星の守り人 8話 勉強
『連絡が来ない…あれから2日以上たったが一向に音沙汰が無い。一世一代の大決心をした後ということもあり少し拍子抜けというか。もしかしたら夢だったのかと不安にすらなってきた…』
行かないわけにも行かないので通常通り大学に入ったが、もちろん勉強になど集中出来る筈も無く、気づいたら夕方になっていた。
「お前本当にどうしたんだ?土日で一体何があったんだよ?」
帰りの支度をしていると山内が不思議そうな顔をして話しかけてきた。
「え?ごめん、考え事してたから結構上の空だったかもしれない…」
「いや、そこじゃねぇよ。お前あんなにはっきりと発言するタイプじゃ無かっただろ?」
「…変だった?」
「変…じゃねぇけど……変だったよ!」
そういえばそうだったかもしれない。折原は自他共に認める引っ込み思案、授業中の発言はもちろん、仲の良い友達以外には自分からは話しかける事はほとんど無い。だが今日は不思議と思った事をちゃんと話せる。
宇宙での出来事で精神に変化が起き始めていたのだが、その事に折原はまだ気づいていない。
「そうか…変だったか…すまん」
「俺に謝られてもなぁ……まぁいいや!それよりこのあと坂井達とカラオケ行くけど来る?アニソン縛りカラオケ!」
「いや、やめとくよ」
「まじ?アニソン以外歌ってもいいぞ?」
「そういう事じゃないんだ、ちょっと予定があってね」
「そういうことか……じゃあ、また明日!」
「また明日」
山内と別れ1人帰路につく、本当は予定など無い、予定が入って欲しいとう願望だ。
(連絡……いつ来るんだろう………)
家に帰る気にはなれない、折原は家とは逆方向に走り出す。
折原の通う大学は街から少し外れた丘の途中に建っている、そして丘の1番高いところには展望公園があり折原の住む街が一望出来る。
3年以上通っていたがこの展望台に登るのは初めてだ。
「広い…」
生まれた時からずっと住んでいる見慣れた街、知り尽くしていると思っていた街なのに、こうして高い所から見ると凄く広い、この街だけでも何万、何十万の人が暮らしているのだろう。
「……………」
「_おーい、何1人で物思いにふけってるんだい?_」
「え!?リオさん!?」
「_大正解!_」
突然リオの声が聞こえ驚く折原。声の聞こえる方、左腕に着けていたブレスレットを見る。
ブレスレットの上にホログラムで出来たウィンドウが表示されており、そこには「通信中:リオ」と表示されていた。
「_2日ぶりかな?元気にしてた?_」
「…お久しぶりです」
「_あれー?なんかテンション低い?_」
「いや、なかなか連絡が来なかったので不安になってしまって…」
「_そっか!ごめんごめん、色々時間がかかっちゃってね_」
なんだか調子が狂う……宇宙人と戦う覚悟を決め、この2日間色々な事を考えてた、そしてリオさんからのいつ来るか分からない連絡を不安になりながら待っていたのに…
「いえ、大丈夫です」
「_なら良かった、じゃあ早速訓練始めようか_」
「…はい」
この人には順序というものが無いのだろか?
