星の守り人 35話 議長との交渉
国際連絡機構、通称国連機。戦後の国家間の円滑のやり取りを目的に設立された組織で、現在は国際的な問題や議題に対応する場となっている。もしも地球が宇宙人に侵略されるとしたらそれは国際的な問題に当たるのだろうか。現議長であるジェームズ・ロアは、そんな難しい問題と相対する事となった、まさか自分の任期中に宇宙人が来るとは夢にも思うまい。
「本日はお時間を頂きありがとうございます」
ジェームズの前には長いオレンジ色の髪の若い女性が立っている。言われなければ宇宙人とはわからない、というか言われてもにわかには信じられない。
「うむ、話は一通り聞いている、手短に話そう、要求は何だ」
その女性の事は報告で知っていた、半年以上前から機構のコンピュータをハッキングしたり、不法侵入をして来た女だ。話す内容は妄想の様な話ばかりで誰も取り合っていなかったが、先日のロングアイランド基地襲撃を経て、それが事実であると判明した。だからこうして交渉の場を設けることにした。
「我々星守戦力の地球侵入許可及び我々に全ての法律を適用しない事、そして大規模な防衛部隊を組織するのにあたり必要な物資、資金の提供、防衛にあたり地球人の避難誘導等の全面協力になります」
「な!こちらに金や物を要求するというのか!」
「避難誘導は全てこちらでやれというのか!それにどれだけの人員と費用がかかると思っている!」
「法律を適用するなだと?無理に決まっているだろ!」
レイラが出した強気の要求に対し、ジェームズと共に同席している他の議員たちが口々に反対意見を述べる。
「静かに」
ジェームズの鶴の一声で場が静まり返る。
「レイラ、で良いな。その要求が通ると思っているのか?」
「今提示させていただいた条件が、最も地球側の被害を最小限に出来る方法です」
「なるほど、そちらとしてはそれが一番合理的というわけか…だが無理だ」
「なぜでしょう?」
「その要求内容は国連機の権限で可能な範囲を超えている、それだけ多くの協力を得るのには信用が足らん」
「先日の襲撃と我々がそれを撃墜したという事実では不足ですか?」
レイラとジェームズの一歩も引かない静かな戦いが繰り広げられる。ジェームズはカリスマと実力で議長の椅子に上り詰めた男、国連機にジェームズに噛み付くような者は居ない。故にこの戦いを他の議員は固唾をのんで見守る事しかできない。
「未確認機、君たちの言うコロナイザーの驚異性も君たちの戦闘能力の高さも理解しているよ。だがな、君たちに全てを預けられるほどの信頼が無い」
「と、言いますと?」
「コロナイザーとやらも君たちの仲間で、それから守るという名目でこの星の資源を奪うという大芝居をしている…という可能性だって十分に考えられる」
「なるほど、つまり我々に多くの物を託す。ということ自体が懸念事項ということですね?」
「あぁ、そうだ」
ここまでは予想通り、わざと高すぎる要求をふっかけ、反応も上々。このジェームズという男、曲者ではあるが話を取り合わない質ではない。これなら…
「では我々への信用についてですが、それは今日明日で得られるものでしょうか?」
「無理だろうな、これだけの大きな要求をするなら年単位の時間をかけてゆっくり行うものだ」
「それでは間に合いません。では信用を得ない状態で出来る事を行いたいと思います」
「うむ」
おそらくレイラが狙っているゴールと、ジェームズが許容できる要求の範囲はかなり近い。
「まず先程の要求、どれでしたら許可いただけますか?」
「まず地球への侵入、これは許可しよう。だが法に関しては別だ、状況が状況だけに今ある法は役に立たん、新たに作る必要があるだろうな」
「かしこまりました。それに関しては異論ありません」
まずは一番大事な地球への侵入の許可は得た、これで何も出来ないという事態は回避出来る。
「次に物資、金銭の提供だが、賛同を得られる国から個別にもらう分には構わんが、まぁ実質不可能と考えたほうが良い」
「なるほど…」
国連機として動いて提供する気は無いということだ、個別ならと言ってはいるが、物も金も有限、どの国も自分達だけが搾取される事を容認するはずが無い。
「最後に避難誘導等の協力についてだが、私達とて自国を守る戦力がある、当然守るためには避難誘導だってする。こちらはこちらの判断でやらせてもらう、だが情報が錯綜しては被害が広がる。対等な立場として情報のやり取りをするのは構わない、だが一方的な指示は受けん」
