星の守り人 32話 覚醒 1

 アメリカ、ロングアイランド基地。ニューヨークの近くに位置する半島に作られたアメリカ空軍の基地にしてアメリカ東部沿岸防衛の要。その力を失い焼け野原になってしまったその場所では今、黒い侵略者と白い守護者の戦いが繰り広げられていた。


「よし、いくぞサテラ」

「[ご命令を]」

「まずは行動パターンを収集する、制御は全て俺に回せ」

「[了解しました]」


 メインスラスターの出力を上げ、コロナイザーに向かい突撃、2機のコロナイザーからレーザーが放たれる。今までの攻撃から、おそらくこの攻撃機のレーザーは2門、連射性能はそこそこだが、攻撃範囲は広くない。折原はレーザーを反射で避けながらコロナイザーに近づく、接近されたコロナイザーは左右二手に別れて距離を取る、瞬時に判断し右側のコロナイザーに狙いを定め追いかける。


「コモンシューターの出力50%にカット、現状での連射速度は?」

「[1秒です]」


 エネルギー弾の出力を調整し1秒に1回のペースで射撃出来る状態にしコロナイザーを追いかける。


(こっちが攻撃している時は距離をとってくる、これは偵察機と変わらないな)


 偵察機が折原達と戦った時の情報を共有しているようだ、絶対に必中距離に入らないよう距離を詰め攻撃を仕掛けると全力で回避しようとしてくる。


(…これだけ片方ばかり追い回してれば当然来るよな)


 折原はレーダーで後方から援護のためにもう1機のコロナイザーが迫ってきているのを確認、牽制のために後方に向かって数発射撃する。その隙に前方のコロナイザーが距離を取るために縦方向に急旋回し折原を振りきろうとするが、折原もすかさずメインスラスターの出力を僅かに落とし、小型スラスターで向きを変えるとメインスラスターで再加速、コロナイザーに合わせるように急旋回して猛追する。


(この程度の速度、問題ない)


 地球上での追いかけっこは宇宙ほど速度が出ず、細かく旋回を繰り返すときはせいぜい時速数百km程度、それでも十分速いが宇宙での戦闘に比べれば全然遅い。さらに折原は数ヶ月の訓練で身体もかなり鍛えられ耐G能力も上がっているので以前よりも速い速度での旋回が可能になっている。


(あとは…)


 折原は1度射撃の手を止め、メインスラスターの出力を更に上げて前方のコロナイザーとの距離を詰める。


「敵の攻撃の威力が知りたい、一発受けるぞ。エネルギーシールド準備」

「[了解しました]」


 アームズの防御面は基本、その強固な装甲で受け切るというスタンスだが、それを上回る攻撃に備えてエネルギー式のシールドを搭載している。これは常時展開するタイプではなく、攻撃に合わせて数秒だけ展開して攻撃を防ぐというもので、出し続けられない代わりに防御力はかなり高い、今回は敵の攻撃の威力が未知数なので念の為準備する。


(こいつは攻撃の挙動がわかりやすくて助かるな)


 この攻撃機のコロナイザーは前方にしか砲塔が無いようなので攻撃時は必ず正面を向く、なので前方を逃げているコロナイザーは攻撃時に向きを反転させる、それだけ大きな動きをしてくれれば十分反応は間に合う。


(自分が追いかけられる想定をしていない作りだな、あくまで自分は侵略する側ってことか…)


 コロナイザーを上回る加速力で追いかけ、攻撃せざるを得ない状況を作り出す。誘導されてることに気付きもせずコロナイザーがこちらを振り向きレーザーを放つ。


「シールド展開」


 アームズの正面に半球状の青い膜が現れ、レーザーを受け止める。ダメージは防げたが、衝撃により少し失速する。


(流石に攻撃を受けながら更に距離を詰めるのは無理か)


 折原が失速している間に、姿勢を戻しコロナイザーが逃げる。そして後ろから追いついてきたもう1機のコロナイザーがレーザーを放つ。これ以上の失速はまずいので、アームズを捻らせながら避ける。


「今の威力、シールド無しで受けきれるか?」

「[測定完了。装甲にダメージを与えることはありません。ですが着弾時の衝撃による搭乗者へのダメージに注意してください]」


 ヘッドアップディスプレイ上に測定結果が表示される。アームズ単体では何発食らっても問題ないが、殺しきれない着弾時の衝撃による折原の肉体へのダメージを考慮すると、1発程度なら問題ないが、半発も喰らい続ければ折原も無事では済まない。


