星の守り人

祐弥

星の守り人 1話 始まり

 オルカは一人、宇宙にいた。


 無音の世界。音の無い宇宙で聞こえるのはシステムの音声と自分の呼吸の音、そして唯一の話し相手であるリオからの通信だけ。


「_オルカ、こっちは今のところ反応なし…ってもぉ!たった2人でこんな大きな星、監視しきれないよ!_」

「_愚痴を言うな、俺たち2人しかいないんだ_」


 オルカとリオは自分たちの任務である監視を続ける。自分たちの生まれた星とは遠く離れた、地球と呼ばれているこの星を…


 *


 ーーーーーーーー。


 午後の授業、眠気と戦う時間が始まる。

 ここは都内のとある大学、特に目的もなく受かるところを受けて入学して約半年、折原健人おりはらけんとはもうすぐ19才を迎えようとしていた。


「はぁ……勉強したくない…やりたいことが見つからない…キラキラなキャンパスライフ送りたい……」


 高校時代の無計画な自分を呪うように折原がぼやく…


「俺達に輝かしいキャンパスライフは送れねぇよ!キラキラしてるあいつらは人種が違う!」

「それな…」

「諦めて勉強頑張ろう!」

「…おう」

「オタ活も頑張ろう!」

「……おう」

「俺に飯奢ろう!!」

「それは無理」


 友達の山内と自虐混じりの不毛な会話をしていると、教室のドアが開き斉藤先生が入ってきた。それまで騒がしかったクラスが静かになり、皆急いで席につく。

 魔王。それが斉藤先生につけられたあだ名、いつもはニコニコしているが、一度怒ると手が付けられないほどにキレる。言い訳も説得も通じない、それはもう理不尽なほどにキレる。


「あれ?……折原、課題やった?」

「……やってない」

「俺も…終わったな…日本ごと滅ぼされるな…」


 いや、斉藤先生の課題忘れへの怒りはそんなものでは無い


 この星は終わりだ



 授業終了後ーー

 なんとか生き残ることができたぜ、せっかく拾った命、折原は自由を謳歌することにした。


「今日は海にしよう」


 方角だけ決め、自転車でひたすら走り、気になった所に寄る。最近のマイブームだ。

 入学祝いで買ってもらったロードバイクに乗り海を目指して走り出す。今の時間は15時、日が暮れるまでにたどり着けるだろうか?まぁいい、明日は学校も休みだし行けるところまで行ってやる。


 川沿いを風を切りながら颯爽と駆け抜ける。といってもまともに運動をしてこなかったミーハーライダー折原の速度はそこまで速くない。



「うー、さすがに夜は冷えるな…まだ9月だから油断してた」


 寒させいか海には人がいない。結局日暮れを過ぎてしまった、暗い。特に観光地でもない海岸なので海岸沿いの道路灯以外の明かりは無く、真っ暗な海の水平線の向こう側に星明かりが見えるだけ。

 愛車を道路脇に止め、海岸へと降りていく。


「まるで宇宙だな…」


 真っ暗な海と空にちらほら輝く星を見ながらつぶやく。宇宙に行ったことは無いけど、きっとこんな感じなんだろうとか考える。いや、宇宙は無音の世界だから波の音は聞こえないか。


「あの星のどれかに宇宙人とかいるのかな?」


 誰もが一度は思うであろう疑問を口に出す。時々宇宙人の話題がネットニュースになることはあるけど、結局どれもオカルトの域を出ず、未だに発見には至っていない。

 そんな事を考えながら水平線の向こう側を眺めていると、一際明るい星を見つけた。青白く、妙に目を引く星。


「さっきまであんな星あったっけ?」


 その疑問はすぐに解決した。星だと思っていたものがこちらに向かってきているのだ。


 …何だアレ?


 青白い光を発しながら海面を高速で飛ぶ謎の物体は、真っ直ぐ折原を目指して飛んでいる。

 飛行機?だとしたらもっと上空を飛ぶはず。船?にしては速すぎる。折原は自分の知識を総動員してその光の正体を考える。

 しかしその疑問の答えを出すよりも早く、"ソレ"は目の前に現れた。


 ロボット。目に前にある"ソレ"に対して折原の知識で唯一の該当する表現。

 真っ黒で足の無い鳥のような形、鳥にしては大きく、胴体だけで人間の大人くらいの大きさがあり、羽はあるが羽ばたくことは無く、その場で音も無く浮いていた。


「なんだよこれ……」


 不気味なほど静かに浮いているロボットのようなものに圧倒されていると、あることに気づいた、先程まで星だと思っていた青白い光がいつの間にか消えていた。暗い海岸に真っ黒のロボットが不気味に佇んでいる。


「写真…あ、スマホ…自転車のポーチの中だ」


 変なものを見つけたらとりあえず写真を撮る、現代の若者の性である。折原はスマホを取りにいこうと自転車の方に振り返った。その瞬間…


 ーバシュッ!


 背後から急に音がして驚いて音の方を見ると、ロボットの胴体が開いて中からアームの様な物が数本飛び出していた。

 折原は状況が理解できないままその数本のアームに捕まってしまい、そのままロボットの胴体の中に引きずり込まれる。


「うわ!何だよこれ!…捕まっ…誰かぁ!」


 助けを呼ぶ声が誰もいない海岸に響き渡る。必死にアームを振払おうとするが、全力の抵抗も虚しく、ロボットの胴体の中に閉じ込められてしまった。


(何だよこれ!)


 次に折原を襲ったのはとてつもない加速感、閉じ込められているので外の様子はわからないが、ものすごい速さで上昇、空に向かって飛んでいるようだ。

 怖い、なぜ閉じ込められた?一体何が起きている?


「出せ!出してくれ!」


 パニックになりロボットの胴体を内側から叩く、ひたすら叩く、しかしビクリともしない。一体どこへ向かっているのだろうか?

 先程から方向を変えずに上空に向かって飛んでいる、ただひたすら上、曲がる気配もない、このままずっと飛んでいったら宇宙にでも行ってしまいそうな勢いだ。


 宇宙…?


(宇宙人が作ったロボットだとでも言うってのか!?)


 捕らわれる前に見たロボットの姿、現実のものとは思えない不気味さが漂っていたし、音もなく飛んで浮いていた。あんなに高速で、しかも無人で飛ぶロボットが今の技術で作れるとは思えない、非現実的だが、それが今一番納得できる。

 となるとこの後のことも嫌な予想ばかりできる。宇宙人に攫われた地球人がまともな目に会わないことは世界共通だろう。


 ー怖い


「誰か助けて…」


 折原はただ助けが来ることを祈る事しかできなかった…

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