星の守り人 13話 初戦果
遂に人類と異星人との最初の戦いが始まった。目標の敵機との距離が500mまで近づく、しかしそこから敵機との距離が縮まらなくなり始める、こちらの接近に気付いていたようだ、アームズの性能を知っているからか、戦闘目的の機体ではないからか、敵機は逃走という選択を選んだ。しかし機体性能はこちらが優勢、少しずつ追いついてゆく。
「サテラ!回避されずに当てるにはどのくらいの近づけばいい?」
「[前回戦闘データから計算…現在の装備での有効射程は100m、50mで必中です]」
3か月前、折原を攫いオルカが戦った偵察機との戦闘データからサテラによる回避性能の分析、折原の装備性能を加味した有効射程を計算を行う。遠過ぎれば当然当たらない、無闇やたらに打ち続けると敵機側にこちらの装備を解析されてしまい、回避されやすくなってしまう。出来るだけ一撃で仕留める必要があるため、こうして当てられる距離を計算して戦うのだ。
理想は50mまで近づきたいが、近づけば近づくほど相手の動きに合わせた旋回の難易度が上がる。今の最大飛行速度はマッハ3前後、1秒で1km進んでしまうスピードのため、相手の動きに一瞬で合わせたつもりでも僅かな対応の遅れで差が開いてしまう。全力で近づいているつもりでも300mが限界だ。
当然と言えば当然、人間の脳はそんな高速に反応出来るように出来ていないし、敵はAIによる高速制御、この先折原がどんなに訓練を重ねようがこの反応速度に勝てることはないだろう。
「サテラ!目標の行動パターン分析はまだ!?」
「[地球環境下で目標の行動パターンが大きく変更されています。パターン収集のため追跡を続行してください]」
「大気と重力か…急いでくれ!」
これ以上接近するためにはサテラによる行動分析が必要、AIを急かしたところで早まる事はないが、それでも焦りから叫ぶ。幸い陸地はまだ遠くコロナイザーが上陸するまでには時間がかかる、そう思われたが…
「これは…まずいね」
「どうした?」
「まだ上陸までの距離はあるんだけど、これ見て」
「これは…沿岸警備のレーダーか!」
折原とコロナイザーが向かっている方角、つまりこのまま行くと上陸してしまう陸地はアメリカ、沿岸警備ののためのレーダーが張り巡らされている地点だった。
このままレーダーの範囲に入ってしまうとアメリカに探知されてしまう、コロナイザーが未知のものすぎて何かまではわからないとは思うが、これが原因で関係の無い国同士の国際問題に発展する可能性もあるし、今の段階で星守とコロナイザーのことがバレるのは得策では無い。
「頑張れケント!」
「ケント君…!」
本来ならば自分達が戦うべきところをたった3ヶ月しか訓練をしていない少年に任せることになってしまい、歯がゆい思いの2人。今はただ折原の勝利を宇宙から願う。
「くっ……速い!」
距離を詰めたと思ったら急旋回されてしまい距離が開く、こちらも遅れて旋回して距離を詰める、そしてまた急旋回…離れることも追いつくこともない追いかけっこを続ける折原とコロナイザー、だがその戦いも長くは続かない、相手はAIなのに対してこちらは人間のため時間が経つごとに少しずつ集中力が切れてきてしまっているのだ。
初めての実戦、しかも1人での戦闘で、もし逃してしまえば地球に被害が出てしまう状況、極度のプレッシャーを受け思うように操縦出来ない。
(落ち着け!速度はこっちの方が速いんだ、もう少し…集中…!)
接敵してから3分が経過、折原にとっては3時間に感じるほど長い、そして音速を超える超高速で飛行しているため、たった3分でもその移動距離は果てしない。アメリカ沿岸のレーダー範囲に入るまでのタイムリミットは、あと5分。
オルカ達はレーダーの事を折原にはあえて伝えていない、伝えたところで今の折原ではレーダーを回避するように誘導することは難しいし、ただプレッシャーを与えるだけで意味がないと判断したからだ。その判断は正しかったようで、折原は目の前の敵だけに集中出来ている、きっと他の事を気にしなければいけなくなったら今よりももっと離されていただろう。だがそれでも少しずつ距離が離れていく、集中力が限界を迎えようとしている。
それでも必死に食らいつく、諦めるわけにはいかない…戦うと決めたから、強くなって大切なものを守りたいから、こんなところで遅れを取るなんて絶対に嫌だ。
「負けるかよ!!」
自分を鼓舞するように、覚悟を再度自覚するために声に出して叫ぶ。同時にメインスラスターの出力を上げる、コロナイザーとの距離がグッと縮まる。
本来今の状態で速度を上げてしまうと急旋回の際に反応が遅れてしまい余計に距離が離れてしまうのであまり良い判断とは言えない。それでも追いつきたいと思う気持ちから加速する。だが敵もそんな簡単に接近を許したりはしない、距離が縮まった瞬間また急旋回をする…しかし…
(……!上だ!!)
