誓ったあの日から自分が傷つくことなんて覚悟していたはずだ、じゃあ他に何が怖い?他に恐れること、恐れるべきこと…
(そうか…そういうことか…)
家族、友達、住み慣れたいつもの街、平和……
「俺は…失うことが怖いです。たとえ負けなくても逃がしてしまえば、戦闘中に巻き込んでしまえば、自分の大切な人や自分以外の人の大切な人、大切なものが失われてしまいます。誰もこのことを知らないから、被害が出たところで誰も俺を責めないでしょう、それでも怖いんです」
「そうか…ケント君は優しいな。では最後の質問だ、その恐怖を取り除くためにはどうすればいい?何も失わないためにはどうすればいい?」
「…勝ちます。逃がしません、被害を出す間も無く速攻で…!」
「よし、行ってきなさい」
「はい!!」
オルカ、リオはサポートのためにキャリアーのメインコンソールのある席に着く、折原は二人を背に格納庫へと向かう…もう震えは無い、負けはしない、必ず勝つ。
自分でも理解出来ていなかった恐怖に正体をオルカが教えてくれた。オルカにしてみれば初めての戦場を前に恐怖する新兵なんて何度も見てきた。どういった恐怖があるか、どうやって克服したかもよく知っているから折原に適切なアドバイスをするのは難しい話ではない。しかし折原にとってそのアドバイスは、手の震えを止め、力強い一歩を踏み出させるには十分すぎる言葉だ。
「_ケント君、準備は良いかな?_」
「_いつでもいけます_」
「_了解、サテラ!格納庫ハッチオープン!_」
「[了解しました]」
訓練の間何度も見た光景、格納庫内と、デッキ等他の空間との空気を遮断、ハッチを開けると同時に格納庫と外の宇宙との環境を同じにする。偶然か、オルカの気遣いか、訓練の時は必ず地球側を向いてハッチが開く。今日もそうだ、ただ一つ違うことといえば訓練の時は地球を見る事はあっても近づく事はなかったけど今日は違う、敵があそこにいる、俺の星に…
(行くぞ……!)
「_準備完了、行ってこい!_」
「_はい!……出撃します!_」
アームズのメインスラスターが点火、青く美しい光の線を描きながら、真っ直ぐに飛び立ち地球に向かう。あまりに巨大すぎてゆっくり近づいているように見えるが、アームズによる加速と地球の重力が合わさり超高速で地上に向かっている。その速度は秒速15km、時速に直せば時速54000kmになる。
(急がないと!)
折原は今出せる全速力で地上へと向かう。通常、アームズによる飛行はサテラによって装着者の安全や空気抵抗、残存エネルギー量などから算出、制御された速度域で飛行する。今回は地球上での空気抵抗を考慮して現在の速度が最高速となっている。
「[大気圏突入、衝撃に備えてください]」
「了解……ッ!」
サテラからの警告の数秒後、折原に押し付けるような衝撃が走り、同時に視界がオレンジに染まる。超高速で大気圏に突入したアームズに空気が押し潰され超高温とともにオレンジ色の光を発生させている。アームズの装甲と防御システムにより折原自身に熱は感じない、だが記憶にある熱に知識とヘッドアップディスプレイに映し出されるオレンジ色の光景に自然と汗が滴る。
「[大気圏突入完了、地球環境に合わせた飛行制御へ移行します]」
地球の重力や空気抵抗に合わせて制御方法が変更される、これにより折原は宇宙で訓練していた感覚とほぼ同じ感覚でアームズを操作出来るようになる。
重力と空気抵抗の影響で先程までのような超高速での飛行は出来なくなり、アームズは徐々に減速していき今の速度は時速7400km、だがそれでもマッハ6と音速を軽く超える。
「_ケント!敵機の位置情報を確認して、まだ海上にいるみたいだから上陸する前に攻撃だよ!_」
「_了解です!_」
リオから送られた位置情報は太平洋上の地点、近くに島は無いので攻めるなら今だ。星守としても今の段階で地球人に見られるのは得策では無いので、何としても上陸する前に撃墜したいところである。
(目標まで900km!大分ズレてしまったか…)
大気圏突入時の角度調整がうまく行かなかったのか、降下ポイントがズレてしまっている。1秒でも早くたどり着くため、折原は大気圏突入時の重力加速度をそのまま利用して目標へと進路を調整する。この方法ならば5分以内に目標に追いつける計算だ。
「_接敵までまだ時間がありそうだから今の内におさらいしておくよ!目標は偵察機型のコロナイザー、君を攫った憎き相手と同じ機体だね。知っての通り胴体は採取、捕獲用の入れ物になっているから大きさの割に中身は大したことないよ、武装も1種類しか搭載していないみたい_」
「_背中の翼状の部位から放たれるレーザーですね_」
「_正解!一発一発は大したことないけど、とにかく攻撃範囲と手数が多いから気をつけて、それさえ避けてしまえばこっちのもんだからね_」
「_了解です_」
折原はアームズの右手で握っている武装を見る、汎用ライフル型片手銃、通称コモンシューター。アームズと同様の白基調で青いラインがアクセントとして入っているデザインで、ライフルというよりはショットガンに近い形状をしている。
星守の武装は実弾は使用せず、青いエネルギー弾を放つ。マシンガンの様な連射はできず、一発一発チャージを必要とするが、その分威力は高い。
「[接敵予想まで残り3分です]」
鼓動が早くなる、いよいよ本物の戦闘だ。敵は宇宙から侵略に来たロボット、自分はパワードスーツを装着し応戦する…こんなSF映画のような話3か月前の自分だったら信じなかっただろう。もしその当事者になれると言われたとして、パワードスーツを装着してみたいけど怪我とかしたら嫌だし、そういう映画のヒーローみたいなことは相応しい人に任せる、と言っただろうな。
「まさか俺自身がね…」
「_何か言った?_」
「_…星守って、ヒーローですか?_」
「_ヒーロー?正義の味方的なこと?うーん…地球人の考え方はよくわからないけど、人それぞれ正義の定義なんて違うし、絶対的なヒーローなんていないんじゃない?でもさ、コロナイザーが地球を攻撃してて、ケントがそれと戦っている間は誰かの命を守ってるでしょ?死ぬ事を正義って言う人は少ないだろうし、星守として戦っている以上はヒーローなんじゃないかな?_」
「_そうですか…俺もヒーローになれますか?_」
「_なれるかはわからないけど、少なくても目指さなきゃ絶対になれないよ。ほら、色々考えすぎないでリラックス!まずは目の前の目標を撃破だよ!_」
「_そうですね…了解!_」
「[接敵します]」
「よし…行くぞ!」
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