星の守り人 4話 レイラ

 

 星守ー


 『この地球の長い歴史の中で宇宙に関する研究は数多く行われてきた。数え切れないほどの星を発見し、生命の起源に関する研究も進んでいた。

 だけど何十何百年に渡る研究の中でも、知的生命体が存在する星を見つけるには至らなかった。

 いつからか宇宙人がいること自体が妄言となり、空想話となり、興味を持つ人は居てもそれを信じる人は「変人」として扱われるようになってしまっていた…』


 そして2013年9月ー

 ついに地球人は宇宙人と遭遇する、そして真実を知った。

 宇宙には数多の知的生命体が存在する星があり、それぞれ独自の文明や技術を持ち繁栄していると言う事を、そして地球上でもあるように、土地や資源を巡る戦争が星と星の間で行われているという事を…


 折原は地球で誰も知らない、正確に言えば誰も信じていない宇宙の真実を知った。

 どんな天才学者でも、どんなに優れた研究機関でも見つけることができなかった、本物の宇宙人の存在。

 しかし折原はこの世紀の大発見を素直に喜ぶことが出来なかった…


 その宇宙人に地球が侵略されようとしている


 直観で分かる、地球は勝てない。たった一度、たった一機にしか遭遇していないが、あのロボット見ただけで分かる。

 地球の技術力では遠く及ばない、勝つためには、地球が生き残るためにはもっと強い力が必要だ、今目の前にいるこの人達、星守の力が…


「でも!…そんな悠長な事言ってる場合じゃないんじゃないですか!?」


 地球と星守との契約、地球上で戦闘をすることの許可や防衛に対する段取りが決まらないと動き出せないという事は、理屈としては理解できる。

 それは地球の社会でも同じ、契約が結ばれない限り始まらない、契約もしていないアパートに「とりあえず住まわせて!」なんて言っても警察を呼ばれるのがオチだ。


 それは分かっている…わかっているけど…!


「オルカさん達から見ても地球が勝てる可能性は無いんですよね!?だったら…!」

「ケント君!落ち着いてくれ…何もこのまま諦めて帰ると言っている訳ではない!今、直接交渉をする為に俺達の仲間が地上に降りているところだ」

「交渉…?結果は?上手く行っているんですか!?」

「まだ報告待ちだ……今は待つしかない」


 折原はただただ不安だった。地球の住民が宇宙からの驚異を信じるとは思えない、ましてや防衛のために協力したり報酬を約束するのかどうか…


 *


「お嬢さん…俺達は妄想話に付き合っているほど暇じゃないんだよ…とりあえず身分証明書は?」

「だからですね?私は遠い星から来ている者で、この星の住民では無いんですよ!」


 女性の声が響く。女性にしては背が高く、シルバーの目と綺麗に手入れされた腰上まである髪、人間の髪の毛としては有り得ない鮮やかなオレンジ色をしている、きっと地球上の誰に聞いても「染めてるんでしょ?」と言われそうだが、これは彼女の地毛である。


 星守所属、星間交流担当官 レイラ


 それが彼女の肩書と名前である。防衛任務における初期段階、防衛対象の星との交渉、防衛体制の整備から防衛中の星と星守間の仲介が主な仕事だ。しかしレイラの仕事は序盤から躓いていた。


(この星の方々、全然信じてくださらないんですけど!?)


「はいはい、それじゃあ宇宙人のお嬢さん、君の星で身分を証明する物を見せてくれないか?体にチップでも埋め込んでいるなんて言わないでくれよ?我々は読み取る機械を持っていないからね」

「私共は体内への埋込みは禁止しております。ではなくて!IDは私の端末の中に入っておりますが、無闇に私共の技術で造られたものをお見せするわけには行かないのです!とにかくこの星の権限者、国際連絡機構の方とお話をさせてください!」


 国際連絡機構。通称「国連機」、元々は第二次世界大戦後の混乱した世界情勢の中、遺恨や経済的な理由などから国家間の情報が遮断されることで発生する情報不足、それによる世界の混乱や余計な諍いを防ぐために設立された国家間の連絡を担う機構。

 現在は国単位では解決できない世界的な問題に対して、各国から代表の連絡員を選出し対応を行う場となっている。

 地球にはまだ自分の星を守る為の防衛組織は存在しない、もちろん宇宙からの訪問者に対応する機関も無い、そんな中レイラは交渉相手として最も適切だと判断したのが国際連絡機構だった。

 レイラは今、アメリカ合衆国のニューヨークにある国連機本部内……ではなくニューヨーク市警の警察署の一室にいた。


「はぁ…お嬢さん、俺が優しい内に身分証の提示と、どうやってあんな所にいたのか教えてもらえないかな?」

「ですから…!今はお見せすることも教える事も出来ないのです!国際連絡機構の方には数ヶ月前からメッセージを送らさせていただいていますので!星守と言っていただければ分かるはずです!」

「いい加減にしろ!あんたがやった事は不法侵入だぞ!なのに侵入に使った道具も、身分証も、何一つ持っていないじゃないか!一体どうやって侵入したんだ!」


 レイラは大きなミスを犯した。地球側が一切の交渉に応じなかったため直接交渉のために地上に降りたのだが、本当に「直接」国連機に来てしまったのだ。

 星守の技術力であれば、地球のありとあらゆる監視に一切気づかれることは無く侵入ができる。

 レイラ達が扱う装備、輸送機は全てステルス機能を備えており、目に見えないようにするのは当然、レーダー、金属探知機など地球上のあらゆる技術を用いても認識する事が出来ないようにできる。

 それ故、地球の住人からしたら国連機本部内に突如レイラが現れたように見えてしまった。当然即逮捕されたレイラは、今こうして警察署で取り調べを受けている。


(オルカ…リオ…これはまずいかもしれません……)

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