星の守り人 9話 アームズ

 

「…これがアームズ…ですか?」

「そうだよ、そういえば見るのは初めてだったね。こいつが俺達が使っているアームズ、BS-65だよ」


 折原とオルカは格納庫にいた。目の前にはオルカ達が戦闘に使うパワードスーツ、「アームズ」が浮いている。

 全身を包む真っ白で所々に青いラインが入っている鎧のようなスーツ、騎士の鎧をメカっぽくした見た目で高さは2.5mくらいだろうか、もし地球にこれがあったとしたら武器では無く、芸術品として美術館に飾られていてもおかしくないくらいの見事な造形をしている。


「綺麗ですね」

「はははっ、武器を見て出てくる感想がそれか。でも綺麗だけじゃなくて強いぞ、こいつは」

「そうか…これは武器でしたね」


 そう思うほど美しい。しかしこれは…


「見たところ武器みたいな物が見当たらないですが?」

「ああ、まだ装備していないからね。こいつは汎用型だから自分で装備を追加していくんだ」

「汎用型?他にも種類があるんですか?」

「もちろん、沢山あるよ。だけどこいつが1番多く使われているかな?防御力、出力、速度のバランスがいいからね」

「そうなんですね…この…BS-……なんでしたっけ?」

「BS-65だね」

「BSって何ですか?」

「実際に見てもらった方が分かりやすいかな?サテラ、アームズのコアを見せてくれ!」

「[了解しました]」


 アームズが回転し背中を向ける、背中には羽のような形をしたスラスターが付いている。

 完全に背中を向け静止すると、アームズの背中が真っ二つに割れ、観音開きの様に開いた。そしてその中には青色の光を放つ球体が収められていた。


「これがこのアームズのコア、これが由来だよ」

「………!|青い球体(ブルースフィア)…」


「ご名答!型式にBSが入るものには必ずこのコアが入っている。このコアは動力源だけではなく、装備を動かすためのシステムやAIサテラもこの中に入っている。いわば心臓と脳が一緒になったものだね」


 星守の技術には圧倒されるばかりだ、まだ実際に動かしたわけではないのに、既に地球の技術力ではこのアームズの足元にも及ばないことが分かる。


(これだけの技術が無いとコロナイザーから地球を守れないのか…やはり星守の力は必要…)


「さてと、見ているだけじゃ訓練にはならないよ。早速装備してくれ、扱い方を教えよう」

「どうやって装備すればいいですか?」

「簡単さ、こうするんだよ。アームズ!」


 オルカが叫ぶと目の前にあったアームズがオルカに近づき、頭、胴体、四肢がそれぞれ開かれ、オルカを飲み込むように包み込んでいく。

 1秒もしない内にそれは行われ、そこにはアームズだけが浮いていた。


「登録してあるキーワードを叫べば、あとはアームズが勝手に装備してくれるから何もしなくて良い、簡単だろ?さぁやってみてくれ」

「簡単ですね…ところでオルカさんが装備してしまうと俺の分が無いのですが?」

「試しに叫んでごらん?」

「はい……アームズ!」


 折原が叫んだ瞬間、格納庫の壁の内1面が開き、中からオルカが装備しているのと同じアームズが飛び出してきた。全面が大きく展開したアームズに飲み込まれ目の前が真っ暗になったかと思ったら、またすぐ視界が開けた。

 なんだこれは?視界隅に文字やゲージが浮かんでいる。目の前には何も無いはずなのに……いや違う、何も無いと錯覚してしまうくらいに鮮明に作られているが、これはアームズのヘッドアップディスプレイが映し出している映像だ。

 感動を感じる間もなく、折原は人類初のアームズ装着者となった。


「_ケント君、聞こえるかい?_」


 隣にいるオルカから通信が入る


「_…事前に説明くらいしてくれないですか?_」


 もしかしてオルカさんって以外と体育会系?


「_よし、通信良好、無事装備できたみたいだね。じゃあ早速宇宙へ出ようか_」

「_え、いきなりですか?_」

「_この狭い格納庫の中で教えられることなんて無いからね、まぁやってみれば分かるさ。サテラ、格納庫を開いてくれ_」

「[了解しました。大気エリアとの遮断完了、格納庫開きます]」


 折原たちの後方のハッチが開く


(そういえば、実際に見るのは初めてじゃないか?)


 男なら一度は抱く夢、世界中でも数える程の人間しか行ったことの無い未知の世界。これが……宇宙。

 折原の目の前には暗黒の世界、煌めく星星、そして青く美しい故郷の星地球があった。


「_不思議だよね_」

「_え?_」

「_夜に空を見上げれば星を見ることができるし、住んでいる星だって地上にいるほうが近くから見える。なのにこうやって遠く離れたところから見たほうが美しく見えるし、感動する_」

「_そう…ですね…_」

「_よく見ておくといい、その美しい星がケント君が守らなければいけない星だよ_」

「_…はい………!_」

「_じゃあ行くよ!_」

「_え?ってうわぁ!_」


 オルカがハッチから宇宙へ飛び出し、追うように折原も宇宙へ飛び出す、というかアームズが勝手に飛び出した。


「_ちょ、オルカさん?これどうすればいいんですか??_」

「_まずは動きに慣れようか、自動で俺の後ろに付いてくるようになってるから、動きに身を委ねてみて_」

「_動きに……やってみます_」


 体が勝手に動く、アームズの自動制御で宇宙を飛び回る。


(なるほど、そういう事か…)


 しばらく飛んでいる間に、飛び方の基本を理解した。メインの推進力や大まかな方向の調整を背中のスラスターで行い、細かい方向転換や回転等の姿勢制御を行う時には、腕や足にある小型のスラスターを使用しているみたいだ。


(だけど、実際の操縦はどうやってやるんだろう?)


 アームズは見た目通りのパワードスーツ、鎧のように身に纏うので当然レバーやスイッチのようなものは無い。


「_オルカさん、これってどうやって操縦しているんですか?_」

「_お、もう動きには慣れたかな?それじゃあ自動操縦を解除しようか。サテラ、ケント君のアームズの自動操縦を解除_」

「[了解しました]」

「え?」


 サテラから少しロボットっぽい淡白な音声が聞こえた瞬間、それまで綺麗な軌跡を描きながら宇宙を舞っていた折原のアームズが明後日の方向に吹っ飛んでいった…

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