星の守り人 15話 守るために


「あれ…ここは……?」


 気づくと折原は大学のグラウンドに来ていた。運動部に所属していない運動音痴の折原にとっては体育祭と文化祭くらいでしか使わない、縁もゆかりもない場所だ。


「よっ!折原!」

「山内…か?」

「なんだよ…友達の顔も忘れたのか?昨日はいきなり帰っちまうし、大丈夫か?」

「ん?昨日?……あぁ、そうか昨日か、いきなり帰って悪かったよ」

「いやー大変だったよ、何故か俺が変わりに怒られたからな!」

「…アイス一本でいい?」

「良いやつをな」


 同じクラスの友達である山内と当たり障りに無い会話をする。でも何だ?この違和感は?何か大切な事を忘れてる……?


「おい!あれ何だ!?」


 いつの間にかグラウンドに集まっていた学生達が空を指差して騒いでいた。折原と山内もその指差す方向に目を向ける。


「何だありゃ!?う、宇宙船!?」


 そこにはSF映画から出て来たような宇宙船が浮かんでいた。真っ黒で細部の形が分かりづらいが、どう見ても地球のものでは無く誰もが宇宙船と認識できる。


「なんか出てきたぞ!!」


 またグラウンドが騒がしくなる、宇宙船から10体以上の何かが飛び出してきた、黒い機体に黒い翼の生えたロボット…何処か見覚えがある…。ロボットは真っ直ぐグラウンドに降りてきて、地上から1m程浮いたところで停止した。


「なんだよあれ…折原!見に行こうぜ!」

「え、いや!待て山内!」

「うぉ!?どうしたんだよ?世紀の発見だぜこれ?」

「いや、分からない…でも、あれは敵だよ…」


 ロボットに向かって走ろうとした山内の腕を掴み止める折原。あれが何かは分からない、いや…思い出せない。でもあれは敵だ、間違いなく人類に仇なすものだ。グラウンドにいた他の学生達の何人かは山内のようにロボットへ近づいていく。


「近くで見るとデカイな」

「これどうやって浮いてるんだ?」

「写真撮ろうぜ写真!」


 未知のロボット発見に浮かれ写真を取り始める学生達。


「写真…スマホはっと、やべ教室だわ、取ってくる!」


 一人の生徒が教室に向かうためにロボットを背に歩き始めた。


「写真…スマホ…!ダメだ!!今すぐ離れろ!!」

「え?」


 折原が遠くから叫び、学生達がそれに驚く。この光景を知っている、その後訪れる結末も…恐怖も。


 ーバシュ!


 ロボットの胴体が開き複数のアームが展開しスマホを取りに行こうとした学生を捕まえる。


「うわ!何だよこれ!」

「誰か助けて!」


 学生の顔が絶望に染まる。


(何で忘れていた?3ヶ月ずっとあいつと戦うために訓練してきただろ?)


「お、おい折原!やべぇんじゃないか!?俺らも危ないって!」

「山内、逃げろ」

「あぁ勿論だよ、折原も一緒に行くだろ?」

「いや、俺にはやることがある…」

「何言ってんだよ!絶対やばいって!」

「いいから逃げろ!」


 折原は山内にそう告げるとロボットの集団に向かって走り出した。


「アームズ!!」


 折原がそう叫ぶと、背後から別のロボットが現れた。青いラインの入った白いボディの人型ロボット、正確には中に人が入れる様になっているいわゆるパワードスーツと呼ばれるものだ。現れたパワードスーツは一瞬で展開し、折原を包むように被さり折原を中へと誘った。


「サテラ!状況を!」


 パワードスーツを身にまとった折原はAIを呼び出す。


「[同型の偵察機コロナイザーが12機、行動パターン分析済みです]」

「よし、行くぞ!」


 パワードスーツのメインスラスターを点火しロボットに向かい突撃していく。ロボットに向かいながら周りを見渡すと、離れたところに避難した山内や他の学生達がスマホのカメラをこちらに向けている。



「こちらがその場に居合わせた生徒さんが撮影していた映像になりますーー」


 テレビのニュースでスマホの動画が映し出される。黒い宇宙船と黒いロボットの集団に白いロボットが単身で突撃している映像。


「政府は破壊された黒いロボットの調査と並行して、白いロボットの行方も追っているそうですね」

「黒いロボットに生徒が攫われそうになったところを白いロボットが颯爽と駆けつけたらしいですね。まるでヒーローじゃないですか!?」


 ニュースキャスターが状況を報告すると隣に座っている芸能人コメンテーターが興奮気味に喋る。


 報道依頼、突然の異星人の襲来とそれを倒す謎のロボットの登場に世間の関心が高まり、人によってはそれをヒーローと呼び始めた。



 ザザッーーザーーー


「えー、続いてのニュースです。昨日午前10時頃〇〇市にて黒いロボットが出現し襲撃しました、少し遅れて白いロボットも現れ交戦状態となりましたが、市街地での戦闘だった為市民に大きな被害が発生。死者152名、重軽傷者を合わせるとーー」


 悲惨なニュースが流れる。ヒーローだ!ともてはやされた白いロボットの失態、多大な死者と怪我人を出す結果となってしまった。


 ーちゃんと守れよ!何やってんだよ!!ー

 ー弟が被害に合い亡くなりました。絶対に許しませんー

 ー実はあいつも敵なんじゃないね?ー


(違う!敵じゃない!俺だって全員助けたかった!精一杯やったよ!でも一人じゃ無理だ……もっと………)



「強くなりたい!」


 叫びとともに飛び起きる。ここはキャリアーの…居住スペース?


「夢…か…」


 そうか、これから先戦いを続けるということは、ただコロナイザーとの戦いに勝てるかどうかだけじゃないんだ。勝ち続ければ、地球を救う事が出来ればヒーローになれるかもしれない、でも被害が出て死ぬ人がいれば怒りの矛先はコロナイザーだけでは無く、守れなかった自分達にも降り注ぐだろう。


(今のままじゃダメだ)


 もっと強くならないと、コロナイザーを寄せ付けないくらいに、どんな強敵が来ても守れるくらいに…もっともっと…


「強くなろう」


 折原はベッドから降りると、オルカとリオが待つデッキへゆっくり歩き出した。

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