明確な根拠は無い…僅かな動きか、数分間という短い時間から得た経験からか、折原はその瞬間コロナイザーの旋回する方向を…予測した。
考える間もなく反射で旋回を開始する、メインスラスターの出力を僅かに弱め、同時に姿勢制御の小型スラスターを点火、状態を起こしつつ急速に空に向かって旋回した。そして旋回した先には…今までで最も近くまで近づいたコロナイザーの姿があった。
たった一回だったが折原の予測による反応速度が高速制御のAIの反応速度を上回った。間違いなくこの一瞬だけは折原の勝利だ。そして祝砲を上げるようにこちらのAI、サテラの声が聞こえた。
「[パターン分析完了。追尾プログラム作成完了。実行してください]」
サテラによるコロナイザーの行動パターンの分析が完了、ヘッドアップディスプレイ上に想定パターンが表示される。折原はその内容を確認し、最終的な敵との距離が50m以下になる事を確認し、ひと呼吸置いたあとサテラに命令を下す。
「よし…サテラ!追尾プログラム実行!」
「[了解しました]」
アームズが折原の制御を離れ自動飛行モードへ移行する。メインスラスターの出力を上げ、一気にコロナイザーに近づいていく、先程の様に急旋回するが、既に分析済みのため僅かなラグもなくこちらも急旋回、正確に追尾する。150m…130m…110m……有効射程まであと10mに差しかかかったその時。
コロナイザーが大きく動いた、背中の黒い羽の先端が折原の方に向けられ青白く光る。次の瞬間無数のレーザーが折原を目掛けて放たれた。
「くっ!」
折原は自動飛行に割り込みを入れ、咄嗟にバレルロールで回避する。
「サテラ!今の攻撃も分析対象に追加」
「[分析…完了。追尾プログラムを更新しました]」
「よし…これで手の内は全部見えた!」
再度自動飛行モードへ移行しさらに距離を縮める、近づくたびに無数のレーザーを放ってくるが、もう当たらない、すべてを回避して接近していく…そして…
「50m!仕留めます!」
右手のライフルを構え照準を合わせ引き金を引く、必中距離の50mまで接近した、外れる事はない。ライフルからハンドボール程の大きさの青い球体状のエネルギー弾がコロナイザーに向かって放たれる、こちらの攻撃に反応して回避行動をとろうとするがもう遅い、回避しようとした頃には既にコロナイザーの胴体に着弾、同時に炸裂し直径2m程の衝撃波を放った。
コロナイザーの装甲は地球上の通常の銃器では傷一つつけることができない程強固、表面への衝撃で破壊する事は難しい、なので星守の武装は表面だけでなく内部から破壊するため超高振動のエネルギーを圧縮した弾を放ち、着弾と同時に解放することで破壊する振動破砕弾というエネルギー弾を使用している。
超高振動高エネルギーの衝撃波を受け、コロナイザーの機体を構成する金属分子の結びつきが崩壊、着弾点を中心に機体の半分以上を粉々に破壊、メインシステムや動力を失い、コロナイザーは完全に機能を停止、動力を失ったコロナイザーはそのまま速度を落としていき、轟音と共に水面に衝突、海へと沈んでいった…
今回の任務、撃墜目標は敵性コロナイザー偵察機1機。使用装備はアームズBS-65、汎用ライフル型片手銃。
4分半の戦闘、敵の攻撃8回中被弾は0回、対してこちらは1回中1回命中し一撃で撃墜。アメリカ沿岸のレーダー範囲まで、あと200km。
折原の初戦闘は完全勝利にて幕を閉じた。
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