「わかりました、そちらもそれで構いません」
コロナイザー相手にこの星の自衛組織が機能するとは思えないが、全く協力しないわけではないなら妥協しよう。となると一番の問題は…
「ジェームズさん、あなたの回答は理解しました。そうなると我々が防衛部隊を組織する分には構わないが、それに対する援助は現状一切行わない、と言うことですね」
「…結果としてそうなるな」
「かしこまりました。そうしますと残念ながら防衛部隊の要請は出来ません。彼らもまた故郷があり、守りべき家族の為に戦っています。タダで戦うことなどできません」
「うむ…」
「いかがいたしますか?予想では昨日の攻撃機、あれより強い機体も含め、数千〜数万単位の軍勢で来る事が予想されますが…」
会議室がざわつく、たった2機でロングアイランド基地を破壊した機体が数万?それが本当だとしたらどうやったって地球に勝ち目は無い。
「議長、一応各国に交渉してみるのはいかがでしょうか?」
数万という数字にビビった議員がジェームズに意見を述べる。各国に交渉だと?そんな事とっくにやっている。ジェームズは何も確認せず頭ごなしに否定する愚か者では無い、この要求が来る事を予想しこの1週間の内に各国代表に確認を取っている。当然回答は「何で我が国が負担しなければならないのか!」である。
「確かに、その数が本当に来たら勝ち目など無いな」
「そうですね」
「だが国を動かすと言うことの難しさも理解してくれ」
「ですが、やらなければ滅びます」
「…」
このレイラという女性、侮っていた。最初の無理難題な要求からのここまでの誘導。ジェームズ個人としてはレイラの言っていることは真実だと思っている、星守に頼らなければ間違いなく地球は滅ぶ。だが援助が難しいことも事実、国連機そのものはお金も物資もそこまでは無い、もしやるなら加盟国を動かすのは必須、だがこの世界を動かすのには時間がかかる、例え星守の事を信用させたとしても何ヵ月、下手すれば数年はかかってしまう。
だがそれで間に合わない。だから、ジェームズはこう言うしかない。
「他に案があるのだろう?」
「…えぇ」
こちらの逃げ道をすべて塞ぐようなやり口、だがそうしたところで要求を飲めないのはレイラも分かっているはず、ならば目的は1つ。次に言う代替案を確実に通すためだ。相手が最大限譲歩したのにそれすら飲まない、なんてことは出来ない。
(ま、作戦どおりですわね)
ジェームズから代替案を要求した事で、ほぼほぼ断れない状況が完成した。
「一番の問題は我々の人員をこちらに送れないという事です。ならば送らずに解決しましょう」
「一体どうやって?」
「ジェームズさん、言いましたよね?自国を守る戦力はあると、そちらを強化しましょう」
「強化…?」
「我々の武器、ロングアイランド基地で戦ったロボット、正確にはパワードスーツですね。それをお貸しいたします」
「なんと…!」
思いもよらない提案だった。地球では当たり前の考え、自分達が最強の武器を持っていたら情報流出も防ぐし、他国にあげるなんてありえない。だが星守にとってはその星を救うことが何より大事、武器を貸すくらいどうでもいい。
「それは…ありがたいが、私達地球人でも扱える物なのか?」
「あら、ハリーさんから報告を受けていないのですか?ロングアイランド基地を救った白き英雄…あれは地球人ですわよ?」
再び会議室がざわめく、同席していたハリーがやっちまった!という顔で俯いている。報告し忘れかよ。
「ならば扱えないことは無いな、だが手配しても1年ほどかかると報告があったが、それからで間に合うのか?」
「ご心配無く、こんな事もあろうかと既に手配済みです。丁度今月中には到着するかと思いますわ」
この最悪なケースを地球に来てすぐ予見していたレイラは、1年前に既にアームズを手配していたのだ。星守にとって最も貴重なのは人材、アームズだけを動かすならレイラの権限である程度融通が利く。
なるほど…今日の交渉の場は最初からこのゴールに向けて誘導されていたわけか。私の許容できる範囲で、最大限の要求を通す。完敗だ…
こうしてレイラと国連機との交渉が終了、地球における対コロナイザー防衛部隊の設立が決まった。
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