病弱聖女は護衛騎士と合流する

「剣となりて……」


 詠唱を続けるが途中で分かる

 これは魔法が間に合わないと


 ……こんなところで


 聖女の役目を果たして死ぬ訳でも病で死ぬ訳でもない

 こんなただの不幸な事故で死ぬ

 それは嫌だ

 私の勝手な行動が招いた事、だけどそれでもこのままだと何も残せない


「吹き荒れろ! 風蹄ふうてい


 後ろから声がした、その瞬間風が岩に突っ込んでいく

 岩に当たった風は岩を削り抉って貫き砕く

 砕かれた岩は周囲に散っていく

 そのお陰で潰されずに済んだ


 ……風、魔法? 凄い威力


 並の攻撃魔法では無い、厚みもある大きな岩を貫いたのだ

 この風は後方からだ、声もしたから風の魔法だろう

 後ろを振り返り確認する

 そこには知っている人物が2人立っていた

 私は納得する

 確かに彼なら木々を吹き飛ばす芸当を出来ると


 ……今の魔法はどっちだろ


 今のは初めて見る魔法だ


「アナスタシア、何故ここにいる?」


 レオナルドさんが聞いてくる


 ……追ってきた? いやメモはこっちにあるし早すぎる


 エルダーグリフォンの事が記されたメモは今バックに入っている

 だから居なくなった事はわかってもここに居る事は分からない筈

 このメモ以外にはこの事を記した物は無い

 だから確信して追ってきたにしては早すぎる

 考えたとしても2択あるから

 既に姿を見られている今、隠匿のマントは意味が無い


「アナスタシア様!? 何故ここに」


 アルトが私が居る事に驚愕している


 ……あれ? 別に追って来た訳じゃない? 別の用事?


 アルトの反応は追ってきたにしては妙に感じる

 居たら見つけたと言う反応をする

 良く考えればレオナルドさんも発言や僅かな表情で此処に居る事を不思議に思っているように思える

 だとしたら何故この山に?

