星の守り人 6話 星守になる?
リオの突拍子もない提案にその場の空気が一瞬凍った。
「リオ!?急に何を言い出すんだ?」
「えー?名案だと思うんだけどなぁ」
「はぁ…ケント君すまない、ただでさえ一杯一杯なのにリオが変なことをーー」
俺が?星守に?それが今の俺に出来る事………?
オルカとリオの言い合いはすでに耳に入って来ていない。己の無力さに打ちのめされていたところに唐突に提案された、星守になるという選択肢。
「星守になるって一体どういう…?」
「そのまんまの意味だよ。君が星守になって一緒に敵と戦うんだ」
「そんな…簡単になれるものなんですか?」
「そりゃ簡単じゃあないさ、いっぱい訓練しないといけないよ?でも、そうすれば君は戦う力を手に入れられるよ?」
あのロボットと…地球の驚異と自分が戦う?守れる?守って欲しい、助けて欲しいとしか願っていなかった折原には考えもしない選択肢だった。
(俺が戦えるようになれば少なくとも大切な人は守れる…)
力を手に入れれば、大切な人達は守る事ができる。でも、そんな自分勝手な理由で良いのか?それに戦うっていうことは…
死ぬかもしれない
今日まで普通の日本の学生だった自分が、命をかけて宇宙人と戦う?そんな事ができるのか?
「うーん、もう一声かな?」
「リオ!これ以上ケント君を困らせるな!」
「オルカごめん、でも話させて」
「リオ…?」
口調に反してリオの表情は真剣だった。
「ケントが星守になってくれると一つメリットがあるんだよ」
「メリットですか?」
「星守は組織だからね、いろいろルールがあってさ、僕たちは契約前の星に武装を持って降りることが出来ない。でも一つだけ例外がある、それはその星の住人の場合だね」
「それはつまり俺なら…」
「そう!ケントだけはすぐにでも地球で活動が出来るってわけ!地球に敵が現れちゃったら今の僕らにはどうすることも出来ないからね」
つまり、今の現状で地球に敵が降り立ってしまった場合、ただ侵略されるのを眺めるしかないけど、自分が星守になればそれを少しでも食い止めることが出来る。流石に実害が出れば皆信じるはず、その時間稼ぎが出来るってことになる。
「それに僕たちも人員の確保が出来るからね」
「星守って人手不足何ですか?」
「いっつも人手不足だよー、守るべき星はいっぱいあるし、だから少数精鋭でやってるんだけどね。だとしても少ないから、助けた星からスカウトすることもよくあるんだよ。僕もそうだからね」
「そうなんですね…でも、俺でいいんですか?俺は軍人じゃないし、戦った経験なんて…」
「今ここにはケントしかいないよ」
リオが真っ直ぐ折原を見る。
「ま!これも何かの巡り合わせってやつじゃん?どう?やってみる?」
俺が地球を守る…?
地球が侵略されようとしていると知ったとき、なんとか助けてもらえないか、守ってもらえないかという事ばかり考えていて自分自身が守る側になる事は考えもしていなかった。実際、守るなんて大層な事は出来ないかもしれない、出来たとして時間稼ぎくらいにしかならない…
「君が強くなれば強くなっただけ守れる人が増えるよ」
そうだ、地球を守るなんて大それたことを考えるんじゃない、自分が感じた恐怖を、あの無力さを、大切な人に味わってほしくない。
守りたい__
心の中で何かが弾けた。そこに弱々しい折原の姿は無い、覚悟を持った強い表情、真っ直ぐな眼差しをリオに向けていた。
「覚悟が出来たみたいだね」
「はい」
「死ぬかもしれないよ」
「分かってます」
「もしかしたら全て無駄になるかもしれないよ」
「強くなります」
「じゃあ…君の答えを聞かせてくれる?」
「星守に…なります。教えて下さい、あいつらと戦う方法を!」
誰かじゃない、拐われて、助けられて、この人達に出会った事は偶然じゃない、俺が戦うんだ…守る為に!
「はぁ…話が纏まったみたいだね…」
「あ、オルカ居たんだ?」
「居るに決まっているだろう…それでどうするんだ?ケント君を星守にするのは分かったが、報告とか手続きはどうする?」
「オルカがやっといてよ」
「やっぱりそうなるか…はぁ…ちょっと通信の準備してくる…」
「よろしくー」
オルカは星守の本部への手続きをするために席を外していった。
「大丈夫ですか?ご迷惑だったり?」
「大丈夫だよ!いつもこういう扱いだし、誘ったのは僕だからね」
「了解です」
……
「まだ実感わかないでしょ?」
「正直そうですね」
「そりゃそうだよね、まぁ追々説明はしていくとして、今日は帰ったら?」
「え?」
「地球の、君の居た日本の時刻でいうと今朝の5時だよ」
「本当ですか!?やばい…絶対心配してる…」
気絶している間に相当時間が経っていたみたいだ、地球の平和も大事だけど、今日のところは家の平和も守らないと…
「帰るなら送るよ?」
「よろしくお願いします」
「OK!サテラ、地上への降下用ポッドの準備しといて!」
「[了解しました]」
「今のは?」
「サテラだね。武装とか輸送機の制御からいろいろなシュミレーションまで出来る高性能の人工知能だよ」
「[健人さん、はじめまして。ポッドの準備ができましたので乗船をお願いいたします]」
「りょ、了解!」
「あははっ!そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。ポッドはさっき来た通路をそのまま反対側に行けば格納庫があるから、そこにあるよ」
「そ、そうですよね…ありがとうございます」
星守からの準備が整い次第折原に連絡が出来るように、専用の通信端末をリオから受け取った折原は部屋の出口へと歩き出す、そしてちょうど出口に立ったところで振り返り…深々と頭を下げる。
「……俺、本気でこの地球を、家族や友達を守りたいんです。どうか…よろしくお願いします」
「…それは僕達も同じだよ」
「ありがとうございます…それで今日は失礼します」
「じゃあね!」
最後までリオの口調は明るかった。元々はそういう性格なのかもしれないが、折原には無理に明るくしているようにも見えた。
(きっとリオさんにもいろいろな過去があるんだろう…)
宇宙からの帰りの旅は行きと違い平和、揺れも衝撃も気持ち悪くなる加速感も無い、こんな宇宙船があれば地球の宇宙旅行希望者は後を絶たないだろう。
体感十分程度で地球まで戻ってくる事ができた。あの黒いロボットに拐われた海岸へ、まだ1日も経っていないのに遠い過去の事に思える…
眩しい。恐怖の思い出が刻まれた真っ暗な海岸では無く、朝日に照らされた美しい海岸…
(この美しい光景も…このまま待っていたら壊されてしまうかもしれないんだよね…)
手元にあるリオから貰った通信端末が夢では無かったことを証明している。折原は今一度自分の中で決意を固め、帰路に着く。
自転車に置きっぱなしだったスマホに数十件の着信履歴と、両親による警察への捜索願が出ていたのは言うまでもない…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます