病弱聖女は部屋を与えられる

「聖女の魔法で動けるようにしているのか?」

「はい、魔力量は変わっても身体能力は変わってませんので魔法依存で動いてます」


 魔力量と聖女の魔法以外に特に違いは感じない

 焼けるような痛みを感じた目は時間経った今でも異常も何も無い

 聖女の魔法無しでは余り動けない

 今もずっと継続して掛けている


 ……まだ魔力に余裕がある


「ただ魔法があれば支障無く動けます。これなら戦場にも出られます!」


 戦場で兵士の支援をするのは聖女の役目

 それがようやく出来る


「それは助かるが様子を見ながらだな。病は治っていない、流石に無理はさせられん」

「そうですか……」


 王様の言う通り、確かに基本外に出てない私が戦場に出ても役に立つどころか迷惑を掛けてしまう可能性がある


 ……王様の言う通りだ。先に確実に役に立てると証明しないと


 王様はコホンと咳払いを1回する


「しかし、治療はして貰うつもりだ。魔力も増えているようだからな」

「はい、是非任せてください!」


 魔力量が増えた事で魔法を使っている今の状況でも連続でも数回は治療が出来る


 ……役に立てる


 今までとは違うしっかりと役に立てる

 葉水を飲んで会話しながら待っていると外の静寂を破る轟音が聞こえる

 音に驚いた大量の鳥が逃げるように飛び立つ

 私と王様はその轟音にビクッと身を震わせ咄嗟に窓を見る


「な、なんだ!?」

「凄い音」


 椅子から立ち上がり窓側に近寄る

 煙が上がっている

 かなり遠い

 方角からして私の家がある所、場所も近い

 いや状況を考えたら多分家


「あちらにはティロス家があるが……」

「はい、距離も遠いので恐らく家かと……」

「何をしたんだレオは……」

「……あれは大騒ぎになりません?」

「なるな」


 ティロス家は今代の聖女を抱える家、その家でこんな騒動が起きれば一大事

 何も知らない兵士達もすぐに向かうだろう

 レオナルドさんが何をしたか分からないけど穏便には事は進まなかったようだ


 ……この爆発はレオナルドさんかそれとも家族が証拠隠滅に……いや家には多くの宝石や価値のある宝がある、彼らにそんな覚悟は無い筈


 ティロス家は古くから貴族として多くの財を手に入れてきた

 その家の中には多くの宝や宝石がある

 そう考えたら家族がやったとは考えづらい


「元より穏便に行く気は無かったのだろうがやり過ぎだ」

「ま、まだレオナルドさんとは限りませんから」


 この轟音がまだレオナルドさんのせいとは限らない、敵が魔法を使った可能性はまだある


「そもそもレオナルドさんはこんな轟音を鳴らすような魔法では無かったはずですし」

「……そうだな」


 レオナルドさんの魔法を見た事がある

 少なくとも広範囲攻撃などの魔法では無かった

 聖女の魔法で強化された分、破壊力が限界超えたと言う可能性は否めないけど


「レオの奴、手こずっているようだな」

「そうなんですか?」

「あぁ、あいつは乱暴に素早く解決する」

「そうなんですね。……あっ、今更ですが真夜中に失礼しました」

「それは気にしなくていい。緊急事態だからな。聖女の事は最優先でもある」


 魔物と戦う際、高い治癒魔法を持ち対魔物に強い効果を持つ魔法を操れる聖女は重要

 最も私は治療しか出来なかったが

 突然、窓側から大きな音がする

 下からだ、その音は近付いてくる


 ……壁を叩いてる音?


 壁を叩いているような蹴っているようなそんな音が近付いてくる

 音の正体を見に行こうと椅子から立ち上がる


「窓は危ないぞ」

「え?」


 ガタッと窓枠から大きな音がする

 窓を見ると手が窓枠を掴んでいる、それを見てビクッと身を震わせる


 ……ひっ! 手、何!?