 それが分からない


「身体は大丈夫なんですか!? アナスタシア様が大荷物持ってますし!?」

「症状は抑えられてるから大丈夫、私達はエルダーグリフォンの討伐をしに来ました」

「なら良いんですが……エルダーグリフォンの討伐?」

「討伐……あぁ、高濃度魔素を持つ魔物の討伐か。確かにそれならここに来るのはおかしくないか」


 レオナルドさんは今の説明で理解したようだ

 近くの高濃度魔素を持つ魔物、危険度A相当の魔物はエルダーグリフォンとアンティリギアの2体

 それ以外は生息地が遠い

 だから今の私が行くならこの二択になる


「なら目的は同じなんですね」

「同じ?」

「タイミングが被った……いや、お前達の方が早かったか。私達もエルダーグリフォンの討伐に来た。盗賊団の一件があったから人員は割けず私達2人だけだがな」


 最強の騎士と言われるレオナルドさんと実力はレオナルドさんのお墨付きのアルトなら2人でも倒せる可能性はある

 そして目的が同じなら協力が出来るはず


「なら協力しましょう」

「いやダメだ」

「え?」

「お前たちは帰れ。聖女のお前が参加するのは助かるが魔力を使えば症状が出る恐れがある。それは身体を蝕む、大人しく帰れ」


 その通り、魔力を使い過ぎると吐血する

 確かに2人なら任せられるが確実とは言い難い

 危険度Aは強い魔物、なら戦力は多い方がいい

 それに元々その覚悟ありでここに来ている

 命を削ってでも今、やれる事をやる


「私も協力します。それか私達で挑みます」

「危険なんですよ! あっいや、危険なのは承知かそれでも……」


 私はここで引く気は一切無い

 レオナルドさんはじっと私の目を見る

 そしてため息をつく


「分かった、但しお前は支援に集中しろ。絶対に無理はするなよ」

「良いんですか?」

「どうやらこの聖女様は頑固のようでな。下手に無理をされるよりは私達が居る方が良いだろ」

「それは確かにそうですね」

「頑固……」


 私自身は頑固なつもりは無い

 ただ譲る気が無いだけ


「そうだろ」

「ちょっと不服です」

「荷物持ちます、その大きなバック重いですよね? よく持てますね」


 見て分かるくらい大量に物が入ったバック

 総重量はかなりな物だろう

 最も私はその重さを感じていないから分からないが


「あっ、大丈夫、今重さ感じないから」

「重さ感じない? 大丈夫なら良いですが……」

「お前らの予定は? 頂上は近いが」

「今日はここで休憩、明日の朝にエルダーグリフォンに挑む予定です」


 エルリカが私達の予定を話す

 私達は明日の朝挑む予定だった

 体力と魔力を回復して万全な状態で挑む


「私達はこのまま突っ込む予定だったが合わせよう。体力を回復させた方が良いしな」

「では休みましょう」

「準備は俺に任せてください」


 魔物避けの道具を置いて準備をする

 テキパキと手馴れた動きで準備を整える


 ……遠征あるって言ってたし野外で夜を過ごす事はあっただろうから慣れてるか


 休憩していると隣にレオナルドさんが座る

 アルトとエルリカが素早く準備していて入る隙が無い


「お前達の作戦は?」

「不意打ちで仕留める予定でした。それが失敗したらエルリカ前衛、私後衛で削るでした」

「不意打ち……そのマント魔導具か」

「はい、隠匿のマント、盗賊団のリーダーが持っていた物です」

「犯罪者の持ち物は原則騎士団が預かるんだがな」

「他にも3つ持ってます」

「合計4つか、まぁ奴は魔導具沢山使う戦法を得意としているからな。何がある?」

「防御魔法のネックレス、爆発する指輪」

「爆発する指輪? 使い捨てか?」


 ……ちょっと説明が下手だったかな。爆発を起こすかな?


 爆発する指輪だと指輪が爆発するように取れてしまう


「いえ、何度も使えます。爆発すると言うより爆発を起こす魔道具ですかね? これシールド砕く威力あるので中々強いんですよね」

「あぁなるほどシールドを砕くか。成程、それは厄介だな」

「はい、拳に乗せて撃つやり方をしてました。使います? 接近しないので」


 今回私はほぼ接近しないだろう

 だから私よりも近接戦闘のレオナルドさんが付けていた方が役に立つだろう

 必要が無ければ同じく前衛のアルトかエルリカに渡す


「そうだな、借りるとしよう。あと1個は?」


 道中も付けて魔力も事前に込めていたが使わなかった

 指輪を外して手渡す


「エルリカさんあれ」

「あれはあれですね」

「あれですよね」


 2人がこちらを見て何かを話している

 ただ遠く内容が分からない


 ……何話してるんだろ、仲良いなぁ


「無重の腕輪です。これは装備している道具と身体の重さを消す」

「あぁ、だから大荷物持ってたのか。お前が持ってるなら何かしてるんだろうなとは思ってたが」

「本当にこれを借りれて良かったです」


 普通ならメイドのエルリカが持つだろう

 ただ戦闘において私が後衛、エルリカが前衛なので私が持つ方が良く尚且つ私は無重の腕輪を付けている

 魔力消費も少ない

 これが無ければもっと時間掛かっていただろう


「聞く限りでもかなり優秀だしな」

「はい、これのお陰でバックに沢山詰め込めました」

「本当に便利だな。それをどうにか複製出来ない物か」

「普段から役に立ちますもんね」

「あぁ、騎士や兵士は防御を高める為に装備に重い素材を使っていたりするからな。それがあれば移動も早くなる」


 重さは単純な動きの邪魔になる

 重い隊服を身につけている騎士や鎧を身につけている兵士は日々それに困っている

 軽量化は施されているがそれでも動きの邪魔になる

 しかし、身に付けないと戦闘時に攻撃を受けたらほぼ負傷が確定する


「食事の準備が終わりました!」


 アルトが私達を呼びに来る

 料理の良い匂いもする


 ……この匂い、持ってきてなかったけどあぁ、2人が持ってきたのかな


 合流した事で食料の種類も増えて料理の幅が広がったのだろう

 飽きないように工夫はして貰っていたが単純に種類が増えるのは有難い


「そんじゃ行くか」

「ですね」


 4人で食事を取りながら作戦会議を始める

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る