星の守り人 19話 アレックス・ミラー
「それで続きは?」
「なるほど、無闇に情報は教えないってわけだね。わかったよ…僕が知っていることは全て話そう」
「お願いしますわ」
「って言っても大した情報なないよ、お姉さんの名前はレイラ、3ヶ月前に突如国連機に現れた謎の美女、いくら探しても身分は特定出来なかった。そして国連機のセキュリティを簡単に破って侵入、ハッキングができる技術力、宇宙人だと信じざるを得ない話ばかりだ」
「…つまりあなたは国連機の方という訳ですね?」
「流石に簡単だったかな?」
国連機の人間で無ければ知り得ない情報ばかり話してしまえば身分を明かしているようなものだ、恐らくそれが男の狙いでもるんだろう。だがレイラはこの男を見た事が無い、恐らく男もレイラを見た事が無い、だからこうして互いに探り合いをして相手が本物であると確信するように仕向けた。
「それで目的は何かしら?私と話がしたいなら国連機に行ったときに話しかければいいのではないのですか?」
「出会う機会が無かったんだよ、僕は技術部門でね、お姉さんとは一方的なメールのやり取りしかしてないのさ」
「技術部門の方でしたのね?それにしてもその「お姉さん」ってのはやめてもらってもよろしいですか?」
「じゃあレイラさん、と呼ばしてもらいますね?このままじゃ不公平だから僕も僭越ながら自己紹介を、国際連絡機構科学技術局の研究者をやらしてもらっている、アレックスと申します…」
その男改めてアレックスは、そう言うとレイラに向かって大げさにお辞儀をした。
「アレックスさん…ですね、それで何故私にコンタクトを?」
「単純にレイラさんと話す機会が無かったからだよ、詳しい話を聞きたくてね」
「それは科学技術局の総意ととってもよろしいですか?」
個人的な知識欲のために星守の情報を開示する訳にはいかない、国連機の総意でなくてもせめて科学技術局の総意でないと…
「残念ながら…君も知っているだろう?僕の組織のわからずや具合は…僕達は少数派さ。だから大きく動けずコソコソとバーで密会するしかないってわけ」
「そうですか…」
どうやら科学技術局内でも意見が分かれているようだ、全員同じ意見だったなら一気に交渉が進むのに…だが何も無い今はアレックスが頼みの綱だ。
(一か八か…賭けてみますか…)
「分かりましたわ…全てはお話出来ませんが、必要な情報は出来る限りお話させていただきますわ!」
「そうこなくっちゃ!じゃあ詳しい話はまた明日、ここの住所でお待ちしております。それでは良い夜を…」
アレックスは住所が書かれた紙をレイラに渡すと、また大げさなお辞儀をして去っていった。
「さてと…マスター!あともう一杯だけ、強いやつを」
これはやけ酒では無い、景気付けの一杯ってやつだ。渡されたショットグラスを一息で飲み干す。
「……!ほんとに強いですわね…これ」
*
翌日の午後。地球に来て初めての2日酔いも少し和らいだところで、昨日アレックスに渡された住所へと向かう。渡された住所の場所は国連機の本部からはかなり離れており、恐らく国連機の公式の施設では無いだろうと予測していたがどうやら正解のようだ。特にこれといった特徴の無いよくあるビルだ。看板がついているというわけでもなく周りと見比べても高くも低くも無い普通のビル。
「…あってますわよね?」
レイラが入るのを躊躇しているとビルの入り口から見覚えのあるボサボサ頭の男が出てきた。
「アレックスさん!」
「お、ようこそレイラさん!時間通りで嬉しい限りです」
また大げさなお辞儀をする。この男の癖なのだろうか…?