「_とは言え僕達は地上には降りれないし、悪いけどまた宇宙まで来てくれないかな?_」
「でもどうやって…?」
「_回れー、右!_」
指示通りに折原が後ろを振り向くと、そこには先日宇宙から地球に帰って来るときに使ったのと同じポッドが突然現れた。
ついさっきまでそこには何も無かったし、近づいてくる気配も無かったのに…
「_驚いたでしょ?ステルスモードって言ってね、目に見えないだけじゃ無くて、音もしないしレーダーとかにも反応しないんだよ!_」
「すごい…ですね」
「_この程度で驚いてちゃだめだよ!さぁ乗った乗った!_」
こんな技術があれば犯罪し放題じゃないか、無闇に地球の人間に情報を渡せない理由がなんとなく分かった。こんなもの悪用されない訳が無い。
そんな事を考えながら折原は人生2度目の宇宙旅行へ出掛ける。まぁ、1回目は旅行というよりは拉致だったけど。
「やぁ!いらっしゃい!」
「ケント君、2日ぶりだね。連絡が遅くなってすまない」
「オルカさん、こちらこそ挨拶もせずに帰ってしまってすいません、リオさんもお迎えありがとうございます」
2日ぶりの再開、待ちわびていただけにとても長く感じた。
「早速で申し訳ないけど、教える事が山ほどあるから始めさせてもらっても良いかな?」
「よろしくお願いします!」
いよいよだ…やっと始められる、戦うための準備が。
「じゃあまずは星守がどんな組織かとか、扱う武装とかについて説明させてもらうよ。2日前にも少し話しているからかぶるところもあるかと思うけど。俺達が所属している組織、星守は宇宙中の様々な星から志願者を募って結成された対星侵略者防衛組織、っていう説明はしたよね?この星守という組織が、そもそも誰が作ったのかというとね……分からないんだ」
「分からない?」
「正確に言うと、秘匿情報になっている。星守の中でもある一定以上の権限者しか知らないんだよ、ただ1つ言えるのは星と星の文明の発展の差がもたらす侵略行為、それを止めたいと思った何者かが星守を作ったという事」
誰が作ったとかはあまり重要視されないのだろうか?地球であればまず責任者、誰が発案者なのかが重要になるだろうに。
「オルカさんは知りたいと思わないんですか?」
「分かるなら知りたいとは思うけど、あまり気にはならないかな。誰が作ったにせよここに戦う力があって、一緒に戦う仲間がいて、星を救う事ができるなら多少の秘密は気にしないよ」
「確かに、そう言われればそうかも知れないですね…」
オルカさんもリオさんも、見た目は地球人に似ているのに、考え方の所々が地球人とは違う。それはオルカさんがそういう考え方だからなのか、住んでいた星が違うからなのかは分からない。これからはそういう事も多いだろうし、出来る限り受け入れていこう…
それからオルカは折原に対して、星守内で使用されている装備等の呼称について教えてくれた。
とは言っても近い意味を持つ英語にそのまま変換されているだけだったので覚えるのは簡単。輸送機はキャリアー、戦闘機はファイター、パワードスーツのようなものを含めた武装全般をアームズといった感じだ。
その他にも星守の戦闘員には大きく分けて3つのクラスがある事も教えてくれた。
「特殊な極小数の人だけが持つクラスもあるが、大体の星守の戦闘員がこの3つのクラスに分けられる。1つ目が1番人数の多い「シューター」、基本のクラスでいわゆる普通の戦闘員だ、星守の武器は基本的に射撃武器しかないからこの名前がついている。そして2つ目が「アナライザー」、戦況の分析に為の情報収集や防衛対象の星への先行調査などを行う、俺とリオがこのクラスだな」
「技術系の、サポート部隊的な感じですか?」
「いや、サポートの割合が多いのは確かだけど、戦闘能力はシューターと同じだよ、星守の戦闘員は最初はシューターになって、その後適正に合わせてクラスが変わるからね」
「なるほど、と言うことは俺もシューターになるわけですね」
「そうだね、そこから先はケント君の頑張り次第だ。そして最後の1つが、3つの中でも最強のクラス、「ストライカー」」
「名前からして強そうですね…」
「強いよ、それだけに数も少ない、元々少数精鋭の星守だけど、それでもストライカー割合は数百人に1人しか居ない。シューターの主な任務が攻撃してくる敵を迎撃するのに対して、ストライカーは敵の母船とかの主戦力の中に攻撃を仕掛けるのが任務だ」
主なクラスは3つ、想像していたより少なかった。もっと細分化されていると思っていたのだが…少数精鋭で戦うには細分化するだけの人数が居ないと言うことだろうか?
「そして最後に…俺達星守が戦う敵、「コロナイザー」だ」
「コロナイザー?侵略者(インベーダー)じゃないのですか?」
「奴らの目的は星を手に入れて移住したり、労働力を得たり、資源を奪ったりすることだ。それを考えると侵略者(インベーダー)と言うよりは植民者(コロナイザー)の方が表現としては近いかな?」
「なるほど………コロナイザー…コロナイザー…」
これから自分が戦う敵の名前を、心に刻みつけるように復唱する。
「さぁ!勉強はこのくらいにして、そろそろ始めようか」
オルカがパチンと手を叩き仕切り直す。
「アームズを装備してもらうよ」
訓練開始、折原は未知の世界へ足を踏み入れる。
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