星の守り人 7話 行方不明少年、帰宅
「あれ、ケント君は?」
「ケントなら帰したよ」
「え!?なんで…?」
「かなり長い間意識を失っていたからね、家族が心配するでしょ?」
「だとしても一言くらい挨拶させてくれよ…はぁ……」
「今日はため息多いね!」
「誰のせいだと思ってるんだ?」
「おー、怖い怖い」
「大体なんで急にケント君を星守に…」
「あー、それね、これ見て」
「…っ!これって…」
オルカにリオが見せたもの、怪我をして意識を失っていた折原の健康状態の確認のために解析、記録をしていたバイタルデータ。そこには健康状態だけでは無く精神状態も記録されていた。
その中でオリカとリオが注目したのは折原の身体能力、では無く精神状態の方だ。
「覚醒…か」
「うん、彼はファーストコンタクト、最初に邂逅した地球人だからね」
「ファーストコンタクトによる覚醒。その星の人間の中で最初に敵性異星人の驚異に接触した者に稀に現れる特殊な精神状態。一種の防衛本能という説もあるが、最初に接触した人間にしか発現せず、正確な理由や条件は不明」
「覚醒による効果は、脳の処理速度の向上や恐怖や焦りといった感情への強い耐性、そして高い適応能力。星守として重要な能力ばかりだね」
「確かに…覚醒すればケント君は相当強くなる」
「うん、あの力は欲しい。このまま誰も戦えずに手遅れ…なんてことは絶対に嫌だから。僕の星みたいに」
「そう言えばリオの故郷は…」
地球から遥か彼方にあるリオの故郷の星も、同じく異星人の侵略にあっていた。
そして今の地球と同じように交渉が進まなかった結果、星守が間に合わず人口の大半を失ってしまったのだ。
リオはその時の生き残り、同じような状況の星を救うため星守に志願し今に至る。
(今の地球はリオの故郷の星と似た境遇にある、だから助けたいという思いも人一倍強いんだろう…)
いつも軽口を叩くリオだが、その内に秘める思いは強い。オルカもその事を理解しているからこそ数々の無茶振りにも付き合ってきた。
「ったく…しょうがない奴だな。ケント君の訓練の事もあるし、これから忙しくなるぞ」
「望むところさ!」
*
「健人!どれだけ心配したと思ってるの!一体どこで何をしていたの!?」
「母さん…」
折原が家に帰ると、そこには捜索のために来た警察と息子が見つからないことに焦る母親、折原幸子の姿があった。
「ごめん母さん、心配かけて…」
「本当に心配したのよ!それで、こんな時間までどこに居たの?」
「ごめん、それは答えられない」
「答えられないって…警察の方に捜索願も出しているのよ?ちゃんと答えなさい」
オルカから無闇に情報を拡散しないように言われていたため、折原が何をしていたかを話す事はできない。
適当な嘘で誤魔化すこともできたが、なんとなく嘘をつくのが嫌だった折原は、リオと話していた時のように真っ直ぐと母親幸子の目を見ながら。
「その時が来たらちゃんと全部説明する、だからお願い、今は何も聞かないで欲しい」
「健人…」
息子の今まで見たことの無いような強い眼差しに何かを感じ取った母親は、これ以上の詮索をすることを辞めることにした。
「分かったわ、とにかく無事で良かった…疲れてるでしょ?警察の方への説明はお母さんがやっておくから、休んできなさい」
「ありがとう母さん、そうさせてもらうよ」
ここは好意に甘えよう、色々なことがあったし、あれから自転車で家まで帰ってきたのでヘトヘトだ……
*
それから2日間は特に何もせずに過ごした、全身が痛くて動く気になれないということもあるが、気持ち的にどこかへ遊びに行く気分にはなれななかった。
そしてリオ達からの連絡も特に無いまま、休みが明けた。
「もう大丈夫なの…?」
「大丈夫だよ母さん、行ってきます」
母親の心配する視線を背に、折原は大学へと向かう。正直勉強する気にはなれないけど、それはそれこれはこれ、学生の本分を全うしよう。
相棒の自転車で登校しながら、いつリオから連絡が来るのかと考える。この2日間、もしかしたら夢なんじゃないかと考えたりもした事もあった。その度にリオから貰った通信端末を手に取る。
通信端末と言われて渡されたので間違いはないと思うが、自分のよく知る通信端末とは全然形が違う、これは…
「ブレスレット…だよね」
特に液晶やボタンが付いている訳ではなく、ただただ真っ白なブレスレット。所々に幾何学的な溝が彫ってある、これが回路の代わりなのだろうか?
肌触りから金属製のようだが、詳しい材質はよく分からない、恐らく地球には無い金属なのだろう。
リオの説明では受信専用の設定になっているからこちらからできる操作は応答のみらしい、授業中にいきなり鳴ったりして没収されないといいが…
そんな事を考えている間に見慣れた校舎が見えてきた、我が母校だ。まぁまだ半年しか通ってないけど。
「よっ!」
駐輪場に自転車を停めていると後ろから聞き慣れた声が聞こえた、土日ぶりなのに、ひと月は会っていなかったかのように懐かしく感じる。それほど大きな出来事があったのだ。
「おはよう、山内」
「お、おう……おはよう……?」
「どうした?」
「いや、いつもと雰囲気が違うからさ…なんて言うか……落ち着いてる感じ?」
「そうかな…まぁ、色々あったんだよ」
「なんだよ色々って……」
「いつか話すよ」
はてな顔で言及してくる山内を適当にあしらいながら教室へと向かう。もちろん山内にも話すわけにはいかないし、どうせ話しても「厨二病乙!!」とか言われるのがオチだろう。
山内からの言及はどうということもなかったが、大変だったのは教室に着いてから、どうやら捜索願が出された段階で大学にも連絡がいっていたようで、連絡を受けていた先生に呼び出され質問攻めにあった。ここでも黙秘を突き通して先生がキレそうになったこともあったが、凄く酷い目に会い、話すと思い出してしまうから話せないのではないか?と都合よく誤解してくれたので、そういう事にしておいた。「凄く酷い目」にあったのは事実だし良いだろう…
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