病弱聖女は覚醒する

 ……死にたくない……まだ死ねない……まだ死ぬ訳には行かない


「あぁぁ!」


 私は叫ぶ

 薄れ行く意識を途切れさせないように叫ぶ


「私は……まだ……死にたくない! 私の役目を果たすまでは!」


 そう叫んだ後突然、目に燃えるような痛みを感じる

 突然の痛み、視界も半分失う

 それだけでなく身体に違和感を感じる

 何が起きたか分からない

 ただ分かるのは今ここで聖女の魔法を使えと誰かが言っている事

 私はヒール以外にも魔法を覚えているが全て治癒系の魔法で防御、攻撃の魔法はまだ習得していない

 でも私は聖女の魔法に関してのみは詠唱も名前も記憶している

 この場を打開する聖女の魔法で一つ思い浮かべる


 ……使ってみたかった魔法


 聖女の魔法の中で切り札とされる魔法

 ヒナですらまだ使えない魔法


「私は聖女の名を持って悪しき者を拒絶する! 聖女の御業は我が声我が命によって顕現する! 聖女の洗礼ネル・リヌワール


 この魔法を発動するにはそもそも魔力が足りていない、私の魔力総量では足りない程の規模の魔法だった

 だけど今は何故か使えると確信している

 そしてその確信通り魔法が発動する

 眩い光が魔物を包み消し去る


「……使えた?」


 私は驚きで暫く魔物が居た所を見る

 ハッとして両手のひらを確認する

 身体に宿る魔力が先程よりも増えているのが分かる

 突然失った視界も何事も無かったかのように元に戻っている


「何この魔力」


 すぐに私の魔力だと分かるがこの魔力量は軽く見積っても普段の私の数倍は余裕である


「ヒール」


 すぐに魔力を使って傷を癒す

 胴体の傷はみるみるうちに治っていき足も再生する

 魔力が減った感じがしない上いつも使えば負荷を感じていたがそれも無い

 病は治っていないが傷は完治した


「流石に服は治らないよね」


 私が着ているのは白い服、血塗れでボロボロ

 立ち上がる、問題なく立ち上がれて再生した足も使える


 ……この魔力量なら、今なら他の聖女の魔法が使える


 聖女には戦場で兵士、騎士を支援する為の支援系の魔法がある

 今までは使えなかったが今なら使える

 そうすれば問題無く移動出来る

 体力が無くなったらヒールを掛けて無理やり動けば街まで着く

 どのくらい掛かるか分からないけど時間をかければ行ける

 薬の効果も魔法で補える


 ……帰ったらどうしよう


 捨てられた私は家には帰れない

 捨てられた怒りはあるから殴るなり聖女の魔法で消滅させるなりは思い付くけど今まで育ててもらった恩がある

 恩を仇で返すのは私が憧れた聖女がやる事では無い


 ……いや、行き場所は決まってる。彼らの元に行かないと


「命を捧ぐ者に聖女は力を貸す戦聖女の声ベル・フェルース


 自分の身体能力を高めて歩く

 問題無く歩けるどころか身体が軽く感じる

 走れる、思いっきり走れる

 私は無邪気に走る、全力疾走をしたりと

 生まれて初めて思う存分走れる


「凄い! 凄いちゃんと歩ける走れる」


 涙を流す

 望んでいた事が叶った

 叶わないと思っていた事が

 歴代の聖女が使ってきた魔法も使え自由に動ける

 病は治っていないが充分過ぎる程の奇跡

 疲れるまで走ってヒールで回復する


「よし、満足、向かうかな」


 少し走って満足して街まで歩いて向かう

 時間をかけてヒールを定期的にかけて進む

 森から抜ける前に夜が来る

 聖女の魔法の一つに周囲を明るくする魔法がある、それを使い照らす

 照らす事で魔物を近寄らせない効果もあるが全ての魔物に通じる訳では無い


「確か魔物は夜に活発になる。急がないと」


 魔物を倒す術を得たとはいえ攻撃魔法は魔力の消費が激しい

 膨大な魔力を得たが無限では無い

 照らしながら真っ暗な森を突き進む

 夜が深くなってきた頃森を出られた

 平原が続いていてその先に城壁に囲まれた首都がある

 私が暮らしていた場所であり現在の目的地

 城壁内の一部にチラホラ明かりがついているのが見える


 ……城門の警備は兵士がやってる。めんどくさい


 門番を担当している兵士にも私を嫌う者が居てもおかしくない

 聖女の権力を使えれば良いが悲しい事に私にそんな物は無い

 しかし、城門以外からは入れない

 無理やり入れるがそれをしたら嫌われている以前に犯罪行為

 大人しく城門まで向かう

 城門に近くなると金属音と声が聞こえる


「援軍はまだか!」

「もう暫くかかるようです」

「ヒナ様が来るまで持ち堪えろ!」

「くっそが数が多い」


 どうやら魔物と戦っている様子

 複数の魔物を相手にして苦戦を強いられている


 ……ヒナが来るまで時間がかかってるなら仕方ない


 聞こえた声からしてヒナはまだ到着していない、ヒナは支援系の魔法を使える

 兵士や騎士達の事は嫌いだけど彼らが負ければ民達が傷付く

 それだけは許してはならない

 攻撃魔法を詠唱する


「光よ聖女の名を持って命じる、剣となりて悪しき者を打て! 光の罪剣ジャッジメントソード


 光が大量の剣の形を形成する

 魔物目掛けて飛んでいき刺し貫く

 味方に当たらないように気をつけながら放つ

 魔物を倒す


「この魔法は一体……」

「光、聖女様の魔法だ」

「ヒナ様か?」

「いや、ヒナ様はこんな魔法使えなかったはず」

「ヒナ様でなければまさかアナスタシア?」

「お久しぶりです。ルスティ騎士団長、無様ですね」


 私は騎士に話しかける、最後の言葉は聞こえないように小声で言う

 兵士と騎士の違いは位の違い

 平民が兵士、貴族が騎士という感じ

 ルーク・ルスティ騎士団長、この国の最高戦力と言われる騎士団長の1人で私の昔の友人

 年は22で私とは6歳差がある


「アナスタシア様、そのお姿は」


 私の姿を見て驚いたように聞く

 聞いては来るが心配している風には見えない

 仮にも知人にいや聖女相手に

 取ってつけたような敬語に気分が悪くなる


「少々厄介事に巻き込まれただけです。お気になさらず」


 適当に返す、話を長引かせるつもりは無い


「先程の魔法はアナスタシア様が?」

「そうです。ルスティ騎士団長、城門を通る許可を」


 許可が出ればすぐにでも話を終える

 ルスティ騎士団長と話を続ける気は無い

 話しかけた理由は騎士団長なので現場で一番立場上っぽいから、そうでなければ話しかけなかった


「それならどうぞお入りください」

「では失礼します」


 さっさと城門を潜って中に入る

 入る前に照らしていた魔法を解除する


「お待ちください、先程の魔法は一体」

「後々分かる事になります」


 それだけ言って目的地に向かう

 目的の人物に会ったらすぐに明かす予定

 この力について私もほぼ何も知らない

 光で足元を照らしながら走ってくる音が聞こえる

 その方向を見るとヒナと数人の騎士が城門に向かっていた


「戦闘音が止んだ?」

「音が止みましたね。戦闘が終わったのでしょうか」

「だとしたら恐らく……」

「急ぎます!」

「はい!」


 ヒナ達とすれ違う

 別に話しかける用事も無いのでそのまま歩く

 目的地は城

 目的の人物は真夜中だが恐らく起きている

 城まで歩いていく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る