星の守り人 26話 シミュレーター
「シミュレーター?」
聞いたことのない新たなアイテムが登場、折原の疑問に答えるため3人はキャリアーにある部屋に移動する。今まで行ったことのあるデッキ、居住スペース、格納庫とは別の部屋、広さとしては一番狭い。
「これは…アームズ?」
小さな部屋の中心には壁から生えた無数のケーブルやアームに繋がれたアームズ、のようなものが鎮座していた。同じパワードスーツの様な見た目だがデザインがやけにシンプル、色も真っ白で武装やスラスターも見当たらない、装着したところで歩くことくらいしか出来なさそうだ。
「これがシミュレーターだよ!これに乗ってアームズでの戦闘を疑似体験出来るってわけさ」
「なるほど…」
つまり科学館とかでヘリの操縦が体験出来たりするあれか。
「試しに使ってみるかい?」
オルカの提案で試乗してみることに、装着方法はアームズと特に変わらないらしい。装着するとヘッドアップディスプレイが起動し、リオから通信が入る。
「_ケント、聞こえる?_」
「はい、問題ありません」
「_オーケー、今ケントのアームズのデータをインストールするね_」
ヘッドアップディスプレイ上に情報が表示されていく
機体型式:BS-65
武装:コモンシューター
折原がいつも使用しているアームズの構成だ。ヘッドアップディスプレイに映る自分の手足を確認すると、そこには先ほどのシンプルで真っ白な機体ではなく、青いラインが入った美しい機体、そして右手にはライフルが握られていた。
「すごい、ちゃんといつもの装備になってます!」
「_へっへー、凄いでしょ?でもまだまだこれからだよ!シミュレーション起動!_」
リオの合図とともに景色が小さな部屋から青い世界へと切り変わる。空、海、間違いなくそこは地球の海の上だ、作られた映像とは思えないほど精巧な作り、本当に地球にいるみたい…そして。
「コロナイザー…」
一面に広がる海原にポツンと黒い物体が浮いている、コロナイザーの偵察機だ。状況から察するに、先日の地球での戦闘を再現したものだろう。
「_試しに適当に動いてみてー_」
「了解です」
その後、しばらくシミュレーターの動きを試してみる。操作方法に違和感はない、コロナイザーの動きも本物と遜色ない、実際に追尾、撃墜までやってみたが先日の戦闘と同じ感覚で出来ている。何より驚いたのが、加速、旋回時のGまで再現されているという事だ、理屈や仕組みは全く分からないが。
「_はい、そこまでー!_」
リオの強制終了がかかる。ヘッドアップディスプレイの映像が消え、シミュレーターが開き折原が排出される。
「今日は実戦もあったしここまで!今日は休んで!」
「すいみません、つい夢中になってしまって…」
「焦る気持ちも分かるけどねっ、休むことも大事だよー」
そういえば小一時間前までコロナイザーと戦闘してたんだったな、思い出すと同時にドッと疲れが押し寄せる。流石に今日は休もう、そう考えつつ今さっきシミュレーターを使いながら疑問に思ったことを聞いてみることにした。
「一つ聞いても良いですか?どうして最初からこのシミュレーターを使って訓練しなかったんですか?」
これだけ本物そっくりに再現が出来ているのなら、最初からこれを使って訓練すればいい。そうすれば実戦経験不足も簡単に補えたはずだ。
「うーん、僕はそれでもいいって思ったんだけどねぇー」
「俺が反対したんだ」
「オルカさんが?」
「確かにシミュレーターは本物とほぼ同じ体験が出来るから問題無いのだがな」
「じゃあどうしてですか?」
「それでもやはりシミュレーター、現実ではないのだよ。死ぬことは絶対無いし、負けてもやり直せてしまう。そんな環境で訓練していると、いざ実戦になった時どうしても心が竦む、簡単に言うと本番に弱くなってしまうんだ」
「なるほど…」
確かにさっき使っていて、どんなに本物っぽくても心のどこかでこれは本物じゃないという感覚はあった気がする。オルカさんは自分が経験を積んで実践の感覚を掴むまで使わない気でいたのだろう。
「とはいえ今の現状では他に戦闘の経験を積む方法も無いからな、明日からはこのシミュレーターを中心に訓練させてもらうよ」
「はい!よろしくお願いします」
それからは、シミュレーターによる様々な状況、敵を想定した仮想での実践訓練と、時々本物のアームズを使用したオルカとの模擬戦を繰り返しながら、本格的な戦い方の訓練が始まった。
そして3か月が経ち…折原は大学2年になった。春休みはほとんど訓練に費やしていたため、高校時代に比べて長くなった筈の春休みがやけに短く感じた。
「おっす折原!久しぶり!」
「久しぶり、って3日前も会っただろ」
1か月半ぶりの大学で山内と小ボケを交わす。本当は春休みも全て訓練に費やしたかったのだが、オルカからで3日に一回は休みの日を設けることを提案され、その日は家族や友達と地球人らしく過ごすことに。なので山内とも割と会っていたのだ。
「にしてももう1年たったのかぁ…早いな、何もしてねえよ」
「そうだな」
「今年こそは充実させる、彼女が欲しい!」
「そうだな」
「バイトもして、旅行とか?」
「そうだな」
「……話聞いてる?」
「そうだな」
「…飯奢って?」
「それは無理」
「この野郎…」
軽快なテンポでいつものやり取りを交わす。何気ない会話が心地良い、訓練ばかりでどんなに忙しくなっても変わらず接してくれている山内に心の中で感謝しつつ、校舎へと入っていく。
平和そのものの日常を過ごす。今まさに黒い流星が2つ地球に向かっているということを知らずに…
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