星の守り人 10話 才能アリ

 宇宙空間を錐揉みしながら飛んでいく少年が1人、折原である。


「_オルカさん!?操縦方法は!??_」

「_地球の言葉にもあるだろう?「習うより慣れろ」だよ_」

「_それは最低限教えてから使う言葉ですよ!_」

「_そうなのかい?でもそんなこと言っている間に制御に成功しているじゃないか_」

「_あれ?…そういえば……_」


 自動操縦が切れた瞬間、複雑に回転しながらあらぬ方向に飛んでいた折原とアームズだったが、今は回転もせずにその場で静止している。

 何か意図的に操作したわけではないが、何もせずに回転が止まるはずがない。


「_これは一体…?_」

「_それがアームズの操縦方法だよ。アームズの内側は高性能なセンサーの塊になっていてね、筋肉の動き、目の動き、体を動かすときに出る電気信号、そういったものを感知してアームズの動きに反映するようになっているんだ。試しにやってみてくれ_」

「_なるほど…_」


 折原は静止しようとして無意識にこわばらせていた体を緩め、そしてもう一度、今度は足にだけ力を入れ空を蹴るようにゆっくりと足を動かす。

 すると背中のスラスターが点火されゆっくりと折原が向いている方向に動き始めた。


「_…!出来た…_」

「_そうそう、いい感じだね!直感的に動きたい動きをすればアームズが読み取って動いてくれるはずだから、とにかくアームズを信頼して、ビビって変なところに力が入ればそれだけで上手く動かなくなってしまうからね_」

「_分かりました_」


 それから少しずつ、前進、停止、前進しながら体が回転しないように姿勢制御、方向転換の練習を続ける折原。


「こんな感じ…かな?」

「_飲み込みが早いね、地球にはこういった操縦方法は無いから時間がかかると思っていたんだけどね_」

「_直感で操作できるのでかなり覚えやすいです、時々違う動きをするときもありますが…_」

「_思ったのと違う動きの時はサテラに都度教えたほうがいいよ、そうすればサテラが学習してケント君専用に微調整されるから_」

「_なるほど、操縦方法自体もカスタムしていけるんですね_」

「_色々な星の色々な考え方の人が操縦するからね_」


 その後も折原とオルカは広い宇宙を飛び回りながら操縦の練習を続ける。

 夢中になって練習をしている内に地上での時間は22時を過ぎようとしていた。


「_練習中ごめんね!ケント、帰る時間大丈夫?今日本は22時だけど_」

「_え!もうそんな時間ですか…急いで帰らないと_」


 早く帰らないとまた母さんに心配をかけてしまう。とりあえずなんとかアームズの操縦は出来るようになったし、続きはまた明日以降にしよう…


「_すまないケント君、俺も時間を気にするのを忘れていた。急いでキャリアーに戻ろう_」


 遅刻しそうな学生のように慌ただしくキャリアーに戻る二人、アームズを取り外し折原は来たときと同じポッドに乗り込む。


「明日もまた訓練できますか?」

「あぁ、もちろんだよ。ケント君のブレスレット型デバイスでサテラを使えるようにしておいたから、訓練が出来る時間になったら呼んでくれ」

「分かりました!」


 こうして折原の星守としての訓練初日が終了した。


「…まだ感覚が残ってる」


 アームズで宇宙を飛び回っていた感覚を思い出しながら折原は感傷に浸る。

 今まで乗った乗り物なんて自転車、あとは子供の頃体験で操縦した飛行機のシュミレータくらいだ。もちろんそのどっちとも似ても似つかない、恐らく地球には無いであろう乗り物、そもそも乗り物かどうかですら怪しいけど…

 この貴重すぎる体験を誰かに話したい気持ちがあるけど、誰にも話せないのが少しもどかしい。そんな事を考えている間に地球への帰路は終わりを迎えようとしていた。


「とりあえず…お腹減ったなぁ」



 *



「…………」


 柄にもなく真剣な顔でディスプレイを見つめるリオ。


「リオ?どうした?」

「……これ見て」


 リオが見ていたディスプレイをオルカが覗く。


「ケント君が使ったアームズのログか、初日にしてはなかなか良い動きをしていたな。才能あるんじゃないか?」

「才能…そんな簡単な言葉で済む話じゃないよ」

「どういう事だ?」

「アームズの操縦訓練の初期段階は基本的にサテラの補助制御を受けて行う。そうしないと細かい姿勢制御とかが難しいからね」

「そうだな、今回も補助制御ONでやるって話だっただろ?」

「そう…あとはサテラが自己判断で徐々に補助制御を解除していくんだけど…」

「……まさか?」

「うん、補助制御がほぼすべて解除されてる。地球と同じ文明レベルの人間がここまでの熟練度になるのにかかる期間って分かる?」

「3日とかか?」

「もっとだよ、平均値だけで言うなら1週間、早い人でやっと3日ってとこだね」

「ケント君が訓練をしていたのは実質3時間くらいだぞ…」

「覚醒の兆候があるとはいえ、この適応力の高さには少し嫉妬しちゃうね…」


 折原は必死に訓練し、少しでも早く戦えるようにと努力をしていただけだったが、思わぬ誤算で早くも訓練スケジュールが早まることとなった。

 しかし、まだアームズでの飛行が少し出来るようになっただけ、このままではとても戦力とは言えない。


 そこからの折原の生活は劇的な非日常の訓練と、いつもどおりの日常の往復だった…


 学校へ行き、授業を受け、気の合う友達と休み時間を過ごす。学校が終われば学生から星守へと肩書を変える、アームズによる飛行、武装を用いた模擬戦訓練、そして今まで目を向けることも無かった地球の外、宇宙の現在に関する知識、学ぶ事は沢山ある。


 一心不乱に訓練を続け、気づけば季節は変わり冬となっていた…

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