星の守り人 11話 見つけた

 

「………寒い」


 冬の朝は嫌いだ、ただでさえ眠気で起きたくないというのに、さらに寒さで布団から出るのも難しくなる。


「サテラ…体温調節機能オン」

「[地球上での不必要な技術の使用は情報漏洩の危険があるため禁止されています]」

「……起きるか」


 窓を開けて外を見る、まだ朝早く人影は無く、街に生えている草木は彩りを失い、まるで生命が滅んでしまったかのようだ…これから地球に起こる事を知っているだけに、この光景を見ると焦る。


(冬が嫌いになりそう…)


 今はもう12月、折原の星守としての訓練が始まってから3ヶ月が経過していた。未だ地球上では誰も異星人の侵略の事を知らない。ここにいる一人の少年、折原を除いて…


 まだ一度も会ったことが無いが、オルカさん達の仲間のレイラさんが交渉を続けているらしいがあまり状況は芳しくないようだ。このまま交渉が上手く行かなければ地球との契約は出来ない、タイムリミットは刻一刻と迫っているし不安ではあるが、折原に出来ることは無い。そして折原には別の不安があった。


(やはり実戦経験が必要だよな)


 オルカ達との訓練で戦い方自体は分かってきたが、やはり実戦経験が無いことには「本当に戦える」とは言えない。とはいえゲームみたいにダンジョンに行けば敵がいるわけではない。実戦経験が出来る時はすなわち地球への侵攻が始まったときだ。


(とにかく今はいつでも戦えるように鍛えるしかないか…)


 冬独特の虚しい空気感がそうさせたのか、折原はそんな事を考えながらしばらく窓の外を眺めていた、すると


「健人ー?朝ごはんできてるわよ」


 扉の向こうから母親の声が聞こえる、朝食の準備ができたようだ。もちろんまだ地球は滅んじゃいない、草木は春に向けて生命力を蓄えているだけだし、家族も、友達も、まだみんな元気に生きている。

 未来の事も大事だけど、今はまず今日一日を大切にしよう。こうして折原の「平凡な一日」が始まった…




 *


「よっ!」

「おはよう、山内」

「相変わらずのテンションだな…低血圧か?」

「かもな」

「今日こそカラオケ行かね?」

「…行こうかな」

「お!まじで?久々の復活じゃん。このところ忙しそうだったもんなぁ」

「たまにはね」


 今日はオルカさんとリオさんが忙しいらしく、訓練は休み、今までも時々休みはあったが心に余裕が無くて遊ぶ気にはなれなかったけど、最近は少し余裕が出てきたので今日くらいはいいだろう。


「じゃあ16時駅前のカラオケで!メンツ集めは任せろぃ」

「おう!頼んだ」


 この3ヶ月間、自分でも分かるほどに性格が変わってしまったけど、山内は変わらず接してくれる、大切な友達だ。


「よし、今日一日は星守の事は一旦忘れて楽しもう」


 こう気持ちを切り替えてみれば嫌だった授業も不思議と楽しみだ!早く教室へ行こう!


「[リオより緊急通信です]」


 駐輪場から校舎へと向かおうと歩き出したその時、サテラの声が頭に響く、もちろん他の人には聴こえない。


「_ケント!緊急事態だよ!学校行かずにこっちこれるかな?_」


 学校がある時間に連絡が来たことはない、よほど緊急事態なのだろう。折原は人気のない方に小走りで移動しながら応答する。


「どうしたんですか?」


 よほどのことだろうと予想していたが、リオからの答えは予想を遥にか超えるものだった。


「_単刀直入に言うよ…コロナイザーが現れた_」

「………!」

「_数は少ない、恐らく偵察機だろうけどすぐに対策を練りたい、来れるかな?_」

「…すぐ行きます」


 まだ1年半以上あるはずなのにもう来たのか?いや、そんなことを考えている場合ではない、偵察機と言うことは…


(俺を攫ったやつ…!)


 俺と同じ悪夢を他の人に味合わせるわけにはいかない。


「山内!」

「んお、どうした…ってなんでそんな遠くにいるんだ?」

「ごめん、今日休む」

「は?え?いきなりどうしたんだよ?」

「あとカラオケもごめん、行けそうにない」

「ちょっーー」


 山内からの返答を待つほどの余裕はない、折原はポッドが迎えに来るいつもの丘に向かって走り出した。


 *


「今までいくら探しても見つからなかったのに、なぜ今になって現れた?」

「いや、急にレーダーに引っかかるなんて不自然だよ、今までは隠れていた…じゃあ何かしらの「動き出す理由」があったってことかな?」

「何が考えられる?」

「例えば、敵本隊からの指令が届いたとか…」


 キャリアー内部ではオルカとリオがこの状況を整理するために慌ただしくしていた。

 今レーダーに反応があった敵機は偵察機と呼称しているコロナイザーで、目的は名前の通り偵察、本隊とは別行動を行い先行して侵略対象、もしくは侵略候補となる星に向かい潜伏する。そこでは星の技術力や防衛戦力、自分たちの支配下にするメリットがある星であるかの調査を行う。場合によってはその星の物を研究対象として持ち帰る場合もある、3か月前に折原が攫われたのが丁度それだ。

 コロナイザーと言っても多種多様で、どの星から来たどんな技術を持つ文明かによって違いはあるが、ほとんどのコロナイザーが偵察機を使用して先行調査を行う。

 そして偵察機には今回の様な事態を引き起こしたもう一つの特徴、高いステルス性能がありレーダーによる探知が難しい、オルカたちが乗るキャリアーには地球の物とは比べ物にならないほどの超高性能なレーダーが搭載されているが、それでも偵察機を見つけるためにはレーダーを集中しなければならず、一度に捜索できる範囲は数百〜数千km程度となってしまう。


「せめて地上に降りることが出来ていればもっと早く見つけることが出来ていたはずなのに!」

「今更そんなこと言ったってしょうがないでしょ、とにかくケントが来たらすぐ攻撃に移るよ」


 元々偵察機が折原を攫った一機だけではなく複数機で地球に来ていたことは分かっていたが、キャリアーの捜索範囲の狭さにより捜索が難航してしまっていた。

 折原の訓練時以外の大半の時間は捜索に費やしていたが、それでも見つける事は出来なかった。今回に関しても「見つけた」というよりは「現れた」といった感じだ、基本偵察機はレーダーに映らないよう派手な動きはしない。低速で飛行しあまり多くのエネルギーを放出しないようにしている、しかし高速飛行や戦闘、地球の重力を振り切って外に飛んでいく際などに高エネルギーを放出してしまえば当然ステルス機能が低下し、今回の様に比較的簡単に見つけることが出来てしまう。

 だが、逆に言うと高エネルギーを放出するほどの「何か」が起きているという事になる。それがただの移動であれば問題無いが、地球への攻撃や、折原の時の様な地球人の捕獲が目的だったとするならば早急に対処しなければならない。


「歯がゆいよね…僕たちが地上に降りれさえすればすぐに対処できるのに…」


 早急に対処しなければならない緊急事態であるのに、リオが折原を呼び出して待っているのは、リオ達の戦力では足りないからでも、折原に実戦経験を積ませるためでもない。レーダーが示す敵の偵察機、コロナイザーがいる座標が地球上であったからだ。

 つまり、今現在地球周辺でコロナイザーと戦えるのは、折原だけ…

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