「OK、追尾プログラムを修正。敵1機のみを想定して作成、後方からの援護射撃は避けずに受けるぞ」

「[了解しました。追尾プログラム修正…70%完了しています]」


 攻撃を受けきれるなら全て避けるのは時間の無駄、後方からの援護してくる敵の攻撃を無視してしまえば良い。とはいえ何発もは受けきれない、今も後ろからレーザーが乱射されてくるので、小型スラスターによる姿勢制御を巧みに使い、正確に避けていく。


(回避に集中すると前方のコロナイザーに離される…なら…)


 少し右に進路を取り後ろのコロナイザーの射線から外れる、その瞬間一気にメインスラスターの出力を落とし、同時に小型スラスターを前に噴射、急速に減速した折原を後ろのコロナイザーが追い抜く形で前後が入れ替わる、追い抜かれる瞬間に再度メインスラスターの出力を上げ再加速する。


(今ので落とせればよかったんだが…)


 一応すれ違いざまに一撃入れようとしていたが、やはり反応速度は人工知能で制御しているコロナイザーの方が上、追い抜く際必中距離に入らないよう、折原とは逆の左側に位置をずらし距離を取られた。それでもこちらが後ろを取っていることには変わりない、今は遥か前方に1機、300m先にもう1機のコロナイザー、その後ろを折原が追いかけている状態となっている。


「[85%作成完了]」


 後ろを気にすることがなくなったので、エネルギー弾を放ちながら一気に加速して近づいていく、200mくらいまで近づいたタイミングでレーザーで応戦してきたが、振り向くという大きすぎるアクションを折原が見逃すはずもなく、ほぼ減速することもなく正確に射線から外れてしまうのでより距離を縮める結果にしかならない。


「[95%作成完了]」


 あと少しで100mといったところまで近づいたところで、いつの間にか先頭を飛んでいたはずのコロナイザーが折原の背後を取りレーザーを放つ、咄嗟に大きく避けてしまったことでまた距離がひらく。しかし…


「[100%…追尾プログラム作成完了です]」


 勝利への扉の鍵が完成した。


(前に1機、後ろに1機。理想通りの配置だ)


「追尾プログラム、実行!」


 最大出力でメインスラスターを噴射、驚異的な加速でコロナイザーを追う、一気に距離が詰まったコロナイザーが右に左に旋回して振りきろうとするが、旋回行動に移ろうとした瞬間、アームズから放たれるエネルギー弾に行く手を阻まれる。前のコロナイザー助けるために後ろのコロナイザーがレーザーで援護しようとするが、散々見させられた射撃の兆候を正確にキャッチし、小型スラスターの0.1秒にも満たない僅かな噴射で避ける。減速を最小限に抑え、どんどん前との距離を縮めていく。


「[距離25m、必中距離に入りました]」

「了解」


 とどめを刺せる距離に近づいた、しかし後ろのコロナイザーもかなり距離を詰めてきている、レーザーを避けるか防ぐかすれば減速して簡単に必中距離から外れてしまう。だがこの事は最初から予想していた、コロナイザーの性能を考えれば必ず必中距離に追い詰めるよりも早く後ろのコロナイザーが追いついてくる。

 攻撃をすればこちらが避けるか防ぐ、至極当然の反応を前提に後ろのコロナイザーが折原目掛けてレーザーを放つ。だが折原は動かない、真っ直ぐ前のコロナイザーに照準を合わせ、そのままレーザーを背に受けると共にエネルギー弾を放つ。コモンシューターから放たれた青い球状の光が、避ける暇も与えず真っ直ぐコロナイザーのスラスター部分に直撃、金属を振動破砕する際に鳴る特有の高音が響き渡り、光を失ったコロナイザーはそのまま海へと落下する。


(あと1機…)


 残りの1機との決着は一瞬でついた、先程と同様に背後を取り撃墜。2機がかりで勝てないのだ、1機で勝てるわけがない。


「リオさん、撃墜完了です」


 いつの間にかロングアイランド基地から遠く離れた海の上に来ていたようだ、今地球の軍隊と接触するのは得策ではないし、折原はそのままリオ達が待つ宇宙へと帰還した。

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