星の守り人 16話 正夢

 

「おはようございます…どのくらい寝てました?」

「おはようケント君、2時間くらいかな、急げば午後の授業には間に合いそうだよ」

「あ、そういえば学校…」


 山内に休むとだけ告げてこっちに来てしまったから今どういう状況なのだろうか?夢で見たみたいに山内が理不尽に怒られてたら申し訳ないな。


「流石にこのまま休む訳には行かないので帰ります」

「わかった、ただその前に1つ分かったことがあったからそれだけ伝えておくよ」

「分かったこと?」

「今地球周辺にいるコロナイザーの数だ」

「まだいるんですか?」


 折原の拳に力が入る


「そう身構えないでくれ、数が分かっただけで場所までは分からないんだ。幸いまだ被害は出ていないし…引き続き捜索中だ」

「そうですか…それで数は?」

「あぁ、さっきケント君が戦ったコロナイザーが発していた通信を解析したところ、5つの通信信号が出ていた、そのうち1つはこのキャリアーに向かって発信、恐らく今格納庫で拘束している偵察機に向けてだろう」

「と言う事は残りのコロナイザーは…」

「4機だな」


 本格的な侵攻が始まれば比べ物にならないくらいのコロナイザーと戦う事になるというのに、今はたった4機が多く感じてしまう。


「地球外で発見できれば俺達も一緒に戦えるが、地球上に現れた場合は今日みたいにケント君に頼るしかない…すまないがーー」

「大丈夫です」

「ケント君…」

「臆してなんかいられません、もっと強くならないといけないし、戦えます」

「そうか……よし!その意気だ!捜索は俺達に任せてくれ、必ず見つけよう」

「よろしくお願いします!」

「っと、ポッドの準備が出来たようだ、コロナイザーも大事だが勉強も大事だろう?行っておいで」

「はい!」


 こうして折原の初戦闘は幕を閉じ、3時間ぶりに平和な地球へと帰還した。


 *


「折原ぁ!いきなり帰りやがってどうしたんだよ?」

「山内か…すまない…」

「まったく…何故か俺が先生に怒られたんだぞ…」

「…アイス1本良いやつを?」

「はぁ?こんな寒い時期にか?…ここはおでんだな!1番高いやつ!」

「了解、半分正夢って事か…」


 山内と話すと平和な日常に戻ってきた気持ちになれる。それにしても夢と同じ展開、このままコロナイザーが来たりしないよな?

 実際そんな事は起こらない、いくら隠密性能の高い機体だとしても学校周辺にまで近づけば見つけられる。折原が腕につけている通信用の端末は通信以外にも様々な機能が搭載されており、少しであれば攻撃やシールドを展開する事もできるし、半径数km程の範囲を簡易的に索敵出来るレーダーも搭載されている。


(安心して授業を受けられるな)


 キーンコーンカーンコーン


 昼休み終わりのチャイムが鳴り、食堂やグラウンド等で各々の休み時間を過ごしていた生徒達が自分の教室へと戻っていく。案の定、教室に行った折原は先生から怒られた。休みの連絡は事前にしろと、まぁごもっともだ。でも仕方ないじゃないか、放置してたら地球に被害が出てたんだぞ?…まぁ実際そんなことを言う訳にもいかないので謝るだけ謝っておこう、もうしませんとは言えないけど…


 *


「そういえばどうする?カラオケ行くのか?」


 放課後になり山内が席に来て尋ねる。そういえばカラオケも行かないって言って出てきちゃったんだっけな、思ったより早く戻ってこれちゃったし、この感じだと放課後の訓練も今日は休みだろうし、行かない理由は無いな。


「まだ募集しているなら是非」

「もちろんよ!待ってたぜ相棒!」

「相棒…なったっけ?」

「ノリだよ…なんかスベったみたいじゃねぇか…」


 多分スベったんだと思うよ、と言いたいところだが山内の意外と繊細なハートをこれ以上傷つけるのはやめよう。


「いつもの駅前のとこ?」

「もち!」

「了解」


 駐輪場へ行き自転車に乗り、友達と一緒に駅に向かって走る。この3ヶ月、訓練やコロナイザーの事ばかり考えてしまい、日常にいながら心は何処かで別のところにある気がしていた、しかし今回の本物の戦闘を行い何かが吹っ切れたのか、久しぶりに日常に戻ってきた気がする。


(今日は楽しもう!)


 3ヶ月ぶりに普通の学生に戻った折原は軽快に自転車を漕ぎ駅前のカラオケへと向かった。


「30分待ちだってさー」


 先にカラオケについていた他のメンツの中の1人、坂井がそう告げる。


「まじかー、コンビニで暇つぶしでもするか」


 折原と山内、坂井とその他を含めた6人で近くのコンビニへと歩きながら各々趣味の話を始めた。5分も経たない間にコンビニの前へと辿り着いた、ここもカラオケ帰りに良く行くコンビニだ。ただ今日はいつもと様子が違うようだ。


「やめて下さい!」

「うるせぇ!さっさとそれ寄こせよ!」


 高校生くらいの女子と、少し年上っぽい不良男子が争っている。どうやら女子が持っているものを男子が奪おうとしている様だ。


「私が買ったものです!」

「関係ねぇよ、俺が先に目をつけてたんだ!寄こせ!」


 どうやら最近流行っているドラマとコンビニのコラボグッズを取り合っているみたいだ、即完売してしまうレア物らしい。


「やべぇ喧嘩だよ…どうする?」

「…店変えるか?」


 坂井達は完全にビビってしまってこの場を離れたそうにしている。が、山内だけは嫌な予感がしていた。


「止めるべきだろ、このままじゃあの女の子怪我するぞ」


 折原はそう言うととコンビニに向かって歩き出した。山内はやっぱりかぁ…と頭を抱える、ここ数ヶ月で折原の性格が変わっている事に山内は気付いており、今の折原ならこういう場合躊躇なく仲裁に入るだろうと思っていた。そして嫌な予感が見事的中した…けど折原は喧嘩できるような男ではない、いったいどうするつもりなんだ…?

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