星の守り人 14話 初勝利

『戦争とはどういうものだろうか?土地や権利等を求めて戦う争奪戦か、それともかっこいい武器や乗り物が出てくるおとぎ話か、はたまた技術革新が起こる文明のターニングポイントか…』


 歴史の教科書を読んだ人に聞けば色々な答えが返ってくるだろう、正解や不正解は無い。ただ戦争が終わった直後、当事者たちに聞いたとしたら余程の変わり者でもない限り「もうやりたくない」と答えるだろう、どんなに大きなものを得たとしても、戦争は最も大切な人の命を奪うものなのだから…


 そして今日もまた小さな戦争が起きた。世にも珍しい地球人と異星人との戦争、一人の地球人と異星人の無人ロボットで行われた一対一の戦争。だが今回の戦争では何も起こらなかった、地球にはなんの影響も出さず、誰にも気づかれずに終わった。ただ1人、大切なものを守るために戦った少年を除いて…


 *


「お帰り、ケント君」

「お疲れ様ー!」


 地球の遥か上空の宇宙空間では2人の異星人が1人の地球人を迎え労いの言葉をかける。先程戦っていた無人ロボット側とは違いこちらは友好的な異星人、名前はオルカとリオ。


「ただ今戻りました、無事撃墜…出来ました!」


 折原は限界まで張り詰めていた緊張の糸が解け、涙を浮かべながら任務達成の報告をする。たった一人で初めての戦闘、地球へ被害を出さないためのタイムリミットに迫られミスの出来ない任務だったが、折原は完璧にやり遂げたのだ。


「すまないケント君…俺達が出撃するべきだったのに、今の状態ではケント君を頼るしか方法が無かった…」

「気にしないで下さい、オルカさんが悪いわけじゃないですしこうやって無事勝てましたから…!それに、この為に俺は星守になったんです」

「そう言ってくれると救われるよ、とにかくよくやってくれた!被害も出ずレーダーにも引っかからず、完璧な成果だよ!」

「あ…オルカ…今言っちゃう…?」

「オルカさん?レーダーって何の事ですか?サテラからはそんな情報聞いてないのですが…」

「あーあ、もっと落ち着いてから話せばよかったのにー」


 折原にはアメリカ沿岸のレーダーについては話しておらず、落ち着いてから理由と共に話すつもりだったが、折原の任務成功に浮かれてつい口が滑ってしまった。基本しっかり者のオルカだが、時々抜けているところがある…


「そんな!あと2,3分遅かったら見つかっちゃったって事ですか!?」

「いや、すまない!あの状態であれ以上プレッシャーをかけるような情報は不要と思ったんだ!」

「だとしてもそんな情報、黙ってるなんて酷いじゃないですか!!」


 緊張が解けた反動と意外と重要な事を隠されていた事実に軽くショックを受けオルカを攻める。別に本気で裏切られたと思って怒っているわけではない、3ヶ月の訓練の中で信頼関係が生まれ、こういった事も言える間柄になっているから言っているだけだ。


 ただちょっと、もうちょっとだけ信頼してくれても良くない?わかるよ?プレッシャーをかけないためっていう配慮は、でもさ?結構重要な話じゃない?レーダー引っかかってたら結構大変だったよね?それぐらいの情報なら伝えられても頑張れたと思うよ?……多分


 ひとしきりオルカを攻め立て、オロオロしているオルカを見てリオが吹き出す。


「フフッ…アハハハ!オルカも怒れるケントの前じゃ形無しだねぇ」

「いや、ていうかリオも同罪だろ!」

「僕はもっと落ち着いてから懇切てーーねいに説明しようと思ってたしー?」

「リオ…覚えてろよ」


 オルカの額に筋が浮かびリオを睨みつける、まぁこれも仲がいい証拠…だよね?


「とにかくすまなかったケント君、次からは変に情報を隠さず全て伝えるよ、もう隠す必要も無いだろうしね」

「隠す必要が無い?何でですか?」

「あ、いや…あれだけ完璧に任務遂行できるならこちらでストレス管理をする必要は無いってことさ!それより少し休んできなさい、気づいてないだろうがかなり疲労が溜まっているはずだよ」


 そういえばすごく身体がだるい、実際は5分も戦っていなかったのに、ずっと緊張してたからだろうか?


