星の守り人 17話 喧嘩無双?
「あの、ちょっといいですか?」
「あぁ?誰だお前?」
「話を聞いている限り、その子が買ったものをあんたが奪おうとしている様に見えるんだけど、間違いないですか?」
「だったら何だよ?関係ねぇ奴は引っ込んでろ!」
不良男子が折原を突き飛ばそうとする、折原は少しよろめいたが臆することなくそのまま不良男子の目を真っ直ぐ見続ける。
「あんただって関係ないだろ?その子が買ったものだし、とにかくそれはその子の物だ、諦めてくれないかな?」
「チッ、グチグチうるせぇ奴だなぁ!」
不良男子が折原を殴ろうと腕を振りかぶりながらこちらに向かって来た、周りの野次馬達がざわめく。
「口だけの雑魚はすっこんでろ!」
折原はどう見たって喧嘩が強そうではない、勇気を出して正しい事を言った少年が暴力に屈する。この場の全員がそう思った、しかし…
「…サテラ」
「[自己防衛プログラムを実行します]」
誰にも聞こえないくらいの小声で左腕の相棒を呼ぶ、左腕の相棒も折原にしか聞こえない音で応える。サテラは応答と同時にブレスレット型端末に蓄えられているエネルギーを使って目に見えない衝撃波を放つ、普通にぶつけてしまうと不自然なので不良男子の足元をめがけて放つ。
「うわっ!」
突然目に見えない力に足を弾かれ、殴ろうとした勢いのまま転倒し地面に転がる、不良男子本人は何かに躓いたのかとさっき立っていた地面を見るが何もない、周りの人達も折原が殴られなかったことに安堵しつつ不良男子の反応を見る。
「うわ…痛そー」
「だっせぇー」
野次馬達から小声でそんな言葉が聞こえる。
「痛っ!おめぇら何見てんだよ!ぶっ飛ばすぞ!」
転んだことの恥ずかしさから顔を真っ赤にして野次馬達に吠える。それでも怒りは収まらず、その矛先は折原へと向けられた。周りに人からしてみれば、転んだことと折原は無関係なのでただの八つ当たりだが、真犯人は折原である。
自己防衛プログラム。事前に設定しておいて良かった、咄嗟の身の危険に対して細かい指示をしなくても防衛を行ってくれる便利機能である。今折原が登録している自己防衛プログラムの内容は、地球人にバレないように事故にみせかけて相手を攻撃する、その名も「偶然転んでラッキーパンチ(命名はリオ)」
その後、頭に血が上った不良男子は3回ほど折原に殴りかかろうとするが、そのどれも転倒により不発に終わる。
(そろそろ周りが怪しがるよな…)
4回連続で殴る前に転ぶのが続けば、流石に周りもなにかカラクリがあるのでは?と疑い始めるだろう、こんなところで変な疑いをかけられるのも面倒だし、終わらせよう。
「もういいだろ…そこまでボロボロなら喧嘩の弱い俺でも勝てると思うよ?」
何も知らないフリをして不良男子を憐れむように諭す。
「クソッ…何なんだよぉ!てめぇ覚えてろよ!!」
転んで出来た傷の痛みと周りの憐れみと嘲笑の視線に耐えきれず、ザ・悪役のような捨て台詞を吐いて去っていく…
「逃げる時は転ばないんだ…」
「「ブフッ!」」
去っていく不良男子を見ながら誰かが呟き、その場に全員が吹き出しそうになる。ちょっと可愛そうなことしちゃったかなと考えていると、不良男子に絡まれていた女子が声をかけてきた。
「あの、ありがとうございました」
大事そうにコラボグッズを抱えながら折原にお礼を言う。
「俺は何も、あいつが勝手に転んでくれて助かったよ」
「それでも…止めに入ってくれたのはお兄さんだけだったから…」
年下女子にお兄さんと言われるとなんかドキドキする…彼女いない歴19年は伊達じゃないな。よく見ると可愛いし、このまま何かが始まる…?
「折原!大丈夫か!?」
現実がカットインしてきた、山内だ。さっきまで遠くでビビりながら見てただけなくせに…終わった瞬間友達想いの演技しやがって、何で俺じゃなくて少女の方チラチラ見てんだよ。
「大丈夫か?」
「怪我してないか?」
山内に続いて坂井達もワラワラと折原の周りに集まってくる。だから何で少女の方チラチラ見てんだよ、てかその心配するセリフ…本当に俺に向かって言ってる?もう面倒くさくなった折原は友人一同を無視して少女に声をかける。
「俺は見ての通り怪我も無い。君の持ち物も無事そうだしこの話はお終い、それでいい?」
「わかりました…じゃあ行きますね?ありがとうございました!」
折原の言葉を受け、最後にもう一度感謝を告げるとそそくさとその場を立ち去った。そりゃあこれだけの数の男子共にチラチラ見られてたらこの場を離れたくもなるよな。
「はぁ…まぁいいか、行こう山内」
「へ?どこに?」
「そりゃあコンビニだよ、おでん、約束しただろ?」
「お、おう…あれマジだったんだ…」
折原、山内に続くように他の友達もゾロゾロとコンビニへと入っていく、それを合図に周りにいた野次馬達も解散して各々の日常へと戻っていった。
*
翌日の放課後、折原はいつも通り訓練をするためキャリアーに来ていた。
「そういえばこのキャリアーにもコアがあるんですか?」
「あぁ、こいつもアームズと同じで搭載しているよ、このキャリアーはコアを3つ搭載してるんだ」
「やっぱり、機体が大きいからですか?」
「それもあるし、色々やるのに便利なんだよ。図体が大きいから3つコアを積んでも負担にならないしね」
キャリアーは武器を登載していないためエネルギーの大半は飛行時の推進力とシールドに使われる。他にも近くにあるアームズにエネルギー供給をして、武器の出力や連射性能を上げるなんて機能も搭載してるらしい。
「キャリアー以外にコアを複数使う事ってあるんですか?」
「うーん、かなりレアだとは思うけどあるんじゃないかな?俺達も全ての型式を知っているわけじゃないからね。あ、でもーー」
オルカが言いかけたところでサテラからの音声が割り込んだ。
「[レイラより通信です]」
「ん、なんだ?繋いでくれ」
レイラさん、オルカさん達のもう一人の仲間…この3ヶ月間1度も会ってないからこれが初対面になるな、どんな人だろう?
「_オルカ!やっと進捗が報告できそうですわ…って隣にいる人は…もしかしてオリハラケントさん?_」
「は、はい!始めまして!」
「_始めましてオリハラさん、私はレイラ。星間交流担当官をやらせてもらっています。よろしくお願いいたしますわ_」
驚いた…通信画面に映し出された女性は、まるでアニメの世界から出て来たようだった。綺麗なオレンジ色の髪を腰まで伸ばし、銀色の澄んだ瞳と整った顔のパーツ、くっきりとした顔立ちのヨーロッパ系の美女だ…いや、宇宙人だからヨーロッパでは無いか。モデルの様なスラッとした体でパンツスタイルのスーツを着こなしている。交渉担当だから地球のスーツを着ているのだろう。
あまりの美女に女性免疫の低い折原が固まっていると、それを他所にオルカとレイラが話し始める。
「レイラ、それで進捗はどうだったんだ?」
「_そうだったわ、国連機との交渉はまだまだですけど…話の通じる方を見つけましたわ!_」
「本当か!」
え…?喜ぶオルカとレイラの後ろで、折原だけが不安を覚える。この現状で話の通じる人間…?なんだか怪しい気がするんだけど。
果たしてその地球人は交渉のキーマンとなるのか?それとも…
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