アレックスのお迎えの後、そのまま2人はビルの中に入っていきアレックスの案内でビルの地下フロアへと進んでいった。
「ようこそ!僕らの秘密基地へ!」
地下フロアは意外なことに想像していたよりも広かった、恐らくビルの中でも広い方に部屋だろう。更に意外だったのは、その部屋には地球の技術レベルで言えばかなり高い水準の研究設備が揃っているということだ。
「ここは…意外ですね、アレックスさん達は少数派とお聞きしていましたが…」
「思ったより設備が整っているって?これでも国連機直下の研究者だからね、まぁレイラさんから見れば低レベルかもしれないけど、現状揃えられる最高の設備を揃えたつもりだよ?」
この男、意外に有能なのかしら?話しぶりからして星守の存在を知ってから準備しているようですし、3ヶ月、いやもっと短い期間でこれだけの設備を用意できるのだとしたら科学技術局の中でも強い権限を持っている可能性が高そうですわね…
「それで皆様はここで何を?」
「レイラさんがくれた情報の解析と今後の準備かな?今のところの目標は国連機のお偉方にこの地球を侵略しに来る敵が本物である、という事を証明することかな」
「なるほど、少し設備を拝見しても?」
「もちろん!お好きなように」
(こちらの意図をよく理解してくれていますわ。設備を見た感じ、コンピュータが数台、測定機器系が半分、残りを細々とした設備がいくつかといったところですね…)
アレックスが言った事は口からでまかせでは無いようで、設備に関しても映像や画像を解析するためのコンピュータや物質を解析するための測定機器など、コロナイザーが地球外のものである事を証明するための研究器材が大半を締めていた。
「1つお聞きしたいことがあります」
「僕らでお答えできることであればもちろん!」
「えぇ、もちろん…アレックスさん達が私達や敵の事を証明する事が出来れば…国連機全体を動かす事が出来ますか?」
「……」
ここまで軽快に喋っていたアレックスが口をつぐむ、この回答は今後の動きを左右する重要なものだからだ。
「正直…存在を証明するだけでは難しいだろうね…それが地球の驚異として迫っている事も証明する必要がある」
「そうですか…」
(ここで嘘をつくことも可能ですのに…正直な方…)
レイラから情報を引き出すためならばここで嘘をついたり、出来るか分からなくても出来ると言う事も出来たがアレックスはしなかった。研究者としての意地か、それとも性格からか…だがこの選択はレイラの心を動かす結果となった。
(今の現状では打つ手が無い…でしたらこの方に賭けてみるしか…)
「もう1つだけ…質問をさせて下さい。どうしてここまでしようと思われたんですか?国連機も、科学技術局も味方とは言えない状況で、私から見てもリスクを侵しているのは分かります。なのにどうして…?」
「それは…夢だからですよ」
「夢ですか?」
「研究者を目指す理由は人それぞれだと思うけど、僕の場合は宇宙人を見つけて未知の文明を調査するのが夢だったんだよ、子供の頃だけどね。そしたらチャンスが訪れた!大人になるにつれて諦めかけていた夢を叶えるチャンスがね、だからやるしか無いと思ったんだよ!」
「なるほど…でも、そんなにワクワクする事では無いかもしれませんよ?地球の危機に関することですので」
「そうだよね、でも尚更やるしか無いよ。現状レイラさんに協力出来るのは僕らしかいない、そして僕らなら現状を打破できるかもしれない、それだけでも僕らが全力で取り組む理由には十分だよ」
「…分かりましたわ」
レイラも覚悟を決めるときが来た、自分達の本拠地であるここに招き入れ、目的や思いを話してくれたアレックスの誠意に答えなければならない。星守の交渉手順としては異例な方法だが、今の状況を考えレイラはこれが最善だと判断する。
「アレックスさん、貴方に賭けます。この星の未来の為にご協力をお願いいたします」
レイラは深々と頭を下げる、アレックスのやる大げさでわざとらしいお辞儀では無く、心からお願いをするときのものだ。
「えぇ…共に救いまししょう…」
アレックスは返すようにいつものお辞儀をする。この大げさでわざとらしいのがアレックスなのだ、今はその方がむしろ安心する。
「そういえばちゃんと自己紹介をしていませんでしたね。では改めて…私は星守という星間侵略行為からの防衛組織に所属する星間交流担当官、レイラと申します」
こうしてようやく地球との交渉にための一歩目を踏み出すことが出来た。
星の守り人 〜白銀の騎士の物語〜 祐弥 @uoushin
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