「そうですね…少し休んだら地球に戻ります」


 そう言い残すと折原はデッキから居住スペースへと去っていった。


「オルカ…危うく2度目の墓穴掘るところだったよね?」

「いや…すまん、流石に今のは弁解する余地も無い…」

「まぁいいよ、バレなかったし…でもこっちは流石に今のケントには絶対伝えちゃいけないからね…」

「そうだな…」


 オルカとリオはデッキのメインモニタに映し出した折原の戦闘データを見る。そこには折原が戦闘中に一瞬だけコロナイザーの反応速度を超えた時のデータが記録されていた。


「初めての実戦でこれは…恐ろしいな…」

「でも、これがあったから今回は助かったのも事実だよね」

「あぁ…」


 AIによる高速制御されているコロナイザー相手では、いくらアームズが高性能だとしても追いつく事は難しい、それは当然でアームズを操る星守達が脳で考えて操作しているに対してコロナイザーは機械の脳みそであるAIを使用しており、その反応速度の差は1000倍以上もある。それに対して星守もサテラというAIを使って敵の動きを解析、自動制御によってその差を埋める。そのため初めての敵や環境ではまず敵の行動パターン分析から始まり、その間はサテラよる自動制御無しで追尾しなければならず星守の腕の差が顕著に現れる。

 今回敵の偵察機自体は以前にオルカとリオが戦った際に行動パターン分析が完了していたが、地球の重力と大気により大きく制御方法が変更されており、その差分の行動パターン収集が必要となった。


「反応があった時、正直レーダーだけは諦めるしかないと思ったよ」

「確かにな…あの短時間で行動パターンの収集をするには相当の手練じゃないと難しいだろう」

「それをまさか1番難しい方法で解決しちゃうとはねぇ…」


 行動パターンを集める方法は人によって様々で、ただひたすら追いかけ続けていても収集は可能だが、原則としてより近づき追い詰めている方が収集時間が短くなる。他にはあえて少し距離をとったり、攻撃をして回避行動をとらせたりして色々な動きをさせた方が収集時間をより短縮することができるという。

 そんな中で最も収集時間を短縮する方法は、敵の反応速度を超えサテラの自動制御無しで追いつくというものである、しかしそもそも追いつくための自動制御をするために行動パターン収集をしているわけで、その段階で追いつくなんて事はほぼ不可能に近く、この方法を狙う星守はほとんどいない。だが、折原は無自覚の内にこれを成し遂げてしまったのだ。


 今回のコロナイザー偵察機戦では、折原の実力であれば行動パターン収集に5分以上はかかり、収集が完了する前にアメリカ沿岸のレーダー範囲に突入してしまう計算だった。だが折原が1回だけ起こした奇跡、直感でコロナイザーの動きを予測して追尾したその1回がサテラの行動パターン分析に大きく貢献し、想定よりも早く敵の動きを把握し撃墜することができた。そんな折原が成し遂げたこの偉業を褒め称えたいところではあったが、今は折原に伝える事はできない。


「ホントなら今すぐ抱きしめて褒めてあげたいけどねっ」

「それはいくらケント君でも嫌がるんじゃないか?」

「あーもう…冗談に決まってるじゃん…」

「でも確かにケント君のお陰で地球側にバレずに処理することができたし、褒めてあげたいとこだがな…」

「覚醒に影響が出ちゃうと困るからね、可愛そうだけど黙っていこう」

「はぁ…嘘はつかないと言ったばっかりなのにな…」


 折原に今回の偉業を伝えられない理由、それは今折原に訪れている覚醒という現象に関係している。

 覚醒。その星で初めてコロナイザーと接触した人間に低確率で発生する精神状態のことを指し、未知の存在であるコロナイザーに触れたショックや自分の住む星が侵略されるかもしれないという事への防衛本能など、詳細なメカニズムは解明していないが、そういった諸々の原因によって精神構造に影響を及ぼし、コロナイザーと戦うのに適した精神状態へと変化する。

 具体的には死や怪我といった恐怖への耐性、未知のものや咄嗟の状況への高い適応力、人によっては反応速度や身体能力が上昇する場合もある。折原にもその兆候があり、半覚醒状態とも言える状態となっているが、この状態はかなり不安定な状態で極端な話「もう戦わなくてもいい」と思ってしまえばすぐ通常の精神状態へと戻ってしまう。


 オルカとリオはいつか完全に覚醒し精神状態が安定するまでこの事は話さず、胸の内にしまう事にした。

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