 手しか見えない、間違いなく人だ

 窓から侵入しようとしているのか

 王様の方を見ると王様は何故かため息をついている

 何か知っているのだろうか

 素早く窓から何かが入ってくる


「レオ、アナスタシアが怖がっている」

「うん? あぁ済まない。いつもの癖でな」


 入ってきたのはレオナルドさんだった

 いつもと言っているのでこれはいつもやっているようだ

 窓は入口でも出口でも無いはずなのだけど

 王の部屋はそう簡単に窓から入れる仕組みにはなっていない、暗殺される恐れがあるから

 やってる事が常識外過ぎる


「後ちゃんと居ない事を確認しろ」

「今回は確認したぞ。少し時間がかかった」


 レオナルドさんは私の隣の椅子に座る


「それで何か見つけたか?」

「いや、見つからなかった。だがアナスタシアが居ない事をちょっと問い詰めたら直ぐにボロを出した」


 多分ちょっとでは無い


「あの騒動は?」

「長男が私に攻撃を仕掛けてきたから全力で振るっただけだ」


 長男は騎士、レオナルドさんに歯向かうのは無謀だと分かっていた筈

 分かっていて罪を重ねるとは


「全力で……」

「何を?」

「剣をだそれ以外に何がある」


 普通は剣を振るっただけであれ程の轟音は鳴らない

 レオナルドさんは普通では無い


「聖女の魔法で力が上がっていたからな加減が出来なかった」

「兵士が駆け付けただろ」

「騎士団長権限で黙らせた。この為の権力だ」

「その為に渡したつもりは無いんだがな。まぁ良い。ボロというのは?」

「ティロス家、ヒナを除く全員が関わっていた。その為捕縛した」

「……全員ですか」


 家族が関わっていたとは予想していた

 ただまさかヒナ以外全員とは思っていなかった

 嫌われているのは知っていたが殺しにくる程とは

 ショックは大きい


 ……実行は使用人かな。切り捨てるつもりで居たなら


 実行役を使用人にしておけば多少何があっても使用人が犯人だと言って切り捨てればいい

 私でも直ぐに思いつく考えだけどそのくらいはするだろう


「確認した限り間違いない」

「お、おいレオ」

「アナスタシアは強い」

「……実行役は使用人ですか?」

「あぁ、お前に食事を用意する奴が睡眠薬を、寝た後は男の使用人が運び協力者の兵士2人が運んだそうだ。纏めて捕縛した」

「兵士の協力者ですか。兵士の格好をしていただけでは無いんですね」


 使用人が兵士の格好をしていたではなく兵士が協力していた

 馬車を動かすなら城門を通る

 確かに兵士の協力者が居ないと難しい

 よく良く考えれば兵士の協力者が必要


「あぁ、そのバカ共は後程私の手で裁く。逃しはしない」

「兵士がか、ふざけているな」

「あぁ、ふざけている」


 見るからに怒りの表情と分かる表情を王様はしている

 空気がピリピリしている

 聖女の恩恵を一番受けているのは兵士や騎士と言った戦う者達


「兵士の協力者は2人か?」

「いや、その時門番をやっていた奴も関係しているだろう。そうでなければ例え兵士でも怪しければ城門を通れない」

「そうか、レオ一度聖女について全員に確認するか」

「そうだな、認識を改めて貰わないとならない」

「アナスタシア、今日からは城に住むといい。レオが破壊した上あそこは信用出来ない」

「え? いや、それは……」


 城に住むというのは私如きには勿体ない提案だと思うのとメイド達に悪口を言われているのを思い出す

 何があるか分からない恐怖もある


「城に出入りする騎士も信用に足らん」

「城に出入り出来るのは第1騎士団と騎士団長くらいだが」

「私の部下は信用出来るが騎士団長は信用に足らん」


 私と会った時の2人の反応を見ているからだろうか


「ふむ、であれば先代が使っていた部屋はどうだ? そこならば騎士団長も近寄らない上使用人も信頼出来る者しか近くを通れない」


 暗殺のリスクを考えて王の部屋の付近は信用されている人物くらいしか行けない

 先代の王様が使っていた部屋は近くにある


「確かにあそこなら」


 王様が信頼している相手なら大丈夫だと思う、それにここまで考えてくれているのだからこれ以上断るのは悪い

 断っても行く場所が無いので困らせるだけ


「分かりました」

「私も近くの部屋に居るから何かあればすぐ駆けつけられる」

「もし使用人が不敬な行動を取ったら俺に言うと良い。直ぐに人を変える」

「あ、はい分かりました」

「今日は解散だ、案内しよう」

「そうだな。仕事に戻るとしよう」

「時間を取らせてしまい申し訳……」


 頭を下げて謝罪しようとするが言葉を遮られる


「謝るな。お前は何も悪くない。寧ろ正しい行動をした。行くぞ」


 王の部屋を出て隣の部屋に行く

 ここが先代の王様が使っていた部屋、今では豪華な装飾が残されて綺麗にされている

 誰も使っていない


「凄い」

「先代とはいえ王の部屋だからな。私は隣の部屋に居る何かあれば直ぐに呼べ」

「わかりました」


 レオナルドさんは私の頭にポンと軽く手を置く


「ちゃんと休めよ」


 そう言い残して部屋を出る

 今日はかなり疲れた、私はベットに突っ伏す

 いつも使っているベットと違い広く気持ちの良いベットで直ぐに眠りにつく

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