星の守り人 18話 ヤケ酒レイラの出会い

「それで、どんな相手だった?」

「えぇーー」


 レイラは自分が出会った「話の通じる方」との出会いと経緯を話し始めた…


 *


 時を遡り数日前


「はぁ…もう3ヶ月間ですわよ……マスターもう一杯!」


 レイラはやさぐれていた。まさかこんなに難航するとは…レイラはベテランの交流担当官ではないがそれでも今までに4つの星と交渉を行ってきておりそれなりに自信があった。だが今回の相手は強敵、信じない、相手にしてくれない…交渉相手としての悪いところを集めたような相手。


(どうすればいいのよ…)


 この3ヶ月間何も出来ていない訳ではない、そこは流石のプロの交流担当官であるレイラ、あの手この手で国際連絡機構とのコンタクトを試みて来た。正面から行くと警察に捕まってしまい何を要求しても全て却下されてしまい、これでは駄目だと判断したレイラは正攻法をやめ、グレー…というかほぼアウトな方法で無理矢理交渉を進めた。国連機の会議の場にステルス状態でこっそり侵入して直談判したり、国連機の技術部門をハッキングしてコロナイザーの情報を送りつけたり…


(ってここ3ヶ月不法侵入とハッキングしかしてませんわ!!)


 交渉が進まない以上、細かい倫理観にこだわっている場合では無い。星守の技術力をフル活用したどう考えても犯罪になるやり方だが、レイラは地球人ではないのでセーフだ、と自分に言い聞かせてここまでやってきた。国連機側も簡単に侵入されたりハッキングされている事実が世間にバレて信用を失いたくないので、レイラの事は国連機の重役しか知らない。レイラもそこに気づいているので大胆な動きができている。ただ…


「わかった、君の言いたい事はわかったからもう勘弁してくれ…情報を精査して、必要と判断すれば半年後の国際会議で議題としてあげよう」


 2日前、度重なるハッキングと侵入に疲弊した国連機の職員が放った言葉。それ以降は「情報を精査してから判断する」の一点張りで一切交渉を受け付けなくなってしまった。

 それから2日間、レイラはすっかりやさグレてしまい、こうしてニューヨークのバーを渡り歩いている。元々のコミュニケーション能力の高さと、いくつもの星を渡り歩いてきたその適応力も相まってすっかりニューヨークの夜に適応している。整った顔立ちと派手な髪色に男達が黙って見ている訳が無く、毎日のように声をかけられるが、レイラにとっては情報収集の良いカモである。


「おねぇさん、飲み過ぎじゃない?」

「そんなガバガバ飲んでたら悪酔いしちゃうぜ?こっちで一緒に飲まない?」


 レイラが座るバーカウンターの後ろにあるテーブル席から20代前半と思われる若者達が声をかける。


「ごめんなさい…今日はちょっと機嫌が悪くて、皆様に迷惑をかけてしまいますので遠慮させていただきます…」


 レイラはいつもの外面スマイルで若者達のお誘いを断る。


「そ、そうか…何かよくわからないけど…元気出せよ……」


 レイラは笑顔のつもりだったが、若者達にはレイラの後ろに地獄の悪魔が見えたようだ…大抵の男達は聞き分けがいいので、こうして断ればそれ以上絡んではこない、時々しつこかったり力ずくで連れて行こうとする不届き者がいるがそういう時はサテラを使って処理をする。この間リオから「偶然転んでラッキーパンチ」とかいうダッサい名前の自己防衛プログラムが届いたので最近はそれを使用している。


「はぁ……」


 若者達が立ち去ったあと、おかわりしたカクテルを眺めながらため息をつく…


(飲んでいる場合では無いんですけど…打つ手がありませんわ…)


 タイムリミットが迫ってきている、防衛部隊を編成するためには出来るだけ早く地球との契約を結ぶ必要があるのに、まだまともな交渉すら出来ていない…このままではいけないと分かってはいるが次の一手が見つからない、頭を抱えて悩むレイラ。


「じゃあ…僕となら一緒に飲んでくれますか?」


 またか、本日2回目のお声がかかるが今はそれどころでは無いし、言い方からしてさっきのナンパも聞いているようだから察して欲しい。レイラは少しイラッとしながら声の主の方を向きながら口を開く。


「だから今日は機嫌がーー」


 そこまで言いかけたところで口が止まった。何ていうか…もっさりしていたのだ。レイラに声をかけてくる男達は見た目が派手だったり、ある程度容姿が整っていたり、この星の基準で言うところの「明るい」男達が多い。しかしこの男は、ボサボサの髪に視力を矯正するためだけに存在しているかのような眼鏡、服もセンスがあるとは言い難いシャツに特徴の無いジーパン…はっきり言ってこのバーに似合わない。


(今までにないパターンですわね…訳ありでしょうか?)


 この場において異質なその男に興味が湧いたレイラは、どうせする事も無いし少しくらいなら付き合ってもいいかなと思った。


「何か理由があって声をかけたのですか?」


 率直に今の疑問を男にぶつける。


「それは…お姉さんが綺麗だから…じゃなくて!冗談です…面白い話があるというか…その…」


 男はモゴモゴと下を向きながら喋る。やはりナンパするような人間には思えないので余計に興味が湧いてくる。


「面白い話…ですか?何でしょう?」


 レイラは話が聞きやすいように男に近づく、男も合わせるようにレイラに近づいてくる、そしてバーテンダーに聞こえないくらいの小声で男が告げる。


「例えば…お姉さんが宇宙人って話とか」

「!」


 手に持っていたカクテルをこぼしそうになる。何故この男がその事を知っている?レイラは焦りつつも今はこの男が誰なのか、何故自分の正体を知っているのかをまず突き止めなければと思い、ひと呼吸した後冷静装い話を続ける。


「面白そうですね。詳しく聞いてもよろしいですか?」

「否定はしないか…話が早くていいね」

「ナンパにしては口説き文句が下手過ぎますからね」

「そうかい?さっきの男達よりはお姉さんの心を掴んでいると思うけど?」


 やられた。さっきまでの口調は猫を被っていたのね?意外と手強い相手かもしれないわ、慎重に行かないといけませんわね…

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